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61:君子危うきに近寄らず。
しおりを挟む四阿からは見えないところで騒いでいた人達が、徐々に近付いて来ました。
どうやら四阿の裏手にある道を通って、中庭に入って来たようです。
「ここは王族のみが利用出来る場所ですので、どうか――――」
「無礼者! 私も王族よ!」
――――王族?
「あっ! セオドリックさまぁ、お会いしとうございましたわ!」
テオ様と良く似た色合いのプラチナブロンドをサラリと靡かせ、随分と欲情的なデザインの真っ赤なドレスを纏った、絶世の美女とも言えそうな方が、足早に近付いて来られました。
私よりも頭半分ほど背が高く、とても艶めかしい体型と雰囲気の方でした。
「我は貴様を召喚した覚えはない。去れ、煩き者よ」
女性に向かって『貴様』はちょっと酷いのでは……と思ったのですが、無駄な心配だったようです。
「私はセオドリック様の婚約者ですから、ここを去る必要は無いですわ!」
「……え?」
なんにも響いていませんでした。
それどころかテオ様のお言葉を完全にスルーし、テオ様の腕に抱きつかれました。
あれは昔見た『お胸たゆん・ぽよん』技ですわね。
押し付け、見せ付け、おっぱい大好きなテオ様を簡単にホイホイする技です。
「……きもちわるい」
「まぁまぁ、照れているのですね? 存外ウブなのですね!」
――――ウブ。
ウブとは、と考えていましたら、ザラがストールを、リジーは温かいお茶を新たに用意してくれました。
テオ様が横からいなくなったせいなのか、少し寒く感じていたので、ちょうどよかったです。
「ありがと」
「いえ。お部屋に戻られますか?」
「……もう少し様子を見たいわ」
「かしこまりました」
それから十数分ほどテオ様とグラマラスな女性の言い合い……というか、一方通行の主張しあい? を眺めていましたら、急にグラマラスな女性がこちらを指差しました。
「まぁ、セオドリックさまったら。あんな乳臭そうな小娘を誑かすなんて、罪深い人っ。愛人にされますの? それにしても無礼な方ですわね。先程から私の存在を無視して挨拶もしないなんて。不敬罪にしてしまおうかしら?」
「おい、コイツを牢屋にブチ込め!」
テオ様が騎士に物騒な事を命令していました。
「まぁ! セオドリックさまったら! 私の事をそんなに気にかけてくださるのね。挨拶をしなかったくらいで牢屋に入れるのは可哀想ですわよ?」
「「……」」
えっと、さっき貴女が『不敬罪』と言いませんでしたっけ? あと、テオ様の『ブチ込め』は貴女の事だと思います。……とは、言っては駄目なのでしょうね。たぶん。
この女性はテオ様と別の方向で言葉が通じない方のようです。
取り敢えず、遠くから眺めていたいですわ。
ええと、前世で何か良い名言がありましたね……。
――――あ! 君子危うきに近寄らず!
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