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52:何て恥ずかしい事を……と言うところ。
しおりを挟む「ほら」
「あ、あーん。んっ」
「ん。美味いか?」
「はひ、おいひいです」
テオ様がフォークに刺したミニトマトを更に差し出して来たので、恥ずかしさをグッと堪えて、パクリと口に含みました。
張りのある皮に歯を立て、くしゅんと噛むと、トマトの酸味が口内に広がりました。
ミニトマトって、凄く、朝! って感じです。
ムグムグと食べていると、今度はほうれん草のベビーリーフっぽいものなどが三枚ほど刺さったフォークを差し出されました。
ミニトマトをゴクリと飲み込んで、さらにそれらを食べ……食べ…………食べ⁉
「ちょ、ちょっと! いつまでこれするんですか⁉」
「ん? 全部だが?」
「それもう、介護の領域ですわよっ!」
「ぶふっ……」
テオ様が軽く吹き出し、ぷるぷる震えながら声を上げて笑い出すのを我慢していました。
この隙きにと自分のフォークを握り、自力でガッツリ食べました。
「おい、そこは私にも『あーん』するところだろう。そして、『あっ、ムキになって……わたくしったら、なんて恥ずかしい事を』とか言って頬を染める流れだろうが。何をもっさりガッツリとサラダ食べ終わらせているんだ」
「もっさり盛ったのテオ様ですし。あと標準語に戻ってますわよ」
「チッ」
普通に舌打ちされました。
何かモヤッとしましたので、あぁ⁉ やってやろうじゃないか! と立ち上がり、カットチーズが置いてある所にに行きました。
美しい色合いのチーズの塊にフォークを刺しましたら、チーズが割れてしまったので、割れた三センチ角の塊を指で掴み、テオ様の隣に戻りました。
「はい、あぁぁんっ!」
「食べるかぁぁ!」
「あら、とても美味しいですわよ?」
テオ様が大好きな青カビチーズを差し出しましたら、全力で拒否されてしまいました。
「臭い! エグ臭い!」
「あら、パスタやグラタンのソースに混ぜると美味しいのに」
「……嘘つくな。あとそうだとしても、それは生だろ」
「嘘じゃございません! はい、あーん!」
ズイッと更に差し出しましたら、ちょっと本気で怒られました。
青カビチーズは給仕に回収されてしまいました。
ちょっと騒がしめの朝食が終わり、今日こそ! とピクニックをしています。
木の幹に背もたれて、春の風を受けながら、のんびりと湖畔を見つめ、なんてことない話をする。
それだけなのに、とても楽しく、とても幸せな時間です。
「ふあぁぁ、眠い」
テオ様がポフリと私の太股の上に頭を乗せると、小さな声で「幸せな時間だな」と言われました。
同じ事を同じタイミングで考えていたなんて。
あぁ、なんだがドキドキします。
ウトウトするテオ様の頭を撫でていると、サラッサラのプラチナブロンドなストレートロングヘアーが、指に一切絡まない事に気が付いて、軽くイラッとしました。
「……おい、顔」
「なんですか?」
「いや、何があったらこのタイミングで、そんな苦虫噛み潰したような顔になるんだ」
「ぶぅえっっつにぃぃ、サラッサラで羨ましいとか、思ってませんしぃぃ」
精一杯の強がりをしていましたら、テオ様がお腹を抱えて笑い出してしまいました。
「ハァハァ……腹が痛い。ミラベルは可愛いなぁ」
「……ふんっ」
そっぽを向いていましたら、テオ様が下から私の髪に触れ、耳殻をくすぐり、頬を撫で、親指で下唇をそっとなぞりました。
「ミラベルの髪はふわふわで甘くて美味しそうだ。私は好きだぞ」
「っ、そう、ですか」
「ん。真っ赤で可愛い」
テオ様が何だか楽しそうにクスリと笑いながら、また親指で下唇をなぞるように撫でてきました。
その動きは、何だかちょっと艶めかしいキスのようで、私の心臓はバクンバクンと早鐘を打ってしまいました。
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