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36 厄介な心
しおりを挟む「第二王子だから好きな人を諦めないといけないのか?王太子じゃないから我慢しないといけないのか?
俺はお前が好きだ…。お前を諦められないよ……」
フランキーは俯いた。机の上に置かれたフランキーの力いっぱい握りしめる拳。
「フランキー、顔を見せて」
「…嫌だ」
「ほら、見せて、ね?」
フランキーは顔を上げた。
フランキーの泣きそうな顔。
フランキーは昔からそう。心が優しい分心を隠してどんな事でも我慢する。
泣いて喚いて、それが出来ないからいつかフランキーの心は壊れてしまう、そう思ったの。
「フランキー好きよ。これはまだ家族としてだけど。でもそれでフランキーを嫌う事はないわ」
「ああ、分かってる」
全力で気持ちを伝えてくれる人に私は全力で答えないといけない。
それに私の質問はフランキーの心を丸裸にするようなもの。人には見せない、好きな女性には見せたくないフランキーの本心。
でもごめんねフランキー
前の時を知ってるからこそ私は人を信じるのが怖いの。人の地獄絵図みたいな所を見てそして殺された。その記憶を持つ以上本心を知らないと私が誰かを好きになる事はないの。
本当に厄介よね。
前の時を知らなければフランキーと婚約していたかもしれないわ。違うわね、前の時を知らなければフレディと婚約してたわ。そしてまた同じ事を繰り返すの。
だから私は前の時の記憶を持ってる。
私は家族として信頼も信用もしてるわ。それはフレディの事もフランキーの事も。でもそれは恋ではないの。
だから私も本心を見せるわ。それが貴方に対する私の誠意だから。
「フランキー、貴方は家族愛じゃない愛を求めているのよね?私は家族としてフランキーを信頼もしてるし信用もしてる。
でも私は人を信じる事が苦手みたい。好きな人となるとね。
私はこれからもフランキーの見せたくない心を見たいと思うわ。男性として好きな人に見せたくない心をよ?
それでフランキーが私を嫌うならそれでもいいの。やっぱり私とは婚約したくない、家族のままでいい、そう思うかもしれないわ。
それでも私には大事な事なの。それがフランキーを男として見るって事よ?それでもいいの?」
「グレースはグレースだろ。それが大事だとお前が言うなら俺はお前に心を見せる」
「ありがとうフランキー」
私は心が軽くなった。
厄介な自分を受け止めてくれる人がいる、それがどんなに心強いか。
フランキーには幼い頃から本当に貰ってばっかり。その優しさに何度も助けられ支えてもらったの。
「それでフランキーは私と何をしたいの?今までとあまり変わらないわよね。だってこうしてお茶もする。散歩だって、でしょ?」
「手を繋ぐとか」
「それだってさっきも繋いだわ」
「抱きしめるとか?」
「それも何度もあるわ」
「違うだろ」
そう言ったフランキーは立ち上がり私の隣に立ち手を差し伸べた。差し伸べられた手に手を重ね私は立ち上がり、フランキーは私を抱きしめた。
いつもと変わらないわ。
「これが家族として」
「そうね」
優しく包むような抱きしめ方。
「これが」
フランキーは私をギュッと抱きしめた。フランキーの体温を感じるほど体が密着している。
「好きな人を抱きしめるって事。違いが分かるか?」
私はコクコクと頷いた。
フランキーの息が耳元をくすぐり、私を抱きしめる腕は離さないとまるで言っているよう。逞しい胸に顔が近づきフランキーの胸の音がドクンドクンと耳から聞こえる。
「グレース好きだ…」
切ないようなフランキーの声。
その声に私の胸もドクンドクンと音を立てる。
フランキーは私を離した。
フランキーの温もりがまるでまだ体に残っているようで…
一瞬が何分にも感じられた。
「こういう抱きしめたいだ」
「そう、なのね」
「後は膝に座らせるとか」
フランキーは私が座っていた椅子に座り私を引き寄せた。自然と膝の上に座らされた私を後ろから抱きしめる。
「フランキー、もう分かったわ、分かったから。
恥ずかしくて、耐えられない…」
「俺さ、ロニー兄上がずっと羨ましかったんだよな。ロニー兄上だけグレースを独り占めしてただろ?ロニー兄上は俺には絶対に触らせなかった」
「でも手を繋いだりしてたわよね?」
「ロニー兄上のいない所でだろ?」
「そういえば、そうかも」
「小さい頃に4人で遊んだ時も俺には手を繋がせてくれなかった。それなのに兄上には繋がせていただろ?」
「そうだった?」
「そうだよ。お前も幼いだろって」
追いかけっこをする時、ほとんどがお兄様と手を繋いでいた。時にはフレディと手を繋ぐ事もあった。それはお兄様が休憩する時とか席を外す時、その時は確かにフレディと手を繋いでいた。追いかけっこの最中だったから。
私が転けるのを防ぐ為に
だから1歳違いのフランキーだと一緒に転んで危ないからだと思っていたんだけど。
「だからこうして膝の上に座らせたいってずっと思ってたんだ。こんな事でもないとお前だって俺の膝の上に座らなかっただろ?」
「そうね。膝の上に座るのってなんか恋人同士みたいじゃない?お兄様はただ私を甘やかしたいだけだし。それに今はしなくなったわ」
「どうして」
「もう私も小さい子供じゃないもの。お兄様の膝には座らないわ」
「なぁグレース…、膝の上に座るのは俺だけにしてくれないか?」
私は振り向いてフランキーを見た。
懇願するような顔。
フランキーは無愛想だと思っていたけど、私の知らない顔もするのね。きっと今まで隠してきた顔。
「分かったわフランキー」
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