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21:殿下の真意。
しおりを挟む――――この世の全ての光を反射するかのように眩いプラチナブロンドの長い髪をたずさえた男が、重厚かつ洗練された漆黒の軍服と王族のみに着用が許された豪奢なマントをその高貴な身に纏い、悠然と庭園を歩んでいた。
その男は、庭園で咲き誇っているどの花よりも美麗で華やかだった。
自信を満ち溢れさせ、悠然と歩く姿は、まるで巨匠の産み出した一枚の絵画のように荘厳でもあった。
その男は、セオドリック・アドリアヌス・ラドバウト・ファン・デル・フォレスター四世といい、この国の第二王子であった。
セオドリックは、庭園の四阿で一人不安そうに立ち尽くしている、柔らかに波打つ赤髪をもつ女の前で立ち止まると、幼少の頃にディアボロスに受けた呪いにより闇色に変色し疼き続ける右の瞳を、聖鎧を着けた右手で押さえた。
セオドリックがアクアマリンのような左目で女に視線を送ると、一瞬で甘き赤い果実のように頬を染め、金色の瞳を潤ませて、これから訪れる幸せな未来を期待するかのように破顔した――――。
――――と、セオドリック殿下がわりと大きめな声で、また素晴らしいほどの完全なる妄想を宣いながら歩いて来られました。
麗らかな昼下り、王城庭園の四阿でセオドリック殿下をお待ちしていました。
指定された時間を少しばかり過ぎた頃、いつものごとく全身黒ずくめの軍服を着た御年二十二歳の殿下が颯爽と現れ、自力でマントをバサリとはためかせていました。
右手のみに鈍く光るガントレットを着け、見目麗しいお顔をその手で半分だけ隠し、ニヤニヤとされています。
因みに視線は明後日の方向です。
――――もしや、未だに人と目を合わせるのが怖いのでしょうか?
先程まではニヤニヤと緩めていらした見目麗しいお顔をキリリと引き締められ、厳かな雰囲気を醸し出しながら、右手をズバッとこちらに突っ張るように構えられました。
「……どうやら我のウェリタスを知ってしまったようだな。フッ……ならばやむを得まい。我が赤き果実よ、溢れるほどのカーリタースをその身に纏い、レジーナとなる栄光を授け――――」
「――――お断り致します」
「ぬぁっ⁉ 何故だぁぁ! ハッ、そうか、今回は流石に伝わらなかったのだな?」
私の返答に驚愕した殿下は、先程のセリフをもう一度、少し噛み砕いて宣って下さいました。
「……どうやら我のウェリタス――――」
まぁ、レジーナを女王に変えて下さっただけでしたが。
「大変光栄ですが、お断り致します」
「ぬぁぁぁ⁉ またもや⁉ いったい何が……ハッ、そういうことか、そういうことなんだな! ……暗き闇の底よりいでしディアボルスよ、我がミラベル・メヒテルト・イルセ・デ・アップルビーを解放するのだぁぁ!」
再度お断りすると、殿下はオッドアイの黒い右目と青い左目を大きく見開き、プラチナブロンドの靡く頭を抱えて、蹲り……かけて、こちらをビシィッと指差したかと思うと、変な方向に覚醒しくさって下さりました。
「殿下、私は『ミラベル・アップルビー』です。変な名前にしないで下さいませ、と何度注意すればよろしいのですか。あと、悪魔には憑かれておりません」
「っ! ミラベル・メヒテルト・イルセ・デ・アップルビーの方が格好良いではないか! ならば何故に私のき……き、ききききゅきゅきゅ求婚んんっを受けぬのだ!」
「ハァ……」
――――全く。
婚約解消し、私が領地に戻っている間に、普通に話すことを覚えてくださっているとばかり思っていましたが……。
「殿下」
「何だ? 我が赤き果実よ、我の求めに応える気になったか?」
「いえ、お断りですが。それより――――」
「それよりぃぃ⁉」
いいから話を聞いてくださいと一喝して、取り敢えず四阿に座り、殿下にも座るように言いました。
――――え、また隣に座るんですか?
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