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しおりを挟むアイビー様が伯爵家へ来て3ヶ月。
突然私の私室の扉が開けられ、
「ジニア!聞いてくれ!」
旦那様の嬉しそうな顔、嬉しそうな声に私は不安を覚えた。
「アイビーが!アイビーが俺の子を宿した!」
「おめでとうございます」
「ああ!ついにだ、ついに俺の子を!
ジニア、今まで以上にアイビーには丁寧に接してくれ。俺の子を宿した大事な女性だ!」
「分かりました」
旦那様の嬉しそうな顔を見るのは初めてかもしれない。
それからアイビー様は悪阻が始まり、私は果物など食べやすい大きさに切った物を部屋に届けたり、悪阻で戻す時は背中をさすったり、私に出来る事はした。
妊娠4ヶ月になると悪阻も少し治まってきたみたい。寝たきりだったアイビー様が起き上がれるようになり、果物を少し食べている。私はその姿を見つめる。
それでも調子の悪い時もまだあるようで、一日横になってる時もある。
妊娠5ヶ月になったアイビー様から、
「ジニアさん手貸して」
私はアイビー様の言われるように手を差し出した。アイビー様は私の手をお腹に当てた。少し膨らんでいるお腹が私にも分かった。
「ここにローガン様の子がいるの。ジニアさん、産まれたら可愛がってね?」
「分かりました」
私の顔は引き攣っていないかしら。
アイビー様は自分のお腹を優しく撫でている。その顔はもう母の顔をしていた。優しく微笑み、優しい目でお腹を見つめていた。
ある時、話し声が聞こえ私は窓の外を見た。庭で旦那様とアイビー様が仲良くベンチに座っていた。旦那様はアイビー様の少し膨らんだお腹を優しく撫でている。とても愛おしそうに見つめ、仲良く二人で話していた。
旦那様が立ち上がりアイビー様の手を取り仲良く歩く姿を、横に並び手を繋ぎ話しながら歩く姿を私はただただ…、見つめていた…。
旦那様は残酷ね。私が望んでも叶わない願いを、旦那様の子を宿した女性と仲良くする姿を、私に見せつけるんだから。
旦那様とアイビー様、そして産まれてくる子、そこに私がいたら変よ。家族の中を邪魔をする私はまるで悪女ね。
これからアイビー様のお腹はどんどん大きくなっていく。妻でないアイビー様が産んだ子は庶子となる。旦那様の跡を継ぐ大事な子だけど、貴族の立場で言えば庶子では立場が悪い。
アイビー様のお腹に宿る子が将来憂いなく過ごせるように、アイビー様を妻にするのが正しいことだと思う。
私は仲良く歩く二人の姿を遠くから見つめた。
それからもアイビー様は私の手をお腹に当て、少しづつ大きくなるお腹を、お腹の中で動く子を、私の手を通して何度も確認させた。
ここに旦那様の子がいると、私にはどれだけ望んでも叶わない事だと、そう言われているように思えた。
後日アイビー様の診察に来た医師をメイドに頼み私室へ来てもらい、
「奥様、調子が悪いと聞きましたがどこがどんな風にですか?」
「先生にしか頼めません。私の子が出来ない証明と、アイビー様が旦那様の子を宿した証明を書いて頂けませんか?」
「それは……、ご当主は了承していますか?」
「旦那様には内密でお願いしたいんです」
「ご当主が了承していないのにお出しする事は出来ません」
「先生、先生はどう思いますか?私は子が出来ません。アイビー様が宿した旦那様の子がここ伯爵家の跡継ぎです。それでもアイビー様が産んだ子は庶子になります。
家族とは父親がいて母親がいて子がいる。旦那様とアイビー様と産まれてくる子です。では私は?私はなんですか?」
「それは、」
「私は旦那様の妻としてだけでここにいます。子も産めず母親にもなれない。私はこの先もずっと私が得る事が出来ない家族を見続けないといけないんでしょうか。
先生お願いします。私を助けて下さい」
「ですが、」
「先生、結局私は旦那様の何でしょうか。妻である事に間違いありません。もしかしたら使用人かもしれません。もしかしたら娼婦かもしれません。お金で買われた私にも心があります。人権があります。
もう私を自由にして下さい。お願いします」
「では一つだけ確認を」
「はい」
「ご当主と奥様に愛情はありますか?」
「愛情ですか…。情はありますがそれが愛情かは分かりません。それに、元々旦那様から愛されてはいなかったと思っています。私は旦那様から愛してると言われた事が一度もありません。たかが言葉されど言葉ですが、私は旦那様に愛されているんでしょうか」
「……分かりました。では後日証明書をお渡しします」
「ありがとうございます」
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