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39:私がいなくなれば。

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 私は『寄生令嬢』という噂を聞いた事で気が付いたのです。
 そういった噂や嘲笑があるという事は、複数人のご令嬢ないし、そのご家族がセオドリック殿下と婚姻を結びたいと考えていて、私が邪魔だと感じているのだと。
 しかも、そのご令嬢達は確実に私より年上で、結婚適齢期の候補者なのだと。

 ――――だって、『貧相』ってそういう事なのでしょう?

 噂のように、私自身はまだまだ子供で、貧相で、自領は貧しく、王妃殿下達に助けていただいてやっと成り立っている状態でした。

 セオドリック殿下は段々と男らしくなっていて、なのに王妃殿下に似て煌めくような美しさも兼ね備えていて、茶会や夜会に参加するたびに、ご令嬢達が頬を染め、目を輝かせていました。

 セオドリック殿下の目に留まろうと、積極的にアピールする方も多くいらっしゃいました。
 『まだ幼いミラベル様には出来ない事も多いでしょう? お手伝い致しますわ』なんて言いながら、殿下の腕に胸を押し付けたりして、性的な事を匂わせてっ!

「どうせ私はぺったんこで、すっとんとんですわよ!」
「…………そうか?」
「あの頃は、ですっ!」

 テオ様がじーっとこちらを見つめ、そそそーっと私の胸に手を伸ばして来ました。
 何故か私の右胸を鷲掴みしてニギニギして来ましたので、手の甲をつねって胸から外し、力いっぱい叩き落としました。
 何故かこちらを睨んでいますが知りませんっ!

「殿下は殿下でご令嬢方の胸をチラッチラ、チラッチラと見ていらっしゃいましたし⁉ 私はそういう事も含め、殿下に相応しくは無いのだなと思ったのです」
「あ……いや、あれは、その…………」

 テオ様が何やらモゴモゴと言われてますが、聞き取れませんし、話を続けたいと思います。

 日に日に格好良くなっていくセオドリック殿下が好きでした、恋していました。
 執務をお手伝いされるようになって、様々な人と接するようになって、『セオドリック殿下はやれば出来る』と皆が言うようになり、とても嬉しかったのです。
 元々、古代語をしつこいくらいに使われていましたし、二人でのお茶会でもよく読書をされていましたので、勉強が嫌いなわけでも、出来ないわけでも無い事は知っていました。
 皆が殿下の事を見直して、認めて、褒める。
 とても嬉しかった。

「でも…………私が、いるから、セオドリック殿下の『厨二病』が治らないのだと言われて…………耐えられませんでした」
「は⁉」

 私が殿下を邪魔している。
 私がいるから殿下は厨二病を止めない。
 私が殿下を洗脳している。
 私が殿下をおかしな道へと引きずり込んでいる。
 私が……。
 私が…………。
 私が………………。

「私が、いなくなれば、全てが解決するのでしょう? 殿下は皆の望むように普通になり、殿下の大好きなお胸の大きな美人のご令嬢と結婚して、幸せに――――」
「なんでそうなる!」

 急に低い大きな声を出されて、体がびくりと震えました。本気で怒る男の人は……ちょっと怖いです。

「っ、怒鳴らないでくださいませ……」
「す、すまん。ミラベル、何故それをあの時、私に言わなかった」
「言いました」
「ミラベルがいなくなれば凡庸になるとしか言われてない」
「だから、そう言ったじゃないですか」

 テオ様が両手で顔を覆い、天を仰ぎ「違う、そうじゃない」と言われますが、全く意味が解りません。
 今度は下を向いて大きな溜め息を吐いたテオ様が、じっとこちらを見て、私の頬を両手で包み、顔を逸らせないようにされてしまいました。

「ミラベル、何故、私に相談してくれなかった。いわれもない噂で傷付いていると、悲しいと」

 殿下の美しい双玉が怒りと寂しさを滲ませながら、私を捉えて逃してくれません。
 また涙が滲み出そうになり、ぎゅっと目を瞑りました。

「そんな惨めな事、殿下にだけは知られたくありませんでした」

 その瞬間、私の唇には柔らかく温かいものが触れていました。


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