36 / 196
36:やっと逢える。 side:セオドリック
しおりを挟む私はずっと待ち続けた。
多少ズルをして、アップルビー領に手の者を送り込んで、ミラベルの様子を報告させたり、ミラベルが開発したという料理を早馬で傷む前に持ち帰らせたりもした。
楽しそうに、伸び伸びと過ごしていると聞いて、少し寂しく思った。
そして、側にいつも同じ騎士の男がついていると聞いて、怒りに燃えたり、焦燥を感じたり、泣きそうな気分になったりもした。
――――もう、辞めたい。
ミラベルと離れ離れになって三年経った頃、そう思って『魔王』を減らしていく事にした。
兄上の政治的地盤もしっかりとし、私の地盤はガタ崩れなので、私が多少普通にしていても、兄上の転覆を図ろうという者はもういないのでは無いかと。
……だが、駄目だった。
ちょっとでも話が通じると思うと、操ろうとして来る者がいた。
その度に兄上に報告し、対処していくが思うようにいかない。
何故そんなにも私達を対立させたがるのだ。何故、私が兄上を慕っているという言葉が『お労しい』になるのだ。
結局、皆の前では『魔王』のままがいいのだろう、という結論に落ち着いた。
五年経ったある日、ずっと気になっていた事を母上に確認した。
「母上、ミラベルはデビュタントボールに来てくれるのでしょうか?」
「うーん。シーズンのお茶会は全滅だけど、デビュタントボールは流石に来ると思うわよ」
「祝いに宝石を送りたいのですが、それも駄目でしょうか?」
「聞いておいてあげるわ」
「ありがとうございます」
――――ミラベルに、逢いたい。
背は伸びただろうか?
髪の毛は?
ぷるぷるの唇は?
可愛らしい声は?
ピンク色の頬は変わってないだろか?
あの金色の瞳で、私をまた見つめてくれるだろうか?
私を見て微笑んでくれるだろうか?
あの時は怒ってごめんと謝ったら、受け入れてくれるだろうか?
跪いて愛を囁やいたら、喜んでくれるだろうか?
時に悪態を吐いたり、怒ったり、ころころと笑ったり、頬を染めて照れたりするミラベルが見たい。
エスコートに差し出した腕に、なんの迷いもなく手を添えて、私を見上げて微笑んで欲しい。
ミラベルはデビュタントボールに参加する為、王都に来るとの事だった。贈る宝石は、母上が用意したドレスと共に贈る事になった。私からと書かないのならばと言われた。
宝石商と話し合い、ジュエリーデザイナーとも話し合い、ミラベルに似合う最高級で最新の物をポケットマネーで買った。
――――また、私の色を纏ってくれるだろうか?
待ちに待ったデビュタントボールの日、城の馬場の近くに潜み、アップルビー家の馬車が来るのをずっと待っていた。
ミラベルの両親からエスコートはいない、伯爵も父親も断ったと聞いていたのだ。
だから、馬場からエスコートしようと思っていた。
――――やっとだ! やっと逢える!
浮足立っていた私の心は、一瞬で打ち砕かれてしまった。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる