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32:呼ばぬなら呼ばせてみせよう。
しおりを挟む「ところで、いつまでこの体勢を続けたらよろしいのですか?」
そろそろ普通にソファに座りたいです。
横向きに座り直したせいで、背中に添えられた手はあるものの、何となく不安定なのと、セオドリック殿下の顔が近すぎてどこを見たらいいのか分かりません。
「……もうちょっと、ミラベルを抱きしめていたい」
「っ⁉」
――――何故ここで標準語ですの!
妙に鼓動が早くなったのを悟られたく無くて、少し体を離そうとしましたら、セオドリック殿下の腕に力が入り、向かい合わせで抱きしめられる形になってしまいました。
私も殿下もそれぞれの首筋に顔を埋め、傍から見たら完全に恋人のようではないか、と思った瞬間、心臓が破裂しそうなほど脈打ち始めました。
「でっ、殿下!」
「セオドリックと呼べ」
「……セオドリック殿下」
「違う」
「えぇ?」
セオドリック殿下が大きな溜め息とともに人の事を鈍感などと言われるのでちょっとムッとしてしまいました。
「殿下に言われたくありません」
「ハァ……ならば『テオ』と呼べ」
「…………ぇ」
『テオ』はセオドリック殿下の幼少時の呼び方で、それはご家族や親しい方しか呼ばないもので、私にそう呼べと…………え?
「呼ばぬのなら、呼びたくなるようにしてやろう」
「え……っぅん! えっ、ちょっ……」
セオドリック殿下が私の首筋にキスを落とし、唇を徐々に上に移動させて、耳たぶをパクリと咥えてしまいました。
「ミラベル」
「っ! そっ、そこで話さないで下さい」
「呼ばぬなら、もっとする」
「……て……てぉ」
「もう一回」
「っ…………テオッ」
「ん、いい子だ」
セオドリック殿下が耳たぶをもう一度咥え、軽くハムハムした後にチュポンと外し、よしよしと頭を撫でて下さいましたが、全然嬉しくありません。
――――全然嬉しくなんて、無いんですっ。
殿下の肩におでこを乗せて、何故か乱れた息を整えました。
「…………何なんですか、何がしたいんですか」
「ん、愛してる」
「っ!」
この流れで囁くように言われるなど思ってもみなくて、びっくりしすぎて顔を上げて殿下を見ると、美しい異色の双玉を柔らかく細め、ちゅ、と軽く唇にキスして来られました。
「ふっ、真っ赤だな」
殿下の幸せそうな微笑みが眩しくて、あまりにも綺麗で、目が反らせません。
「ミラベル、五年間寂しかった」
「殿下……」
「違う」
「テ、テオ?」
「ん!」
名前で呼ぶと、さらに嬉しそうに微笑み、啄むようなキスを何度も落とされました。
「我は……ミラベルの言う『チュウニビョウ』を辞められぬ。それでも……側にいて欲しい」
「辞められない……?」
辞められない、とはどういう意味なのでしょうか……。
きょとんとする私に、少し苦笑いをしつつ、セオドリック殿下はゆったりと話し始めました。
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