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45 家族の時間

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「グレース!ようやく目が覚めたのね…」

「お…母様?」

「貴女丸一日半眠っていたのよ?心配したわ」

「一日半も?」

「よく寝てたわね」

「そうね、長い長い夢を見ていたの…」

「私も見るわ。何度も何度もお兄様に連れ戻られる夢よ?」

「ふふっ、伯父様らしいわ」

「貴女の夢はどんな夢だったの?」

「とても悲しい、悲しい恋の夢…」

「そう…」


お母様は私の頭を撫でた。


「さぁ起きないと」


私は起き上がった。


「ハリーもロニーも心配で待ってるわ」

「お父様もお兄様も?仕事は?」

「それどころじゃないって」

「もう!でも嬉しい…」


私は着替えてお父様とお兄様がいる書斎へ向かった。


「お父様もお兄様も仕事に行かないと伯父様が困るでしょ。

でもありがとう。心配かけてごめんなさい」


お父様は私を抱きしめた。私はお父様に抱きついた。


「お父様大好きよ」

「俺もグレースを愛してる」


お父様は私の頭を撫でた。私を愛しいと見つめる瞳。


「グレース俺の事は?」

「お兄様はいつも邪魔ばかりするから嫌いよ」


泣きそうな顔をするお兄様に抱きついた。


「嘘よ、お兄様大好きよ。いつも私を心配して護ってくれてるのもきちんと分かってるわ。ありがとうお兄様」

「グレース、俺もグレースを愛してる」


今はこうして言いたい事を言えてる。お父様もお母様もお兄様もそれを許してくれる。それに私の気持ちを大事にしてくれる。

きっと前の時もそうだったの。

お父様に兄様と婚約したくない、そう言えばお父様は兄様と婚約はさせなかった。反対し続けてくれた。

もし私がフランキーの事が好きと言えばそれも認めてくれた。妃の立場、それで反対はするかもしれないけど、それでも最後は私の気持ちを大事にしてくれた。

幼い頃に秘し隠した気持ち、それをお父様かお母様に話せば良かっただけなの。今日こう言われたけどどうして駄目なの?って。

ただそれだけ

それだけの事があんな悲運にまでなってしまった。

『誰かに恋をすることは罪だと思ってる?』

前にレーナに言われた言葉。

前の私はフレディと初夜を迎えてその行為がフランキーを愛した私の罰だと思った。だから夫婦の営みが罰になった。苦痛を耐え罰を受けていると。

誰かを好きになる事も誰かに恋をする事も、誰かを愛する事も罪だと。

そうね、婚約者がいて婚姻し夫がいて、それでも心の中で愛し続ける。それは罪だわ。

兄様のように言葉に出したから駄目なの?前の私のように言葉に出さなくても心で思い続ける事は駄目な事。

だって私は兄様の婚約者で妻だったから。だからフランキーを家族だと思い続けようとした。

元凶は私

きっと何度0歳児に戻っても私を変えなければ私の最期は不幸なまま。


「お兄様、どうしていつもフランキーの邪魔をするの?」

「俺は、俺だけじゃない父上も母上もグレースが心から本当に好きになった人と婚約して婚姻してほしいんだ。確かに王族唯一の女性、だから国の為の婚約はあるかもしれない。でもお前がそんな事をしなくていいように父上も俺も外交をしている。

今回のフランキーとの事だって国の為かもしれないだろ?俺もだけどお前も隣国の親類だ。フランキーがお前を好きなのは知ってる。フランキーが無理矢理婚約者にしようと思っていないのも知ってる。だからお前がフランキーを好きじゃないうちは邪魔をする。

お前のことだ、仕方がないわね、そう言ってフランキーと婚約すると思った。仲が良いのも知ってるしな。でもお前はフランキーをいとことしてしか見ていない。

グレース、お前がフランキーを男として好き、そう言うのなら俺は見守るつもりだ。兄として妹の幸せを願ってるに決まってるだろ」

「知ってるわ。お兄様が私の幸せを見守ってくれてるのも、私が好きな人と婚約できるように前に立って護ってくれてるのも、きちんと分かってる」

「俺のたった一人の妹なんだ、護るのは兄の役目だろ?あとな、俺との時間が明らかに減った。その不満をフランキーにぶつけてる所はあるな」

「ふふっ、お兄様らしいわ。

でもねお兄様、私フランキーときちんと向き合ってみるわ。いとことか男性とかそういうのを抜きにしてフランシスという一人の人と向き合ってみる。ううん向き合ってみたいの」

「そうか、お前が決めたなら俺は見守るだけだ」

「だからね?今日は家族で過ごしたい。どうせもう王宮には行かないんでしょ?」

「ならそうするか」

「うん」


お兄様は私の頭を撫でた。

お父様とお母様、お兄様と私4人で庭でお茶をする。お父様とお母様の婚約時代の話を聞いたり、どうやって隣国の伯父様を説得したのか。

前の時こんな話すらしてこなかった。

でも本来の私はおしゃべりする事が大好きで、お母様と同じで嫌な事は嫌という性格だったみたい。

だって皆性質は前の時と同じなんだもの。なら私も同じって事でしょ?

これからは言葉を飲み込む必要はない。言葉を選べばいいだけ。そしてその言葉を伝えるの。

それにこんな私でもこの家族は受け入れてくれる。



ねぇ、前の私、どうして家族を信じなかったの?

こんなに私を愛してくれてるのに

こんなに私の幸せを願ってくれてるのに

どうして貴女は一人で頑張ったの?

王女教育が辛いなら辛いって言えばお父様も伯父様も何か考えてくれたわ。

兄様との婚約が嫌なら嫌ってお父様に言えば反対し続けてくれたわ。

お母様に言えば良かったのよ?兄様と婚姻は続けられないって。心で思ってる人がいるって。お母様は受け止めてくれたわ。

どうしてお兄様に言わなかったの?もう耐えられないって。お兄様はどんな私でも誰を敵に回しても私を護ってくれたわ。

ねぇ、前の私、貴女も幸せになれたのよ?

気持ちを言葉で伝えれば良かっただけなの。

封印した心の中で隠れて泣いていないで出てきて伝えればいいのよ。伝えられなかった言葉を。もう伝えても誰も不幸にならない。

貴女の知ってるフランシスを救えるのは貴女だけ、私はそう思うわ。



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