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33:傀儡の王子 side:セオドリック
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国の事や王族の務めなどまだ何も分からない、ただ庭で犬と遊んだり探検したりが楽しかっただけの幼い頃が懐かしい。
五歳になったある日、王族としての勉強が始まった。
学ぶ事は楽しかった。教師から褒められ、父上母上からも褒められ、特に兄上から褒められる事がとても嬉しくて、さらに勉学に励んだ。
いつからか、仕事や議会などに参加するために登城している大人達から話し掛けられる事が増えてきた。
『先王陛下の生き写し』『王族たっての天才』などと持て囃された。
帝王学などを学んでいくうちに、私は兄上に何かあった時の控えであり、大人になったら兄上を支える存在になるのだと悟った。
それは、自分を卑下している訳でも何でもなかった。
私から見た兄上は、とても立派な人間で、男らしい様の中に優しさも持ち合わせている憧れの存在だった。
私に近付いてきていた大人達は、『宰相や教師達に操られている』『正しくない思想を詰め込まれている』と判断したらしい。
いくら私が兄上を尊敬している、兄上ほど王に相応しい人物はいないと言っても、聞く耳を持たず『おいたわしや』と憐憫の目で見られるだけだった。
派閥争いの中で、担ぎ上げ、傀儡にする為の王子。
私はソレだった。
私は全てを包み隠さず、父上や母上、兄上にも話していた。
既に立太子しているのに、諦めない者のなんと多い事かと、父上も母上も呆れられていた。
兄上はそういった派閥争いがある事で見えてくるものもあるだろうからと、明らかな犯罪に手を染めそうな者以外の事は静観されていた。
だが、私は納得がいかなかった。
誰もが私が兄上を尊敬している事を否定しているように感じており、とても悔しかった。兄上の事を軽視する者達がいることに憤っていた。
そんなモヤモヤとした思いを抱いていたある日、兄上の城下町視察に同行させてもらい、色んな場所を見て回った。色々と話を聞いた。
広場で真っ黒のマントを纏った少年と、真っ白なマントを纏った少年が『騎士様と魔王』ごっこたるものをやっていた。
騎士達曰く、最近大人気の絵本で、白が騎士、黒が魔王で、魔王に拐われた姫君を助ける冒険譚なのだとか。
「でも、あの本の魔王、ちょっとイタいんですよね」
「ははは、あのくらいの頭の可笑しさが悪役として丁度良いのだろう。子供にも人気のようだしな」
兄上と騎士の話を聞きつつ、子供達が『ごっこ』をやっている様子を見ていた。
「マオウめ! ヒメをかえすんだ!」
「ふっ、おろかものめ! そういわれてかえすバカがどこにいるというのだ! やみよをまとい、しんえんからうまれた、わがけんぞくのものどもに、くわれるがよい!」
「ひきょうだぞ! いちたいいちで、しょうぶしろ!」
兄上達は良くセリフを覚えているな、などの感心を口にしていたが、私はこの『ごっこ』を見て天啓を得た。
「兄上! 私も『騎士様と魔王』が読みたいです! 図書館にありますか?」
「図鑑好きのお前が物語に興味を示すとは珍しいな。図書館には無いかもしれない。私のをあげよう」
「よろしいのですか⁉」
「ああ、勿論だ」
兄上が楽しそうに笑い、私の頭を撫でてくれた。
この時、兄上は私が外の様子を見て、体験し、色々なものに興味を持った事で、一緒に来てよかったなと殊更喜んでいたようだった。
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