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9:決定済みの話。

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 セオドリック殿下の王妃殿下へのグチ半分、擁護半分の無駄話がある程度終わった所で、殿下にまだお時間があるか聞いてみた所、大丈夫とのお返事でしたので、夜会の後にでも話そうと思っていたことを今話してしまおうと思いました。

「殿下は来年、成人の儀を迎えられますよね」
「うむ、我は命の縛りを超越した者に――――」
「はいはい、そういうのいいですから」
「んなぁぁ⁉ 我が赤き果実が聞いて――――」
「それでですね」

 セオドリック殿下の言葉を遮りつつ話を進めました。

「殿下の成人の儀の前に婚約を解消していただきます。王妃殿下には許可をいただきました」
「………………は?」

 殿下がたっぷり十秒沈黙した後、明らかに不機嫌になってしまいました。

「それは、相談ではなく、決定事項として話している、で間違いないか?」
「はい」

 殿下が眉間に皺を寄せ、二色の瞳で鋭くこちらを睨み、低い声で尋ねてきます。
 ちょっと……いえ、かなり言動が可笑しくて、ちょっとドジな所があって、時々……稀に、可愛いと思えても、やはり男の人なんだなと実感いたしました。
 殿下はいつの間にか少年から青年になって来ています。もうそろそろ、ちゃんとすべきなのです。

「……我が赤き果実が望んでいるのか?」
「はい」
「理由は?」

 少し息が、胸が、苦しく感じるのはきっとコルセットのせいです。お伝えするのが怖いとか、寂しいとか、そんなものではないはずです。

「殿下に厨二病をお止め頂くためです。公の場で、公務で、振る舞って許される年齢ではなくなるのですよ」

 いえ、まぁ……何歳だろうが王族が振る舞う言動ではありませんし、今までが許されていた訳でもありませんが。成人の儀が丁度良いタイミングだと思うのです。

「通訳出来てしまう私が側にいては、甘えが出てしまうでしょう?」
「我を凡庸な人間にしたいと」

 何故なのか解りませんが、殿下は普通に話すことを嫌がります。
 普通に話すことがまるで恥ずかしいことのように、面白味のない、平凡で魅力のない人間がすることだと思われているようです。

「凡庸ではなく、普通です。普通に話して、普通に友人を作って、普通に臣下に接して欲しいのです」
「ハッ! それが凡庸だと言っているのだ! そうか…………私が今から凡庸に振る舞えばミラベルは満足なのだな⁉」

 急に殿下に怒鳴られてしまいました。
 あまりにも低く、険しく、大きな声だったので、恐怖からなのか、ブルリと体が震えました。

「っ……はい。そうすれば、きっと良い妃殿下も見付かるはずですから」
「は?」
「ですから、妃殿下を――――」
「ミラベルが私の妃になるのだろうが!」
「違います。ですから、解消させていただきますと、お伝えしているではありませんか」

 そう言いましたら、殿下が目を見開いて、ボソリと呟かれました。

「……ミラベルは私と婚姻する気が無いのか?」
「はい、ございません」
「…………出て行け」
「ここは私の部屋ですが?」

 厳密には私に貸し出されている部屋、ですが。そう付け加えると、セオドリック殿下は、怒りの感情に支配されているかように顔を歪め、立ち上がられました。

「王城から出て行け……今すぐに! 私の前から消えろ!」
「…………承知、しました」

 セオドリック殿下に、出て行け、消えろ、と怒鳴られてしまいました。
 私が言い出し、招いた事です。
 こうなる事も予想していました。直ぐに了承して、侍女を呼びデイドレスに着替えさせてもらいました。
 陛下や王妃殿下への辞去の挨拶は不要だ、と廊下で待機していた殿下に言われました。

「……承知しました」

 出来れば王妃殿下にだけでも挨拶したかったです。
 仕方なく真っ直ぐに王城の馬場に行き、我が家の馬車に乗り込みました。
 セオドリック殿下は私が馬場に向かうとわかると、途中で身を翻しどこかに行ってしまわれました。

 お別れの挨拶もしてくれませんのね、と思いましたが、それもそうかと一人納得しました。
 こんな風に突然に婚約を解消するなんて言われたら、誰だって怒るはずですもの。
 そして、私はセオドリック殿下を怒らせて、完全に関係を断ち切りたかったから、このような手段を取ることにしたのでしたね。

 離れゆく王城を馬車の窓からぼぅと眺め、寂寥感のようなものに苛まれながら、タウンハウスへと戻りました。

 ――――きっと、これで良かったのです。


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