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27:だいっきらい!

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 少し仮眠しなさい、これからどうしたいかはミラベルちゃんが決めていい、出来ればセオドリックと話し合って欲しい、という言葉を残して、王妃殿下は帰られました。

 暫くの仮眠を取った後、冷水に浸したタオルで目元を冷やしながら両親や兄夫婦の事をザラに確認しました。
 元々は私のデビュタントボールが終わったら一度領地に戻り、兄夫婦は二週間程度でまた王都に戻り、社交シーズンを王都で過ごす、両親は出る茶会や夜会に合わせてその都度王都に、という予定でした。

「そう。一度戻りはするものの、お父様もお母様もこちらにいてくださるのね」
「はい。お嬢様の荷物は戻りしだい王都に送って下さるそうです」
「……そう」

 目元からタオルを外し、ザラの入れてくれたお茶を飲みながら、もう一つの気になっていた事を確認しました。

「……ロブはどうしているの?」
「ロブはこのままこちらに残るそうです」
「でも、この居住区には入れないでしょ?」
「はい。なので、こちらで近衛騎士になるそうです」
「え……」

 今朝、お父様に退任の許可を取り、王城騎士の中途登用試験を受け、ボロッボロになりながらも採用されたとザラが言いました。

「ロブはどこにいるの⁉ 大丈夫なの⁉ ロブのところに連れていってちょうだい!」
「ですが……」
「お願い!」

 ザラが渋々了承して、ロブが訓練に参加しているという場所に連れて行ってくれました。



「ロブ!」

 王城内にある訓練場で打ち合いをしていたロブを見付け駆け寄りました。
 ロブの頬は赤く擦り切れたようなケガが何ヶ所かあり、袖まくりしていた腕には包帯が巻いてありました。

「ロブ!」
「ちょ、お嬢! 訓練中ですよ! 危ないですって」
「何してんのよ!」
「え? 訓練っすけど?」

 キョトンとした顔のロブにイラッとしました。

「馬鹿じゃないの⁉ 領地に帰りなさいよ!」
「嫌っす」
「ご両親はどうするのよ」
「手紙書いたから大丈夫ですよ」
「……ロブの馬鹿!」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿、って昔からお嬢が言ってますけど?」

 騎士の訓練場でロブと言い合いを続けていたら、急にロブの姿勢が良くなり、いきなり敬礼したのでちょっとびっくりしてしまいました。

「は? ロブ? 何してるのよ?」
「……赤き果実」

 後ろからセオドリック殿下の声が聞こえました。

「お前達は訓練を再開せよ! 赤き果実はこちらに来い」
「え、ちょ、ちょっと……」

 セオドリック殿下が騎士達に声を掛けた後、私の左手首をガッチリと掴み、ぐんぐんと歩き出してしまいました。

「セオドリック殿下っ!」

 中庭に差し掛かったところで居住区に戻っていると気付いて、殿下から手を取り戻そうともがきました。

「っ……そんなにか」
「はい?」
「そんなにあの男がいいのか!」

 殿下が急に怒鳴りました。あまりにも低く大きな声で体がビクリと跳ねてしまいました。

「あの男を王都に残らせ、次は何をねだった? 近衛になれと言ったのか? 近衛になったら部屋に呼ぶのか? あの男を囲い、愛を囁くのか?」
「……は?」

 ロブは従者だと、私の護衛だと説明したのに、なぜ疑われるのでしょうか。なぜ信じて頂けないのでしょうか。

「何故、我を見ない! 何故、我を…………愛してくれないのだ!」

 悲痛そうに叫ばれて、責められて、まるで私が悪いように言われて、イライラが頂点に達しました。

「殿下がそれを言うのですか。殿下がっ! ずっとずっと側にいたのに⁉ 嫌いだったらこんなに苦しんでない!」
「っ⁉」

 ――――殿下こそ何も見てないのに!

「だいっきらいっ!」

 力の限り叫んで、ドレスのスカートを持ち上げ、全力疾走しました。
 後ろから『ミラベル』や『待つんだ!』などと叫び声が聞こえましたが、無視して走り続けました。
 だって、『足を晒すな』や『淑女らしく歩け!』と真後ろから、わりと耳元で聞こえるんですもの。

 ――――殿下の馬鹿っ!


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