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しおりを挟む貧乏子爵家の私は学園を卒業した次の日、お父様にお金の援助を引き換えに伯爵当主の旦那様に売られた。
私と旦那様はその日の内に婚約をせず結婚し、結婚式は後日挙げた。
現在旦那様は私より5歳年上の28歳。若くして爵位を継ぎ資産家として一目置かれる存在。
目利きが良く鉱山を買えば金が取れ、他国から珍しい布地を取り寄せドレスにすればまたたく間に売れる。屑石と捨てられていた物を買い取ればダイヤモンドの小さい物でアクセサリーに数個はめ込みとても綺麗で豪華なアクセサリーになった。
旦那様は外ではとても優しい紳士なの。邸でも別に私に対して暴力を振るう人ではないし、愛人も作らない人よ。
ただ、
「おい、ジニア!」
「はい、何でしょう」
「何でしょうだと?俺の服が出してないぞ」
「すみません、今用意します」
「用意は俺が帰るまでにしておけ」
「すみません」
旦那様は怒鳴り声を私に浴びせ部屋を出て行った。
湯浴みを済ませた旦那様は執務室へ行き、私は湯浴みを済ませる。朝食と夕食は必ず一緒に食べる。
寝室へ入って来た旦那様は私をベッドに寝かすとそのまま明け方近くまで離してくれない。
眠い目を擦りながら起き上がり、身支度を整えたら今日着る旦那様の服を用意する。
起きてきた旦那様は、
「何だこの服は、変えろ」
私は違う服を用意し、
「だからいつも言っているだろ。俺の日程に合わせて服を選べと。何年夫婦をやっている」
旦那様は毎日夕食で明日の日程を教えてくれる。誰に会う、どこどこへ行く、それに合わせて服を選ばないといけないんだけど、旦那様の服は邸で着る楽な服以外はどんな場面でも通用する服。だから何を選んでも間違いではないんだけど。
私達は結婚して5年目。子供はいない。夜の営みがない訳ではない。どちらかと言えば月のもの以外は毎日ある。
旦那様は性欲が強いらしく、愛人を作らない旦那様の性のはけ口は妻である私しかいない。
それは喜ばしい事なのよね。
でも、最近思うの。
私は旦那様にとってどんな存在なのかって…。
妻なのか、
使用人なのか、
それとも…、
それでも旦那様のおかげで実家が助かっているのも事実。強欲で豪快にお金を使うお父様のせいでずっと貧乏だったもの。
メイドも雇えずお母様と協力して家の事をやっていたから別に苦ではないわ。
伯爵家にはメイドが数人いる。ただ、旦那様は夫婦の部屋、私の私室を含め旦那様の私室、夫婦の寝室に入られたくないみたいなの。夫婦の部屋にメイドが入れない以上旦那様の服の準備をするのは私しかいない。それに部屋の掃除も。勿論私も自分でしているわ。夜会に行く時だけ手伝ってもらうけど。
だからメイドには夫婦の部屋を除く邸全部をやってもらっている。洗濯はメイドに頼んでいるわ。食事は料理長が作ってくれるの。
「出かける」
「お気をつけて」
旦那様は馬車に乗り出かけた。
旦那様を見送ってから私は旦那様の私室の掃除、自分の私室、寝室のベッドのシーツを替え、庭に咲いている花を飾った。
旦那様が湯浴み後に着る楽な服を準備したら私は私室で本を読む。
本の中だけは私は自由。物語の中で私は勇者になったりお姫様になったり、自由に動き周り色々な所を旅したり、空想の世界で楽しんでいる。空想の世界でしか楽しめないと言った方が正解かもしれないけど。
私が邸から出る時は旦那様と一緒に行く夜会だけだから。
「今帰った」
帰って来た旦那様は私の私室へ必ず来る。
「すみません、お出迎えもしないで」
「明日侯爵家の夜会に行く。着ていくドレスだ」
旦那様はドレスとアクセサリーを机に置き部屋を出て行った。
旦那様が用意したドレスは旦那様が独自に仕入れた布地で作られる。旦那様と夜会へ行き、私のドレスを見てご婦人方が注文をする。
旦那様は商売の才能がある方なの。きっとこのドレスもまたたく間に売れるわ。
次の日、私は私室とは違う部屋でメイド達に手伝ってもらいドレスに着替える。
階段下で待つ旦那様の元へ、私はメイドの手を借りて階段を下りた。
「お待たせしました」
「いつまで待たせればいい。準備くらい早くしろ」
「すみません」
「時間が勿体ない、行くぞ」
旦那様はスタスタと先に歩き馬車へ乗り込んだ。私はメイドに手を借り馬車へ乗り込み旦那様の向かいの席に座る。
馬車は侯爵家へ向けてゆっくり動き出した。
馬車の中はいつも静か。二人の息遣いだけが聞こえる。旦那様は窓の外を見ていて、私は旦那様とは反対側の窓の外を見ている。
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