私は旦那様にとって…

アズやっこ

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朝早く起きた私は教会の掃除から始める。床を箒で掃き、長椅子を拭いていく。それから孤児院へ行き朝食の準備を手伝った。数人の女性が既に作っていて、私はお皿を並べた。

子供達が食べ終われば私達が食べ始め、後片付けをしたら少し休憩の時間になる。休憩の時間は自由に過ごす事ができる。昼食、夕食も私は調理の補助として手伝っている。

1ヶ月も過ぎれば孤児院の子供達とも話すようになり絵本を読んで聞かせたり、文字を教えたり、楽しい毎日を過ごす。

抱っこをしたり、手を繋いだり、一緒に遊んだり、子供達と話したりしている。

孤児院で育った子が赤子を連れて遊びに来た時があった。その時一度だけ抱っこをした。その時アイビー様のお腹の中で育った子がこうして産まれる事に、とても神秘的に思えた。

赤子の体は小さく私の指を小さい手でギュッと握った。その時私の頬を伝う涙が赤子の頬に落ちる。

私には赤子を産む事は出来ない。それでも赤子を抱く事は出来る。自分の子でなくても赤子は幸せを運ぶ、そう思った。



教会へ来て3ヶ月、休憩中の私を神父様が呼びに来た。


「ジニアさん、休憩中にすみません。少し教会を手伝ってもらえませんか?」

「分かりました」


私は神父様と孤児院から教会へ行き、


「少しお待ち下さい。大きな声は出さないように」

「はい」


私は神父様の後ろ、中が見えない所で立ち止まった。


「熱心な方が今日も来ていましてね。彼はかれこれ7年以上になりますか、毎日必ずここへ来ています」

「熱心な方ですね」

「ええ、時には神に向かって罵声を浴びせる事もあります」

「まあ」

「いつも決まって『俺の二人の子を返せ』と怒鳴ります。初めてここへ来た時は『俺の子を連れて行きやがって』と怒鳴っていましたよ。それから一年後くらいでしょうか『また俺の子を奪うのか、どれだけ俺から子を奪う』と言って直ぐに帰って行きました。それからも何度も『いつ二人を返してくれる』と。

それから彼はいつも懺悔します。俺が二人の子を殺したと。それから愛する妻を母にする事が出来ないと。俺が心の奥底で子が出来ないようにと望んでいるからだと。

彼は彼が愛する妻を子供に取られたくない、自分がそう望んでいるから神が連れて行くと言っていました。だから自分が自分の子を殺したと。ですが本当に妻との間に子が出来たら嬉しいし喜ぶと。だから返せと、俺達の子を返せと何度も訴えるんです」


神父様は私を見て、扉の向こうの方を見た。


「貴族の中には口さがない者が多い。その恰好の餌食になっているのが彼の奥様です。貴族の中には子が出来ない女性を不能の役立たずの穀潰し、なんて言う人が多い。早く離縁して追い出せ、娼館にでも売ってやれ、子が産めない女は女じゃない、そんな女に使う時間も金も無駄だ、妻の価値は子を産むからだ、そう言って見下し嘲笑する。

彼は奥様をずっと護っていたんです。耳に入らないように、傷つかないように、行動を制限させてまで自分の懐で囲った。

彼は弱い人です。どう奥様を繋ぎ止めておけるか分からないんです」


神父様が後ろに下がり手でどうぞと。私は一歩前に出て、

後ろ姿で分かった。

ううん、神父様の話でなんとなく察していた。


「ローガン様…」


ぶつぶつひとり言を言っているローガン様。耳をすまし聞いていると、


「早く帰って来てくれ、子も産まれた。ジニア、ジニア……」


辛く切ない声を出し神に祈りを捧げるローガン様の後ろ姿を見つめる。

アイビー様は無事に出産されたのね。

それなら余計に離縁した私の事だと忘れてアイビー様と夫婦に、家族になってほしい。

もし責任を感じているのならローガン様に責任はないの。全ての責任は私。それにローガン様は今まで私を護ってくれていたのね。邸から出さないのも、夜会で今日は側にいろと言っていたのも、私は何も知らず護られていたのね。


「話し合いを望みますか?」


神父様に聞かれ私は首を横に振った。


「望みません」


今更話し合いをしても意味がない。離縁しているんだから。



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