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42:ラップ音が煩い。
しおりを挟むぱちりと目を開くと、目の前が真っ黒でした。
いつの間にか寝返りを打ったのか、打たされたのか、テオ様と向かい合って抱きしめ合う形になっていました。
温室から見える空はまだ青い事から、そんなに長くは寝ていなかったのだと思います。
抱きしめられていて動けないので、静かに眠るテオ様の顔を見上げました。
彫刻のように整っていて、肌はスベサラで、まつ毛はバシバシと鳴りそうなほど長くて、薄い唇は思ったより柔らかくて……。
「……テオ」
ぽつりと溢れた、目の前の人の名前。
好きな人の名前。
何だか凄く照れくさくて、凄く凄く幸せで、テオ様の胸に顔を埋めてスリスリと左右に振ってみたり、右手を伸ばして、テオ様の頬をつつつと撫でてみたりしました。
「…………好き」
「そういうのは、起きている時に目を見て言ってくれ」
「なっ⁉」
好き、と言ったのに瞬間に、パチリと目蓋が開き、青と黒の瞳と目が合いました。
「ねっ、ねねねねてっ⁉」
「ん、目を瞑っていただけだ」
「っ…………おっ、お花を摘みに行って参りますっ!」
「ふーん」
ふーんって何ですか! 生理現象です! 私はお手洗いに行くんですっ! と心の中で叫びながら走って逃げていましたら、後ろから楽しそうな笑い声と「転けるなよ」と少しの優しい気遣いが聞こえて来ました。
何だか悔しいです。
夜は皆様と晩餐をする事になりました。
テオ様が全員が席に着いた事を確認するように見回した後、テーブルに両手をついてガタリと立ち上がられました。
「我らの心と身体は重なった。アモール エスト アエテルヌム!」
「「……」」
朗々と、大きな声で、『ラブ イズ フォーエバー!』みたいな事を言われました。
てか、身体を重ねた覚えとかありませんが⁉
何故に皆様は私を見るのでしょうか?
何故にテオ様はキラッキラした笑顔で私を見つめていらっしゃるのでしょうね?
前菜でもいただきましょうか、とフォークを握りましたら、何故かテオ様の右手辺りのテーブルにフォークが刺さるように飛んで行ってしまいました。
「あらあら、フォークが落ちてしまいましたわ。新しいものを下さる?」
笑顔で給仕の者にお願いしましたら、何故か顔面蒼白で激しく頷かれました。
「赤き果実よ、完全に狙い定めていたであろう⁉ 危ないではないか!」
「ガントレット嵌めてありますし? 刺さったところで特に問題ございませんでしょう?」
「ありまくりだろ……何故にキレているのだ」
テオ様がしょぼーんとしていますが知りませんっ。新しいフォークをいただいて、一人で勝手に食べ始めました。
「ええっと……仲直りして、両想いになったの…………よねぇ?」
「うむ!」
「ミラベルがちゃんが婚約者でいいの……よねぇ?」
「うむ!」
王妃殿下が何故か恐る恐る話されて、テオ様が張り切って答えて、の応酬が続いていましたが、無視してサーブされたばかりのスープをグビグビといただきました。
もうちょっと落ち着いて食べろ、おやつを食べたのにそんなに腹が空いてたのか? とか聞こえません。聞こえませんったら聞こえませんっ!
テオ様をシバキ倒したい欲求をぐぐぐっと我慢しつつ晩餐を終わらせ、テオ様を置いて部屋に戻りました。
お風呂に入り、寝支度を整えて、バルコニーへの扉の内鍵、窓の鍵、続き間への家具を指差し確認しました。
「全てよーし! おやすみザラ!」
「…………おやすみなさいませ」
無駄な抵抗ですのに……とか、ぽそりと聞こえた気がしましたが気の所為ということにします。これだけきちんと施錠しているのです。大丈夫なのです。
「……」
物凄く、ガッチャガチャガッチャガチャガッチャガチャガッチャガチャ煩いです。
続き間から始まり、バルコニーの扉、窓の全てが、ガッチャガチャガッチャガチャ「ミラベルー」ガッチャガチャガッチャガチャガッチャガチャガッチャガチャ「ミィィラベルゥゥ」ガッチャガチャガッチャガチャ、とラップ音が鳴っています。
「あーやだやだ、怖いわー。何で幽霊が私の名前を知っているのかしら? ほんと、怖いわぁ!」
ほぼ棒読みの状態で独り言ちていましたら、静かになりましたので、全身黒ずくめの幽霊は諦めたのでしょう。
そうだわ、遮音性の高い耳栓を買おうかしら? なんて事を考えながら、目を瞑りました。
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