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35:『魔王』になれない。 side:セオドリック

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 忘れもしない、婚約者になってから五年ほど過ぎたあの日。夜会の準備でミラベルが王城の部屋にいると聞いて、逢いに行った。
 いつも通りに部屋に入ったら、まさかの着替え中だった。

 ――――なぜ鍵を掛けていないんだ!

 慌てて、後ろからついてきていた補佐官のコーディに部屋から出るように命令した。
 ミラベルは半裸を見られたというのに、私が見ているというのに、特段恥ずかしがったり騒いだりせず、侍女にガウンをもらって羽織っていた。
 解っていた。
 私はミラベルにとって『男』ではないのだと。解ってはいたが、その現実がこうも苦しいものだとは思ってもみなかった。



 何故こうなったのか解らない。
 それが正直な私の気持ちだ。

 ミラベルが話があると言うから聞いていた。
 私と婚約を破棄すると言われた。
 ずっと『魔王』を続けているからだと言われた。
 
「殿下に厨二病をお止め頂くためです。公の場で、公務で、振る舞って許される年齢ではなくなるのですよ」

 ――――解っている!

「通訳出来てしまう私が側にいては、甘えが出てしまうでしょう?」

 ――――違う!

「我を凡庸な人間にしたいと」
「凡庸ではなく、普通です。普通に話して、普通に友人を作って、普通に臣下に接して欲しいのです」

 ――――違うんだ!

「ハッ! それが凡庸だと言っているのだ! そうか…………私が今から凡庸に振る舞えばミラベルは満足なのだな⁉」

 ――――違うと言ってくれ。

「っ……はい。そうすれば、きっと良い妃殿下も見付かるはずですから」
「は?」

 今、ミラベルは何と言った? 耳鳴りが、目眩がする……。

「ですから、妃殿下を――――」
「ミラベルが私の妃になるのだろうが!」
「違います。ですから、解消させていただきますと、お伝えしているではありませんか!」

 どういう事だ? ミラベルの言葉が理解出来ない。
 何故、その口で他の女を勧めるんだ。
 私との五年は何だったんだ……。

「……ミラベルは私と婚姻する気が無いのか?」

 あぁ、さっきから『標準語』を話してしまっている。『魔王』になれない。

「はい、ございません」

 ――――即答か。

「王城から出て行け……今すぐに! 私の前から消えろ!」
「…………承知、しました」

 デイドレスに着替えたミラベルを見送る途中で、視界がぼやけ出した。馬場までは見送ろうと思ったのに、出来なかった。



 母上が婚約解消の許可を出したと聞き、問い詰めた。

「何故ですか。初めは母上が薦めて来たくせに」
「だって……ミラベルちゃん苦しそうなんだもの」
「私が苦しめていたと?」
「えーっと、うん」
「っ…………私のせい」
「え? セオドリック、ミラベルちゃんの事、好きだったの?」

 何故、そんな当たり前の事を聞かれるのやら。

「愛しています」
「えー?」

 ――――何故そこで『えー』なんだ。

「全然伝わってないわよ?」
「…………。で、何故、許可を?」
「無理矢理セオドリックの婚約者にした事、陛下にバレちゃったのよ。ミラベルちゃんが嫌だと言ってきたら受理するようにって言われてたのよねー。っていうか、セオドリック、普通に話してるじゃない! え⁉ 何で⁉」
「……必要にかられたので」

 その後もごたごたワチャワチャと家族で話し合い、ミラベルは私の婚約者のままにしてもらった。
 ミラベルの両親にそれを伝えると了承してくれたが、条件を付けられた。

 ・私から会いに行かない事。
 ・私から連絡を取らない事。

 だからずっと待っていた。
 なのに、ミラベルは領地に帰ってしまった。
 ミラベルは領地でとても楽しそうにしているという情報だけが寄越された。
 それからも待ち続けた。
 何があっても我慢し、ミラベルからの連絡を待ち続けた。渇望と絶望を抱きながら……。


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