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26:凄く凄く……。

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 昨晩はあまり寝られませんでした。
 目を瞑ると、殿下にされた事、言われた言葉、それらがぐるぐると頭の中で暴れ回って、一向に眠気が来なかったのです。
 朝食も王族の皆様と、とお誘いいただいていましたが、体調が悪い事を侍女を通じてお伝えし、部屋で取ることにしました。

 軽く朝食を取った後、部屋で読書をしていましたら、王妃殿下が部屋に来られたとリジーに言われたので、手早く身なりを整えてお迎えしました。

「王妃殿下自ら御御足を――――」
「もぅ、ミラベルちゃんは! 堅苦しいのは無しだと何回も言っているでしょう?」
「っ、はい」

 王妃殿下にイスを勧め、向かい側に座りました。
 リジーがお茶を運び終えたところで王妃殿下が「ごめんなさいね」と謝られました。

「え? あの、謝るのは私の方です。朝食の席に着かず申し訳ありませんでした」
「仕方ないわ。だって、セオドリックが無理矢理……その、致したのでしょう?」

 ――――ん?

 無理矢理キスされましたが、何やら語感が違うような?

「あの子、ずっと溜めてたから。その、我慢ならなくて…………激しかったんでしょう?」

 妙にそわそわする王妃殿下とセオドリック殿下が被って見えて、親子だなぁ、などと考えを横に飛ばしつつ、王妃殿下のお話が脳内に到達して、慌てて訂正しました。

「へ⁉ いえっ、いや、ちっ、違います! 違いますから! 決して、決して、そのような不純不埒な行為はしておりませんからっ!」
「え? 違うの⁉ だってセオドリックが…………もぅ、紛らわしいわねぇ」

 ちょっと待っていただきたい。
 セオドリック殿下は一体何をほざい……ゲフンゲフン。何を仰られたんですか。

「セオドリックが、『昨夜ミラベルに無理矢理したせいだ。顔も合わせたくないのだろう』って言うんだもの!」
「…………」

 ――――なんっっって紛らわしい!

「あの子、何をしたのよ⁉」
「ただ……眠れなかっただけです」
「あの子が無理矢理何かをしたのでしょう?」

 王妃殿下の顔が物凄く真剣だったので、ついつい話してしまいました。

「えぇぇ⁉ それだけだったの⁉」

 それだけって、私には一大事件なのですが?

「あの――――」
「……陛下の勝ちね」

 ボソリと聞こえた不穏な一言に、王妃殿下に相談しようかと思って出かけていた言葉がグシャリと潰れてしまいました。
 陛下と王妃殿下はよく賭け事をされているので、また私達の事で何かを賭けていたのでしょう。

「あ、ごめんね、何か言いかけたわよね?」
「…………いえ。私はこれからどうしたらよろしいのでしょうか? こちらはセオドリック殿下の妃殿下が住まわれる部屋です。早急に部屋を移るか、タウンハウスに帰りたいのですが」

 ――――切に。

「えっ。ミッ、ミラベルちゃん、ミラベルちゃんはセオドリックの婚約者だから、この部屋を使って良いのよ?」
「婚約の儀は何も執り行っていません。私は無理矢理『婚約者候補』にされているだけです。こちらの部屋にいては皆に勘違いされてしまいます」

 だってここは妃殿下のお部屋で、隣は夫婦の部屋で、私は…………私はここにいたくない。

「ミラベルちゃん……本気で嫌なの? セオドリックの事、本当に嫌いなの?」
「っ…………嫌いです。本当に嫌いです。凄く凄く嫌いなんですっ」

 だってあの頃からずっと、殿下の気持ちは私には無かった。
 小さい頃から隣りにいる口煩い子供だった。
 ただの便利な通訳者だった。
 私の事になんて何の興味も無くて。
 私の事なんて何にも見てなくて。
 
「全部、全部、セオドリック殿下の全部が嫌いです!」

 感情的になってはいけないと妃教育で教えられていたのに、力の限り叫んでしまいました。

「ミラベルちゃん、馬鹿息子がごめんね。泣かないで」

 王妃殿下が隣に来て、抱きしめて下さいました。

「……っ、泣いてませんっ」
「うん」
「っ…………もう、嫌ですっっ」
「うんうん」

 結局、王妃殿下に抱きついて、わんわんと泣いてしまいました。


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