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38 前の時の記憶

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次の日早速ルイに会いに来たレーナを探したわ。

訓練場でルイと一緒に剣を振るレーナ。


「レーナおはよう。後で少しお茶をしない?」

「いいわよ、直ぐに行くわ」


庭に用意されたお茶とお菓子。そこで待つ私。


「グレースお待たせ」

「ごめんね、ルイとの時間邪魔しちゃったわ」

「いいのよ。それよりあれからどうなったの?」

「え?」

「好きだって言われた?」

「それは言われたけど」

「ようやく言ったのね。殿下あの模擬戦にかけてたのよ?優勝するしかないって。何度ルイが相手したか分からないわ」

「そうなの?」

「私は優勝とかよりも気持ちを伝えるべきだって言ったのよ?だってグレース全く殿下の事を男性と見てないんだもの。気持ちを伝えないと伝わらないって。家族のままでいいのかって。

グレースは鈍感だから」

「私そんなに鈍感?」

「あれだけ好意を示してる殿下に気付いてないじゃない」

「どこにフランキーの好意があったの?」

「初めてのお茶会だってグレースには違ったじゃない」

「それは家族だから」

「そうなの、グレースは家族というものを大事にしてる。大事に大切にする事は良い事よ?でも家族というものに固執しているように見えるの。

ルイを大切だと思う気持ちも乳兄妹で大切な家族だから。護衛騎士、それもあるわ。グレースは私の事も大切にしてくれる。それは将来ルイの妻になるから?そこはまだ正式には決まってないけど、でも家族になるから?ロザンヌ様もアルフレッド殿下の妻になるから家族よね。

グレース、貴女は何が怖いの?」

「え?」

「家族に拘る理由はなに?

ねぇグレース、私は貴女に『私の友達よ』そうロナルド様に言った貴女の言葉が嬉しかったわ。貴女は伯爵令嬢の私には近寄れない人だったもの。でもとても気さくに話しかけてくれて、子供だったから、そう言われればそうなんだけど、でもあの緊張したお茶会で貴女は私の緊張を解いてくれたの。素敵なドレスねって。あのお茶会の日初めてドレスを着たわ。ほら家は剣の稽古に邪魔にならないズボンが多かったから。お茶会の為に作って貰った初めてのドレスだったからそのドレスを褒められて嬉しかったの。私も女の子の格好をしていいんだって。女の子の仲間入りしていいんだって。

だから私はグレースという一人の女性の友達になれたと思ってたの。ルイとか関係なく私は貴女の友達?それとも家族として友達なの?」

「レーナは私の友達よ。ルイとか関係なく何でも話せる私の友達だわ。確かにルイの婚約者になると思ってるわ。いずれ家族になるとも。それが頭にない訳じゃないわ。それでもレーナは私の友達よ。

そうね……、

確かに家族に固執してたわ。きっと無意識でだけど。だからフランキーの好意にも気付かないようにしてたのかもしれない。

だって家族なら……」



『くちづけしちゃったね』

『うん』

『ぼくたちのひみつね』

『うん、ひみつね』

『グレースだいすき』

『わたしもフランキーがだいすきよ』


頭の中に流れた映像、

これは?

そう…、これは前の時の記憶よ…、しまい込んで隠した心の記憶…、

そう直感した。

それから堰を切ったように流れる前の時の記憶…


そう…、あれはまだ3歳頃、フランキーと一緒に絵本の中で王子様とお姫様が口付けしてる絵を見たの。メイドに聞いたら結婚式で好きな人と口付けをしてる所だと教えてもらった。結婚式の意味が分からなくて聞いたら、ずっと死ぬまで一緒にいる事だって。好きな人と離れない事だって。

私達は絵のように口付けをしたらずっと死ぬまで離れなくていいと思ったの。いつも一緒にいたから。お互い大好きだったから。子供の頃の大好きよ?お互い深い意味はないわ。

フランキーが大好き

でもそれを心にしまった。口付けしてる私達を見たメイドが言ったの。『フランシス殿下とグレース様は家族なので結婚できません。だからこんな事しては駄目です。殿下を好きになってはいけません』って。

メイドが悪いんじゃない。口付けしてるのを見たのが違う人なら私とフランキーは離された。幼い子供だから、それでは終わらない。第二王子と唯一の女児。

例え教育が始まる前の事だったとしても私とフランキーがいざという時に他国へ嫁ぐ、それは皆が周知している事。

だからまだ幼く何の意味かも何も分からないうちに、幼い子供の言う大好きのうちに、メイドは止めただけ。

これ以上私達がお互いを思わないように…。貴族の誰かに見られて大事になる前に…。

幼い子供の戯れ言、それで終わらせようとした。


「グレース?」

「……家族なら、側にずっといられるから」


そう、家族ならフランキーの側にずっといられるから。

大好きって言わなければ今まで通り一緒に遊べるから。

口付けをしなければフランキーと離されないから。

私が家族のフランキーを好きになるのは駄目な事だから。

私がフランキーを好きだと誰にも知られてはいけないから。

私はフランキーを好きになった悪い子だから。


だから幼い私は、フランキーが大好きという気持ちを心にしまって隠したの。

絵本の中のように結婚できなくても、

家族ならずっと一緒、

フランキーの側にいられる……


だから家族に拘ったの?


家族だから、家族じゃないといけないから。

そう、その時のメイドの顔が怖かったからよ…。

普段は優しいメイドのあの時の顔が怖かった。まるで見てはいけないのを見た、そんな目が顔が恐ろしいものに見えたの。そして私は泣き出した。泣いてる私を心配したフランキーは手を繋ごうとした。私もフランキーと手を繋ごうとした。

でもこれは安心を求めただけ

そこにお兄様がいても同じ行動をしたわ。泣いてる子供が親を求めて手を差し出す事と同じ。安心を求めただけ。

だけど私達が口付けしている所を見たメイドはそう捉えなかった。私を抱き上げフランキーを残して部屋を出て行った。

だから幼い私は『フランキーを好きな事は駄目な事』そう思ったの…。


だから私は『家族』というものに固執した…


家族なら今まで通りフランキーと遊べるから。



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