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番外編
番外編 ハンスの生まれ育った街
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婚姻式も無事終わり、離宮での生活も落ちついてきた頃、陛下から「一度辺境へ帰省してきなさい」そう言われ、私達は辺境へ向け出発した。
婚姻式は大公殿下のお義父様、大公夫人のお義母様、ハンスのお義兄様家族も出席してくれた。それでもゆっくり話をすることは叶わなかった。
王太子殿下の婚姻式、周辺諸国の客人を招き、晩餐会から舞踏会。それに今回は貴族とも話をする。招いた客人方が滞在中は食事を共にし、ティーパーティー、夜はお酒を飲みながら談笑した。
王城にお義父様とエーゲイト国王がいるんだから小競り合いは起こらない。それでも辺境を留守にはできないと、お義兄様家族は婚姻式の次の日には辺境へ帰っていった。
だから今回の帰省は楽しみでもあるの。お義姉様ともっとお話したかったし、それに釣りも楽しみなの。ハンスと遠乗りにも出かけたいし、よく行っていたと言っていた辺境の街にも行きたい。
「本当に行くの?」
目の前に座るハンスはさっきからずっと言っている。
「そんなに帰りたくないの?」
私は初めての馬車の旅が楽しみでワクワクしているけど、ハンスはどんどん沈んでいく。
「帰りたくないわけじゃないけど」
「けど?」
「……俺だけ辺境に置いていかれそうだ」
「大丈夫よ」
私はハンスに笑いかけた。
ハンスがこう言うには理由がある。
王太子になったハンスには常にエミリオが側に付いている。今回の辺境への帰省もエミリオが付いてくる予定だった。
さあ、辺境へ出発しようとした時、一台の馬車が離宮に入ってきた。
そう、お察しの通り、馬車から降りてきたのはお父様。『王太子妃殿下の初めての長旅です。やはり私が側に付いて行くべきだと』お父様の笑顔の圧力に、ハンスは嫌と言えなかった。
「ハンスは王太子なのよ?お父様は王太子になれなかったらって言ったわ」
「だよな……」
私は立ち上がり不安そうな顔をしているハンスの隣に座った。
「危ないだろ」
焦った顔をしたハンスの肩に頭を預けた。
「大丈夫よ。お父様も王太子殿下を辺境に残して帰らないわ。王位を目指すと決めたのがハンス自身だとしても、王位を目指してほしいとお父様も望んだの。そして貴方は王位を継いだ」
肩に預けていた頭を上げハンスを見つめる。
「貴方はペープフォード国唯一の王太子殿下なのだから」
「そうだ、俺は唯一の王太子だ」
「ええ」
ハンスは私の肩を抱き寄せた。
唯一の息子から奪い取った、唯一の王太子という立場。ハンスは今も苦しんでいる。後悔ではない。王の器にならざる者を王にすることはできない。
国を民を守るためにも。
それでも第二位の自分が、従兄弟同士で一つの席を賭けた戦い。戦いに勝ち得た者は王太子に、負けた者はかの国へ。
陛下が決めた罰。それでもハンスは非情になれない人。これからもずっと苦しむのだろう。
今現在、王位継承権を持っている者はハンスのみ。ハンスにはお父様はじめお兄様、エミリオが側に付いている。それでもハンスにかかる重圧は底知れない。それでも何気ない顔で淡々とこなしていく。微力な私の力など借りずに。
だから私はどんな時も肯定する。そして少しでも肩の力が抜けるように、ハンスを癒やしたい。
「もしお父様がハンスを残して帰ろうとしても、もし大公殿下がハンスを離さないと言っても、私が貴方の手を離さない。ハンスのいる場所が私のいる場所よ」
ハンスは私の肩をぐっと引き寄せた。自然に私の頭はハンスの肩にもたれ、ハンスは私の頭に頭を重ねた。
何日も馬車に揺られ、ようやく辺境の街へ着いた。お父様とお母様は先に辺境伯の邸へ向かった。
私達は馬車から降り辺境の街を見て回る。
懐かしそうな顔をするハンス。街の人達はハンスを見つけると『坊っちゃん』と笑顔で声をかける。流石にここでアーサーと名乗った所で辺境伯の息子だと知れ渡っている。
それだけ皆気さくにハンスに声をかける。そこに親しみが垣間見える。
辺境の街は王都に比べ、エーゲイト国の品が数多く並んでいる。
「これは?」
「これもエーゲイト国特産の布だよ」
王都に比べ辺境は少し肌寒い。これからの時期は夜になると少し肌寒くなるとハンスは言う。エーゲイト国特産の布は羊毛で織られ暖かみを感じる。
屋台には体を温める物も多く並んでいる。もちろん王都で食べたような串焼きや手軽に食べれる軽食も並んでいる。王都の屋台にも並んでいた、男性が好みそうながっつりご飯は辺境でも並んでいる。ただ、王都に比べ量が倍近くある。
「あんなに山盛りなのに食べれるの?」
お皿に山盛りに盛られたご飯を見て驚いた。
「あれでも足りないくらいじゃないかな?」
私は啞然とした。あんな量、どこに入るの?と。
屋台の近くには屋台で買った物を食べれるように机や椅子が置いてある。その一つの椅子に座ればハンスは「座って待ってて」と屋台に並んでいる。
「リシャおまたせ」
ハンスは器用に両手でトレーを持ち、トレーの上にはたくさん料理が乗っている。
「さあ食べよう」
ハンスは山盛りのご飯を美味しそうに食べている。私達の周りには護衛騎士達が座っている。騎士達も山盛りのご飯をガツガツと食べている。
あっという間に山盛りのお皿は空になった。騎士の中にはもう一皿買いに行く者もいる。
私は見てるだけでお腹いっぱいになりそう。
ああ……、食べれちゃうのね……。
婚姻式は大公殿下のお義父様、大公夫人のお義母様、ハンスのお義兄様家族も出席してくれた。それでもゆっくり話をすることは叶わなかった。
王太子殿下の婚姻式、周辺諸国の客人を招き、晩餐会から舞踏会。それに今回は貴族とも話をする。招いた客人方が滞在中は食事を共にし、ティーパーティー、夜はお酒を飲みながら談笑した。
王城にお義父様とエーゲイト国王がいるんだから小競り合いは起こらない。それでも辺境を留守にはできないと、お義兄様家族は婚姻式の次の日には辺境へ帰っていった。
だから今回の帰省は楽しみでもあるの。お義姉様ともっとお話したかったし、それに釣りも楽しみなの。ハンスと遠乗りにも出かけたいし、よく行っていたと言っていた辺境の街にも行きたい。
「本当に行くの?」
目の前に座るハンスはさっきからずっと言っている。
「そんなに帰りたくないの?」
私は初めての馬車の旅が楽しみでワクワクしているけど、ハンスはどんどん沈んでいく。
「帰りたくないわけじゃないけど」
「けど?」
「……俺だけ辺境に置いていかれそうだ」
「大丈夫よ」
私はハンスに笑いかけた。
ハンスがこう言うには理由がある。
王太子になったハンスには常にエミリオが側に付いている。今回の辺境への帰省もエミリオが付いてくる予定だった。
さあ、辺境へ出発しようとした時、一台の馬車が離宮に入ってきた。
そう、お察しの通り、馬車から降りてきたのはお父様。『王太子妃殿下の初めての長旅です。やはり私が側に付いて行くべきだと』お父様の笑顔の圧力に、ハンスは嫌と言えなかった。
「ハンスは王太子なのよ?お父様は王太子になれなかったらって言ったわ」
「だよな……」
私は立ち上がり不安そうな顔をしているハンスの隣に座った。
「危ないだろ」
焦った顔をしたハンスの肩に頭を預けた。
「大丈夫よ。お父様も王太子殿下を辺境に残して帰らないわ。王位を目指すと決めたのがハンス自身だとしても、王位を目指してほしいとお父様も望んだの。そして貴方は王位を継いだ」
肩に預けていた頭を上げハンスを見つめる。
「貴方はペープフォード国唯一の王太子殿下なのだから」
「そうだ、俺は唯一の王太子だ」
「ええ」
ハンスは私の肩を抱き寄せた。
唯一の息子から奪い取った、唯一の王太子という立場。ハンスは今も苦しんでいる。後悔ではない。王の器にならざる者を王にすることはできない。
国を民を守るためにも。
それでも第二位の自分が、従兄弟同士で一つの席を賭けた戦い。戦いに勝ち得た者は王太子に、負けた者はかの国へ。
陛下が決めた罰。それでもハンスは非情になれない人。これからもずっと苦しむのだろう。
今現在、王位継承権を持っている者はハンスのみ。ハンスにはお父様はじめお兄様、エミリオが側に付いている。それでもハンスにかかる重圧は底知れない。それでも何気ない顔で淡々とこなしていく。微力な私の力など借りずに。
だから私はどんな時も肯定する。そして少しでも肩の力が抜けるように、ハンスを癒やしたい。
「もしお父様がハンスを残して帰ろうとしても、もし大公殿下がハンスを離さないと言っても、私が貴方の手を離さない。ハンスのいる場所が私のいる場所よ」
ハンスは私の肩をぐっと引き寄せた。自然に私の頭はハンスの肩にもたれ、ハンスは私の頭に頭を重ねた。
何日も馬車に揺られ、ようやく辺境の街へ着いた。お父様とお母様は先に辺境伯の邸へ向かった。
私達は馬車から降り辺境の街を見て回る。
懐かしそうな顔をするハンス。街の人達はハンスを見つけると『坊っちゃん』と笑顔で声をかける。流石にここでアーサーと名乗った所で辺境伯の息子だと知れ渡っている。
それだけ皆気さくにハンスに声をかける。そこに親しみが垣間見える。
辺境の街は王都に比べ、エーゲイト国の品が数多く並んでいる。
「これは?」
「これもエーゲイト国特産の布だよ」
王都に比べ辺境は少し肌寒い。これからの時期は夜になると少し肌寒くなるとハンスは言う。エーゲイト国特産の布は羊毛で織られ暖かみを感じる。
屋台には体を温める物も多く並んでいる。もちろん王都で食べたような串焼きや手軽に食べれる軽食も並んでいる。王都の屋台にも並んでいた、男性が好みそうながっつりご飯は辺境でも並んでいる。ただ、王都に比べ量が倍近くある。
「あんなに山盛りなのに食べれるの?」
お皿に山盛りに盛られたご飯を見て驚いた。
「あれでも足りないくらいじゃないかな?」
私は啞然とした。あんな量、どこに入るの?と。
屋台の近くには屋台で買った物を食べれるように机や椅子が置いてある。その一つの椅子に座ればハンスは「座って待ってて」と屋台に並んでいる。
「リシャおまたせ」
ハンスは器用に両手でトレーを持ち、トレーの上にはたくさん料理が乗っている。
「さあ食べよう」
ハンスは山盛りのご飯を美味しそうに食べている。私達の周りには護衛騎士達が座っている。騎士達も山盛りのご飯をガツガツと食べている。
あっという間に山盛りのお皿は空になった。騎士の中にはもう一皿買いに行く者もいる。
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