2 / 196
2:ミラベル
しおりを挟む――――私がソレを思い出したのは八歳の時でした。
その日は、今年で十二歳になった第二王子殿下の婚約者探しのお茶会に参加していました。
「ふはははは、刮目せよ! 我はルプスによる呪いでこの右手に闇の紋章を宿してしまったのだ! 闇の眷属に覚醒してしまわぬよう、この聖鎧を纏う事にした!」
朗らかな日射しの中で開催されていたお茶会に、殿下の謎発言によるブリザードが吹き荒れました。
その瞬間、私の脳内に大量の記憶が流れ込んで来たのです。
どうやら私の前世は、ニホンという国のトウキョウという所でダイガクセイという者だったようです。
何かの病気に倒れ、二十二年という短い人生に幕を閉じた……のですが。
「厨二病……」
それは前世の一つ上の兄が発症していた病。
まさか、こんなところで……前世から言うのであれば異世界で、また厨二病に出逢うハメになろうとは。
「チュウニ病? ミラベル様、どうかされましたの?」
「い、いいえ、何でもございませんわ」
「それにしても、殿下はあいかわらず何をお話しされているのかわかりませんわね」
サラキラストレートロングの金色の髪と、若草のような浅い黄緑色の瞳をしたレドモンド公爵家令嬢のアシュリー様と一緒に、殿下への挨拶の列に並んでいる所での覚醒でした。
私はどこにでもいる赤茶色のうねうね髪と、ごく薄い茶色の瞳、というパッとしない見た目の貧乏伯爵家の娘です。
それがなぜ、立場も見た目もお姫様のアシュリー様と一緒にいるのかというと、母親同士が親友だからでもありましたが、二歳年上のアシュリー様が私を妹のように可愛がって下さっている、というのもありました。
「殿下って、いつもあのような話し方をされるのですか?」
「そうなんですのよ。もぅ、何を話しかけてもあの調子で、全く意味が解りませんの」
アシュリー様は殿下の従兄妹にあたるので、殿下の言動を昔からよく知られているようでした。
確かに、先程の殿下のセリフを聞いた限り、素人には理解不可能だろうなと思いました。
大人にそれを伝えれば、子供が何を言うか、と思われそうですが、前世を思い出したこの時から、思考もガッツリ前世につられてしまっていたのです。
それに、前世の兄のお陰で厨二病語解釈には並々ならぬ自信がありましたので、厨二病語が解らないと言うアシュリー様に通訳をしてしまいました。
「『ルプス』狼ですが、この国の王都……ましてや王城になどいませんので、きっと犬かなにかでしょうね」
この時、アシュリー様がワクワクとした顔をされていたもので、私はついつい調子に乗って話してしまっていたのです。
後から考えると、この時の私の選択により、運命歯車が望まぬ方向へと廻ってしまったのだと思います。
「それから、『呪い』『闇の紋章』『宿す』とは多分ですが、犬に噛まれて傷が残っている、ということでしょう」
「……まぁ! それで⁉」
「人に傷口を見せるのは偲びないから、あのガントレットを嵌めている、という事なのでしょうね」
「すっ、凄い……凄いわ! ミラベル様! ぜひ、その事を王妃殿下にお話しして差し上げてちょうだい!」
自信満々に第二王子殿下の厨二病語を通訳し終えましたら、アシュリー様に腕を引かれ、挨拶の列から連れ出されてしまいました。
そして、まさかの王妃殿下のテーブルへ、お母様と一緒に座らされてしまったのでした。
アシュリー様からしましたら、王妃殿下はご親戚で、優しい伯母様、なのでしょう。ですが、貧乏伯爵家の私とお母様にとっては雲の上の存在です。
二人して顔面蒼白で王妃殿下のテーブルに座る羽目になりました。
「おば様、こちらアップルビー伯爵夫人のナディア様と、ご令嬢のミラベル様ですわ」
アシュリー様から紹介していただいたので慌てて立ち上がりカーテシーをしました。
「まぁ、ご丁寧にありがとう存じます。さぁ、今日は堅苦しいのは無しですわよ? 席に着かれてくださいな」
「「失礼致します」」
恐る恐る座る私達母子を軽やかに無視して、アシュリー様が王妃殿下に先程の事を話されました。
「なっ……アシュリー、貴女が何か話したのでは無くて?」
「いいえ、おば様。私、誓って何も話してはおりませんわ」
「では本当にこのミラベルが、セオドリックの言葉を解読したと言うの?」
「はい!」
何故にアシュリー様はそんなに自信満々で誇らしげに話されているのでしょうか?
そんな疑問を抱いていましたら、王妃殿下がキラキラとした空色の瞳をこちらに向けて、それはもう美しいとしか言いようのない笑顔で恐ろしい事を仰られました。
「ミラベル、貴女がセオドリックの婚約者に決定です」
「「……」」
今、何か空耳が……。婚約者? いえいえいえいえ、まさか、ね? 貧乏伯爵家が王族の婚約者なんてねぇ? あ、きっと翻訳者ですわね? ええ、それなら納得ですわ。うんうん、翻訳者……いえ、通訳者って仕事、とても良さそうですわね!
そのように現実逃避している内に、あれよあれよと第二王子殿下の婚約者の座に納まってしまっていました。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。
すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!?
「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」
(こんなの・・・初めてっ・・!)
ぐずぐずに溶かされる夜。
焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。
「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」
「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」
何度登りつめても終わらない。
終わるのは・・・私が気を失う時だった。
ーーーーーーーーーー
「・・・赤ちゃん・・?」
「堕ろすよな?」
「私は産みたい。」
「医者として許可はできない・・!」
食い違う想い。
「でも・・・」
※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。
※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それでは、お楽しみください。
【初回完結日2020.05.25】
【修正開始2023.05.08】
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる