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23:解せない。
しおりを挟む王城庭園で殿下をぶった斬っていましたら、殿下が執務の時間になったとか言いだして、慌ただしく去って行きました。
……私の唇を奪い、口腔内をねちょねちょに舐め回すというおまけ付きで。
「っ、はぁはぁ……」
「まぁまぁ! 殿下ったら。甘々で羨ましいですわぁ」
「……は?」
いそいそと近付いてきた侍女のリジーが何かいたらぬ妄想を繰り広げて、口元をダルッダルに緩ませてニヤニヤしていました。
――――これは無視でいいわよね?
「お嬢! 流石に王族を殴ったら駄目ですって」
「……解ってるわよ」
「いやいや、あの拳の握り方は明らかに本気でしたよ!」
結局殴らなかったんだから別に良いじゃない。
それより、よ!
「私、タウンハウスに帰るわ」
「「え⁉」」
なぜかロブとリジーが驚愕の表情を浮かべていました。
「なによ?」
「えっと――――」
ロブいわく、私は今日から王城に住むことになっている。私の荷物はすでに王城に届けられている。私はセオドリック殿下の通訳者として――――。
「婚約者です」
「煩いわね」
通訳者として! 殿下の隣の部屋に……え? はぁぁ⁉ 隣の部屋に住むことになっているぅぅぅ?
「はい! ミラベル様のお荷物は全て運び終わっています。お部屋の装飾は殿下が色々と悩みながら何年もかけて決められていましたよ。うふふ、愛されていて羨ましいですわぁ!」
リジーがキラキラとした顔でとんでもない爆弾を落としてくれました。
あの殿下が、色々と、悩みながら、何年もかけて、部屋を装飾した⁉
「いえ、装飾したのは業者ですが……」
「あの殿下よ⁉ あの! どんなトンデモな部屋なのよ!」
「えっ……普通に可愛らしい部屋ですよ?」
仔犬の名前を『狼』にしようとしたり、何年もガントレットを嵌めてたり、黒一色の服ばっかり着ているヤツの美的センスなど信じられませんわ!
「えぇぇ⁉ 聞いた限りでは普通に可愛らしくて、いい部屋っぽかったですよ?」
「リジーはまだしも、ロブまで洗脳されているの⁉」
「ミラベル様ぁ、何気に酷い……」
リジーの嘆きはまるっと無視しました。
王族の居住区に入る段階で、ロブはこれ以上立入禁止と言われてしまいました。
「ロブ、領地に戻っていいわよ」
王族の居住区には決められた使用人と近衛騎士しか入れませんし、今後は護衛には近衛騎士がつけられるのでしょう。
ロブに付き合わせるのも申し訳無いですし、領地に帰りたいだろうからと思い、そう言いました。
「……こちらで控えておきます」
「え? 帰っていいわよ?」
「こちらに、控えておきます!」
「えぇ? わかったわ……」
何故か軽やかに無視して二回言われましたわ。スタッカート強めで。
「領地に帰りたくないのかしら? 王都が気に入ったとか?」
「ミラベル様は罪作りですねぇ」
殿下の私室の横に作られたという私の部屋に向かいつつリジーと話していましたら、謎な事を言われました。
何故に犯罪者扱いなのよ。
「私は犯罪には手を染めてないわよ」
「もぅ! 色恋の方ですよぉ」
「えっ、ロブ好きな人が出来たの⁉ 貴方達、今日会ったばかりよね⁉」
「…………鈍感ですか!」
リジーに呆れ返ったような顔を向けられてしまいました。何故?
「リジーって今いくつだったかしら?」
「二十八ですわ」
「ロブは若いけど給金も多いし、領内では一二を争うほど腕が立つわ。将来安泰よ!」
大丈夫よ! 二人の恋路を応援するわ! と付け加えたら、リジーの顔が更に呆れ返ったようになり、まるで残念なものでも見るかのような視線を送られました。
――――解せないですわね。
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