9 / 196
9:決定済みの話。
しおりを挟むセオドリック殿下の王妃殿下へのグチ半分、擁護半分の無駄話がある程度終わった所で、殿下にまだお時間があるか聞いてみた所、大丈夫とのお返事でしたので、夜会の後にでも話そうと思っていたことを今話してしまおうと思いました。
「殿下は来年、成人の儀を迎えられますよね」
「うむ、我は命の縛りを超越した者に――――」
「はいはい、そういうのいいですから」
「んなぁぁ⁉ 我が赤き果実が聞いて――――」
「それでですね」
セオドリック殿下の言葉を遮りつつ話を進めました。
「殿下の成人の儀の前に婚約を解消していただきます。王妃殿下には許可をいただきました」
「………………は?」
殿下がたっぷり十秒沈黙した後、明らかに不機嫌になってしまいました。
「それは、相談ではなく、決定事項として話している、で間違いないか?」
「はい」
殿下が眉間に皺を寄せ、二色の瞳で鋭くこちらを睨み、低い声で尋ねてきます。
ちょっと……いえ、かなり言動が可笑しくて、ちょっとドジな所があって、時々……稀に、可愛いと思えても、やはり男の人なんだなと実感いたしました。
殿下はいつの間にか少年から青年になって来ています。もうそろそろ、ちゃんとすべきなのです。
「……我が赤き果実が望んでいるのか?」
「はい」
「理由は?」
少し息が、胸が、苦しく感じるのはきっとコルセットのせいです。お伝えするのが怖いとか、寂しいとか、そんなものではないはずです。
「殿下に厨二病をお止め頂くためです。公の場で、公務で、振る舞って許される年齢ではなくなるのですよ」
いえ、まぁ……何歳だろうが王族が振る舞う言動ではありませんし、今までが許されていた訳でもありませんが。成人の儀が丁度良いタイミングだと思うのです。
「通訳出来てしまう私が側にいては、甘えが出てしまうでしょう?」
「我を凡庸な人間にしたいと」
何故なのか解りませんが、殿下は普通に話すことを嫌がります。
普通に話すことがまるで恥ずかしいことのように、面白味のない、平凡で魅力のない人間がすることだと思われているようです。
「凡庸ではなく、普通です。普通に話して、普通に友人を作って、普通に臣下に接して欲しいのです」
「ハッ! それが凡庸だと言っているのだ! そうか…………私が今から凡庸に振る舞えばミラベルは満足なのだな⁉」
急に殿下に怒鳴られてしまいました。
あまりにも低く、険しく、大きな声だったので、恐怖からなのか、ブルリと体が震えました。
「っ……はい。そうすれば、きっと良い妃殿下も見付かるはずですから」
「は?」
「ですから、妃殿下を――――」
「ミラベルが私の妃になるのだろうが!」
「違います。ですから、解消させていただきますと、お伝えしているではありませんか」
そう言いましたら、殿下が目を見開いて、ボソリと呟かれました。
「……ミラベルは私と婚姻する気が無いのか?」
「はい、ございません」
「…………出て行け」
「ここは私の部屋ですが?」
厳密には私に貸し出されている部屋、ですが。そう付け加えると、セオドリック殿下は、怒りの感情に支配されているかように顔を歪め、立ち上がられました。
「王城から出て行け……今すぐに! 私の前から消えろ!」
「…………承知、しました」
セオドリック殿下に、出て行け、消えろ、と怒鳴られてしまいました。
私が言い出し、招いた事です。
こうなる事も予想していました。直ぐに了承して、侍女を呼びデイドレスに着替えさせてもらいました。
陛下や王妃殿下への辞去の挨拶は不要だ、と廊下で待機していた殿下に言われました。
「……承知しました」
出来れば王妃殿下にだけでも挨拶したかったです。
仕方なく真っ直ぐに王城の馬場に行き、我が家の馬車に乗り込みました。
セオドリック殿下は私が馬場に向かうとわかると、途中で身を翻しどこかに行ってしまわれました。
お別れの挨拶もしてくれませんのね、と思いましたが、それもそうかと一人納得しました。
こんな風に突然に婚約を解消するなんて言われたら、誰だって怒るはずですもの。
そして、私はセオドリック殿下を怒らせて、完全に関係を断ち切りたかったから、このような手段を取ることにしたのでしたね。
離れゆく王城を馬車の窓からぼぅと眺め、寂寥感のようなものに苛まれながら、タウンハウスへと戻りました。
――――きっと、これで良かったのです。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)
るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。
エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_
発情/甘々?/若干無理矢理/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる