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8:オーラを纏った覚えは無い。
しおりを挟む王妃殿下との面会から一週間後、殿下と出席する夜会の為に、王城の私に与えられている一室で着替えをしておりました。
「もうちょっと締めます」
「ふぐっ……出る、内臓とか、色々出るっ」
「大丈夫ですわ、出た方はいませんから」
――――いや、絶対に出ますわよ!
ドレスを美しく着こなす為にと、侍女二人からギッチギチにコルセットを締められました。
「くっ、苦しい……」
「ミラベル様、少し休憩いたしましょう」
「お嬢様、冷たいお茶ですわ」
「ありがとう」
下着とコルセットのまま一旦ソファに座り、冷たいお茶を飲んでいました。
急に大きな音を立ててドアが開きましたので、ある程度予想はついてはいますが、確認の為にそちらを振り返りました。
案の定、部屋の入口にはセオドリック殿下が仁王立ちで、妙なポーズを決めていらっしゃいました。
少しだけ斜め前屈し、右手は顔半分を隠すようにし、左手はちょっと斜め上の後ろ気味…………まぁ、要は痛い感じです。
「「……」」
「でっ、殿下っ! 淑女の部屋をそのように…………あっ……」
「きっ、きゃぁぁぁぁ!」
リジーが叫びながらも、慌てて私の肩にガウンを掛けてくれました。
セオドリック殿下には二年前からコーディという名の男爵家出身の補佐官が付くようになっています。
三十代半ばの文官で、様々な方と顔合わせをした中で、唯一殿下が一緒に働けた方です。
「も、申し訳ございませんっ! 殿下、一度出ますよ!」
「ふっ、我が赤き果実の皮を剥いた所で特に何も変化は無いであろう。が、下僕が見るのは許さん! コーディよ、安息の地より立ち去れ!」
「えぇぇ⁉ 私だけ悪者にしないで下さいよ。出ますけど……。お嬢様方、大変失礼いたしました」
コーディが謝罪し、そそくさと部屋から出ていきましたが、セオドリック殿下は未だに部屋の入口で痛いポーズを決めていらっしゃいます。
最近の殿下は私を『我が赤き果実』と呼ぶことにハマっていらっしゃるようです。
「セオドリック殿下、何か御用ですか?」
「うむ、デウスとデアは同じオーラを纏い、下々の前に立つのが流行りだと聞いたのでな。我が赤き果実の纏いしオーラの確認をしにきたのだ!」
(意訳:パートナー同士で色を揃えた盛装で夜会に参加することが、最近の流行だと聞いたんだ。それで、ミラベルのドレスの色を確認しに来たんだ)
――――いちいち自ら来られなくても。
従者にそれとなく確認に行かせる……は、殿下には思い付きませんものね。
「いつも通り、水色に黒の差し色をしておりますわ」
「なんだまた水色か。ミラベルは水色ばかりを着ているな。好きなのか?」
このタイミングで標準語なのが妙にイラッとします。
しかも、私がなぜ水色を着るのか、てんで気付いていらっしゃらないようです。
――――ハァ、全く。
溜め息しか出ない、とはこんな感情なのですね。勉強になりましたわ。
……そうとでも思わなければやってられません。
「好きではありませんが、着ざるを得ませんので」
ズバッと言い放ちましたら、殿下が目を見開いた後、少しシュンとされてしまいました。
もしかして、ご自身の色だと――――。
「あぁ、母上か。そんなに母上を嫌ってやるな。我が赤き果実に似合うからと、水色のドレスを仕立てさせたのだろう」
「はいぃ?」
急に王妃殿下の話になり、意味が分からなすぎて変な声が出てしまいました。
「ん? 我が赤き果実のドレスは母上が仕立てているのだろう?」
「そう、ですが」
本来なら我が家かセオドリック殿下が仕立てるべきなのですけれどね。
「母上は押しが強いが――――」
セオドリック殿下が王妃殿下についていろいろと述べておりましたが、割とどうでもいい事ばかりなので、まるっと聞き流す事にいたしました。
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