上 下
11 / 196

11:私が出来るチート。

しおりを挟む
 


 領地に戻って一年が経ちました。私はとても楽しく過ごしています。

 アップルビー伯爵領は、王都からも遠く、人口の多い都会のような街も近場にありませんので、乳牛にそれほど力を入れてはいませんでした。
 ところが、『牛や山羊、羊の乳を加工食品にし、他領に売り出す』というのが王城より派遣された文官より出された改善案だったそうです。
 初めは疑心暗鬼だったそうですが――――。

「いやぁ、チーズがこんなにも売れるとはねぇ」

 お父様は目尻を下げて、ほのほのと笑いながら乳牛を撫でていました。
 …………乳牛を!
 大切なので二度言いました。

「お父様、これからお母様とお出かけされるのですよね? 牛ふん踏んでますが……。また臭いと言われますわよ?」
「おぉっと、これはいけないねぇ! 戻って湯を浴びないと。ミラベルはどうするんだい?」
「私は町の食堂に顔を出して参ります」
「そうかい。護衛は連れて行くんだよ?」

 お父様は、執務のほとんどをお兄様に任せていらっしゃいます。
 お兄様が美しい奥様に褒められたいから! と張り切って執務をしていらっしゃるので、お父様は必然と暇になってしまったようです。
 暇を持て余したお父様は、領主邸の横にある牧場で牛の世話をする事にはまっていらっしゃいます。
 ハァハァと牛を撫でまくっている姿をお母様に見られて、ガチでドン引きされていましたが、「君がいなくて寂しかったんだよ」と言いながら瞳をウルウルさせ、お母様の手を握り、人畜無害そうな風体を活かして丸め込んでいらっしゃいました。

「あ、お父様、そろそろ誤魔化せませんので、素直に牛を撫で擦るのが趣味だとお伝えしたほうが賢明ですわよ?」
「なでっ…………も、もうちょっとマシな言い方をしてくれないかい⁉」

 マシな言い方、と言っている時点で……まぁ、これ以上は突っ込まないでおきましょう。



 領地に戻って付けられた護衛のロブと領主邸の近くにある町の食堂へと向かいました。

 ロブは今年十六歳で、アップルビー領の騎士団に所属している従士、いわゆる騎士見習いみたいなものです。
 真っ黒でツンツンした髪の毛と、焦げ茶色の瞳がなんとなく前世のニホンを思い出したので、私の護衛に指名いたしました。

「お嬢、今日はどんな物を開発すんですか?」

 指名された時には騎士の訓練が出来ない、子守なんて嫌だ、とかブーブー言っていたのに、最近はノリノリで護衛に付いて来ます。
 ……まぁ、ご飯目当てですが。

「今日はね、チーズがとろけ出て来るチキンボールよ」
「う……美味そうじゃないっすか!」

 領地に戻って、初めの二ヶ月はぼーっと過ごしていました。その後の二ヶ月で色々と変わった領地を見て回り、更にその後の二ヶ月では領地で生産しているチーズの事を勉強しました。
 その最中に、ふと前世で食べて感動したチーズフォンデュを思い出し、どうしても食べたくなったので屋敷の料理長に伝えると、チーズフォンデュを知らないと言われました。
 そこで私は知ったのです、領民達はチーズを齧ったり、ピザなどにしたりと普通の使い方はしているけれど、新しい料理の開発等はしていないという事に。

 前世のアニメや小説で人気だった内政チートは、私には出来そうもありません。
 もちろん、医療、物理、科学、工学、美術や工芸なんてチートも持ち合わせておりません。
 ですが、チーズフォンデュを思い出した事により、薄かった前世の記憶が急に鮮明になりました。

 ――――前世の私は食いしん坊だったのですね!

 食いしん坊な事を思い出すと、急に色々と食べたくなってしまいました。
 そうして半年前からは、町の食堂での新しいレシピ開発に取り組む事にしたのです。
 町の食堂で開発するのは、領地に観光客を集める為です。
 B級グルメで町興し、というやつですわね。
 決して私の空腹感を満たす為ではないのです。
 決して!
 …………けっして……た、たぶん?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...