33 / 55
33 褒美
しおりを挟む「やっぱり決勝戦だけあって見応えがあるわね」
お母様の声に私は考えるのを止めた。
「もう始まってるの?」
「見てなかったの?」
「……考え事してたから…」
「フランキーも可哀想ね。貴女に見てもらえないなんて」
「今からちゃんと見るわ」
私はフランキーが戦う姿を目で追う。
頑張って、頑張ってと念を送る。
「頑張ってフランキー」
決勝戦まで来たのよ?優勝するんでしょ。
私は一喜一憂した。フランキーが攻めれば喜び攻められれば『もう何してるのよ』と心配した。
「実力は互角。後は気持ちの強さだな」
「気持ちの強さ?」
「負けたくない、必ず優勝するんだっていう気持ちの強さ」
「それは相手も同じよね?」
「確かにな。だからここまで来たら最後は己との戦いだな。お互い譲れない思いは同じ。少しの油断も隙も相手に与えてはいけない。騎士は鋼の精神を持つと言われているが俺達みたいな若い者はまだ持ち合わせていない。
決勝戦、相手の剣を弾いたら優勝、どうしても頭の中によぎる。いかに目の前の敵に集中できるか、いかに自分の剣を振れるか、己の気持ちの強さ、それが勝敗の分かれ目になる」
「でも実力以上の力を出せる時はあるわよね?」
「確かに実力以上の力を出せる時はあるかもしれない。でもそれは日々の鍛錬や稽古をしているからだ。日々の鍛錬や稽古は嘘をつかない。日々の鍛錬や稽古は蓄積され自分の力になる。
模擬戦、大観衆が見守る中、周りは熱を帯び、経験した事のない独特な雰囲気の中、この場は俺達若い者には初めての経験に近い。実力を出しているようで出ていない。
それに今は決勝戦、皆がその行方を見ている。集中力、己に蓄積された力、己を信じて剣を振る。でも最後はいかに平常心を保てるかだと思うぞ」
長い戦い、見ているこっちも力が入る。
「もうそろそろですね」
「どっち?フランキー?相手?」
「さあどちらでしょう」
「教えてくれてもいいじゃない」
私は二人の戦いを目を離さず見つめる。
長い長い戦いはフランキーが相手の剣を弾いて終わった。相手の騎士と挨拶を終えお互い称えあっている。
「フランキーが勝ったわ。優勝したのね、ね、ルイ」
「ああ、あいつの勝ちだ」
「フランキーすごいじゃない」
『勝者 フランシス』
歓声があがりフランキーは手を振っている。後は褒美を貰うだけ。
模擬戦場から階段を上り国王陛下の前で片膝をついた。
「騎士フランシス、素晴らしい試合だった。勝者のお主には褒美を贈ろう」
「ありがとうございます陛下」
伯父様嬉しそうだわ。それはここにいる皆が思う気持ち。
「褒美は何がいい。剣か?」
「陛下、褒美で頂けないものは何がありますか?」
「国と民、そして統治する権利、その権利を持つ者、その後継者、国の存続が危ぶまれる程の金子、他国と戦になり得る要求、他者に害を与える要求、爵位、領土」
国と民を統治するのは国王、その後継者は王太子、それは駄目。お金も多額は駄目。他国と戦になる要求、他国の王族の妻を娶りたいとか?後は他国の領土が欲しいとか、かしら。それは勿論駄目よ。他者に害を与える、それは幅広いわよね?例えばお兄様から王位継承権を奪うとか、お兄様を追放とか?悪事をしているのなら正当に訴えるべきだわ。何もしていないのにそれは駄目よ。爵位や領土も模擬戦の褒美で与えるほどの物ではないわ。他国との戦の活躍とかならまだしもね。
「では、その他なら褒美として頂けるという事ですか?」
「それはお主の褒美を聞いてから答えよう」
伯父様も困ってるわ。そりゃあ困るわよ。模擬戦の褒美とはいえあげれる物とあげられない物はあるもの。剣だって弓だって槍だって馬だって、褒美にしては高価よ?でも騎士として今後使う物だから伯父様は許してきたの。誰だって高額な物は直ぐに買えないわ。でもそれが騎士達の今後の励みになり士気に繋がるからよ?来年こそは優勝しようって。だからだわ。
「では私の褒美はグレース大公女を口説く二人だけの時間です」
「口説く時間、とな」
私を口説く時間?フランキー何を言ってるの?
「陛下発言を」
「なんだ」
「それは先程陛下が言われた他者に害を与えるに該当します」
もうお兄様、伯父様が『またか』って顔をしているじゃない。ここにいる皆が思ってるわよ?
「そうとも捉えられる」
「ですが、本人が受け入れるのならば該当しないと思います」
フランキーまで…。
「それもそうか」
「陛下、家族を代表して一言よろしいですか?」
「言ってみろ」
「勝者の褒美だとはいえ妹はまだ婚約者がいません。それはフランシス殿下も同じです。
騎士フランシスと言えど第二王子なのは皆が周知しています。殿下は口説く時間と言いましたが、相手は殿下、断った際悪く言われるのは妹の方です。
それに妹には好意を持った男性と婚約してほしいと願う家族の心も配慮して頂きたい。
それと陛下、褒美に王命を出す、までの事ではないですよね。王命はそう安安と出せるものではありませんから。
陛下、ご決断を」
お兄様の言いたい事はあれよね。
たかが褒美にフランキーと二人きりで会わせる事は出来ない。
それに第二王子のフランキーが口説くと言う事は婚約が周りから固められる。それを断れば私は周りから責められる。
殿下の何が不満だ、殿下の申し出を断るとは何事だ、女性は黙って従っていればいい、そんな所?
強引な婚約は家族として認めない。
だから王命なんか出すなよ。
お兄様の気持ちは嬉しいわよ?
でもね…
伯父様の顔を見て。
一気に老け込んだじゃない。
14
お気に入りに追加
1,205
あなたにおすすめの小説
【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、
ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。
家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。
十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。
次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、
両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。
だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。
愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___
『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。
与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。
遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…??
異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。
ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」
ぱさっ。
伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。
「きちんと目は通してもらえましたか?」
「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」
ざわざわ。ざわざわ。
王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。
「──女のカン、というやつでしょうか」
「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」
「素直、とは」
「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」
カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。
「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」
「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」
カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。
「それではどうぞ、お好きになさいませ」
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
時を戻して、今度こそ好きな人と幸せになります
編端みどり
恋愛
王女カトリーヌは、婚約の王子から冤罪をかけられて婚約破棄をされた。やった! あちらからの破棄なら慰謝料も取れるし、ようやく国に帰れるわ! そう思っていたのに、婚約者はわたくしを地下牢に閉じ込めて一生仕事だけさせると言い出した。逃げようとするカトリーヌを守って騎士が死んだ時、王族の血族のみが使える魔法で過去に戻る。
過去に戻ったカトリーヌは、今度こそ幸せになれるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる