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68:何故に私まで。

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 ふと、人の気配を感じて目蓋を押し上げると、視界いっぱいにテオ様がいらっしゃいました。

「チッ、起きたか」

 どうやら、待ち長すぎて眠っていたようです。

「ん……テオ様、大丈夫でしたか?」
「何がだ?」
「王太子殿んっ……」

 急に声を奪われました。
 テオ様の唇によって。

「……っ、他の男の名前を呼ぶな」

 他の男と言われましても、そもそも敬称ではありませんか。他にどう呼べと⁉
 お名前で呼ぶのは憚られますし、そもそも絶対にテオ様が荒ぶられますし……。

「……お義兄様?」
「っ⁉ 絶対に駄目だ! 何だそれは! 破壊力しかないじゃないか!」
「えぇぇぇぇ……」

 とても呆れた声が出てしまったのは、仕方がないと思います!



 ちょっと寝乱れていたガウンの衿を正し、起き上がりましたら、テオ様がじぃぃっと私の胸元を見てきます。

「湯に入ってくる…………一緒に――――」
「お先にいただきました」
「チッ」

 チッ、とか言われましても。
 例の夜着を着ろと言ったのはテオ様のくせに。
 暫くプンスコしていましたら、腰にバスタオルを巻いたテオ様が、濡れた髪の毛をタオルでガシガシと掻き回しながら戻られました。
 綺麗なお顔に似合わず、ちょっと雑です。
 あと、あれでは絶対に髪の毛が絡まります。

「きちんと乾かしてもらいましょうよ……」

 テオ様にも入浴を補助するメイドがついています。
 若い女性は嫌だと言って、老齢の元メイド長を専属として置いていらっしゃいます。

「嫌だ。ばぁは時間がかかる」
「無理矢理に雇っているのはテオ様でしょう! 婆やさんが可哀想ですわ。もうっ。ほら、ここに座ってください!」

 テオ様にベッドに座ってもらい、タオルを取り上げました。
 テオ様の前に立ち、ジュックリと濡れたシルバーブロンドの髪の毛を、タオルで押さえるようにして、水気を吸わせました。

 ――――髪の毛が長いくせに、タオル一枚でなんとかしようなどと!

 慌ててもう一枚タオルを用意し、包み込むようにして、水気を吸わせる作業を続けました。
 テオ様は私の腰に腕を回し、胸に額をくっ付けて、乾かすのを邪魔してきます。

「テオ様、乾かし辛いですわ」
「ん……このまま」
「どうしたのですか? 王太子殿下に怒られましたか?」
「……ん」

 ――――あら?

 本当に怒られたようで、凄く落ち込んでいらっしゃるように見えます。
 よしよしとまだ乾ききっていない頭を撫でると、胸の谷間にお顔をギュムッと押し付けて来られました。
 チロチロと舐められている気がするのですが、取り敢えずスルーしてみます。

「兄上が…………今日で休暇を取り消す、と」
「あら、まぁ。何故ですか?」
「将軍がこちらに向けて出航してしまった」

 将軍。将軍様、何だかつい先程聞いたような気がいたします。

「もしかして、アンジェリカ様のご婚約者の?」
「ん」
「えっ、まさか、戦に?」
「いや。アイツを迎えに、だろう。だが、船団で来ているらしいから、こちらも船団を用意し、海上で出迎えて、一緒にこちらへ戻る事になった」

 ――――あら?

 何だか、とても嫌な予感がします。

「どなたが?」
「私が……」

 あら、やっぱりですのね。
 テオ様がお船に乗られるのですか。
 でも、他国の重要人物の出迎えという大役、大丈夫なのでしょうか?
 言葉的に。

「明日の昼に出航する。…………ミラベルも通訳として連れて行く事になった」
「えっ……」

 ――――何故に私までぇ⁉


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