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25:解るだろう?
しおりを挟む晩餐が終わり、部屋に戻りました。
バスルームでバスタブの可愛さや、王族の居住区ならではの最新の設備にひとしきり感動しつつ湯から上がりました。
侍女のザラに髪を乾かして貰った後にナイトティーを飲んでいましたら、夫婦の寝室に繋がっているドアがガタガタと異音を発していました。
ザラが私の肩に厚手のガウンを被せ、前を閉じるように言いつつドアに向かったので開けなくていいと言いました。
「ですが……」
「いいの。ザラ、下っていいわ。誰かに何か言われたら貴女は部屋にいなかったから、対応できなかったと言いなさい」
「……かしこまりました」
ガタガタ、ガチャガチャ、とドアが鳴り続けるのを申し訳無さそうな顔で見つつ、ザラが部屋から出て行きました。
――――さて。
多少煩いですが前衛的な音楽だと思う事にし、ナイトティーの続きを堪能していましたら、ふと静かになりました。
やっと諦めたのかと思っていましたら、ガチャリというありえない音が聞こえ、次の瞬間にはバーンとドアが勢いよく開く音が部屋に響き、セオドリック殿下が登場しました。
「ふん! 鍵程度で我を阻もうなど、ルシファーがへそで茶を沸かすぞ」
「ブ…………ゴホッ」
どんな慣用句ですか。
ちょっと吹き出してしまったじゃないですか。
「どうした? 風邪か?」
「いえ……それよりも、殿下はこのような時間なのに、何故、私の部屋に、来られたのですか?」
淑女の部屋にこんな遅い時間に何の用だ、とほぼストレートに伝えましたが、何故かフフン! とか鼻息が聞こえました。
「夫婦の寝室に我が赤き果実がいなかったのでな。迎えに来てやったぞ!」
「……なるほど?」
セオドリック殿下はラフそうなズボンとチュニックを着られていました…………ガントレットを着けたままで。
たぶん、寝られる恰好なのでしょう。たぶん。
色々とツッコミたいのをグッと飲み込んで、ドアの前でいつもの変なポーズをキメている殿下の前に立ちました。
殿下はチラチラと私の胸を盗み見ては、挙動不審に視線をずらされていました。
「セオドリック殿下……」
「っ! ん⁉ 何だ?」
「おやすみなさいませっ!」
「ぬおっ⁉」
両手でグイッと殿下の胸を押して、隣の部屋に押し戻そうとしましたが、抵抗されてバタバタしている内に右手首を掴まれ、左胸が何故かがっちりと握られていました。
「っ!」
左手で力の限り殿下の頬を平手打ちしました。
「何をする!」
「こちらの台詞ですわ! 手を離して下さいませ!」
「…………」
「っ! やっ……」
私の言葉にムッとされた殿下が胸をぐにぐにと揉みながら左手を腰に回し、抱き寄せて来ました。
何をするのですかと睨み付けると、少し悲しそうな顔をされました。
「……解るだろう?」
切なそうに言われても、全くもって、何も、解りません。解りたくもありません。
胸の先やお腹が痛いほどに何かを感じているのも、絶対に気のせいです。
「男が女の部屋に来る理由はひとつしか無い」
「解りませんっ! 出て行って下さいませ。これ以上は人を呼びますわよ」
「……解った」
何故、酷く傷付いたような顔をされるのですか! まるで私が悪者みたいではありませんか。イライラ、本当にイライラします。
だから、殿下の顔が近付いて来ている事に気付くのか遅くなりました。
あっ、と気付いた時には、私の唇と殿下の唇が重なっていました。
ちゅ、と軽いリップ音が鳴った後、殿下の泣きそうな顔が離れて行きました。
「…………そんなに嫌そうな顔をしないでくれ」
「……」
「すまなかったな。おやすみミラベル…………愛している」
セオドリック殿下は呆然とする私を置いて、部屋から出て行きました。
「…………ばか」
胸が、喉が、ギュッと締め付けられて、とても苦しいです。ハラリと落ちてくる雫は、きっと髪の毛がまだ濡れていたからなのでしょう。
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