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しおりを挟むローガン様は毎日教会へ来る。その姿を私はこっそり見つめる。
「俺達の子を返せとはもう言わない。だから俺にジニアを返してほしい。ジニアがどこにいるのかお前なら分かるだろ!分かるなら俺に教えてくれよ!
ジニア…、ジニア……、早く帰って来いよ………」
ローガン様の後ろ姿を見つめてもう1ヶ月。
ローガン様にはアイビー様との子もいる。
私を探してどうするの?
私に文句を言いたいの?
お金を返せって?
それとも娼婦のように性のはけ口になれって?
毎日教会へ来るローガン様の姿はやつれていて髭も伸びている。
突然肩を叩かれ私は後ろを振り返る。
「神父様」
「ジニアさん、私はお二人の話し合いを望みます」
「どうしてですか」
「私は彼を7年以上毎日見てきました。そしてジニアさんの気持ちも分かっているつもりです。だからこそお二人には会話が必要だと思いました」
「今更必要ですか?」
「今だから話せる事がお互いにあると私は思います」
「今話しても意味はありません。もう他人になった彼に傷つけられるのは嫌です」
「ですが反対に彼を傷つけるかもしれませんよ?」
「私がですか?それはありえません」
「それこそ会話をしない事にはそれすらも分からないですよ?」
「だとしても…」
「ジニアさんは彼の本音を聞いた事がありますか?何かを問うた事がありますか?」
「それは…」
「ジニアさんはご自分の本音を彼に言った事はありますか?」
「…それはありません」
「夫婦なのにお互い本音を隠していては何も始まりません。時に本音を隠す事も必要でしょう。全てを包み隠さず言わなくてもいいと思います。それでも夫婦は信頼と信用が無くては上手くいくものも上手くいかない。夫婦喧嘩も時には必要です。夫婦と言えども同じ考えではない。価値観も違う。育った環境も違う他人が寄り添い夫婦になるのです。
夫婦は話し合いお互いの思いを考えを認め、時に喧嘩して意見をぶつけ合う。そうして築いていけばいい。片方だけが我慢を強いられる関係では上手くいきませんよ。
ジニアさんが言うように今更かもしれませんが今だから言いたい事が言えるとも言えます。次へ向くために言いたい事を言ってみてはどうですか?」
「少し考えさせて下さい」
「考えて下さい。時間はありますから」
神父様の言うように、私はローガン様に本音を言った事も、ローガン様と喧嘩した事もない。
私は神父様の言葉を考え、毎日教会へ来るローガン様を見つめる。今更何を言っても傷つけ合うだけ。ならこのままでいいと思う。
あれから1ヶ月、私は今日もローガン様の後ろ姿を見つめる。
「……ジニア…、……ジニア…、頼む、帰って来てくれ……」
ローガン様はなぜ今も私に帰って来てほしいのか分からない。離縁した私をここまで求めるものは何なのか、それを知りたい。
私が後ろを振り返れば神父様がいた。
「心は決まりましたか?」
「はい、ですが直接会うのは…」
「分かりました」
神父様に連れられ着いた先に小部屋があり、私はそこで待つように言われた。
部屋の壁の向こうから神父様とローガン様の話し声が聞こえた。
「こちらに座ってお待ち下さい」
「分かった…」
覇気のないローガン様の声。
私がいる小部屋の扉が開き神父様が入って来た。私は促されるように椅子に座る。目の前には壁。
「ではどうぞ」
神父様が話す。
「俺は自分の子を殺した。あの時妻は何かお腹が変だと言った。だけど俺はやめなかった。激しくした俺のせいだ、やめなかった俺のせいだ。俺がもしあの時やめていたら…、子は、助かったかもしれない…。俺が、俺が自分の子を殺した。
それに当時俺はまだ子が欲しいと思っていなかった。もし俺が望んでいれば…、妻に子を、妻を母に出来たんだ。それを…俺が…、俺が……」
ドン、ドン、と何かを叩く音。
ローガン様の顔は見えない。ローガン様の声だけ聞こえる。
神父様は部屋を出て行き、何も話さないローガン様に私は話しかけた。
「どうぞ続けて下さい」
「ジ、」
「どうぞ続けて下さい」
「ああ、長くなるが聞いてくれ。あれは、」
ローガン様は話だし、私は静かにローガン様の話を聞いた。
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