0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ

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32 視線の意味

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フランキーはあれからなんとか持ち直し決勝へと駒を進めた。そして今は次の準決勝の試合。

ルイの解説付きで観覧しているわ。フランキーの試合を見ていて解説があるとより楽しめたの。今まではただ見ていただけだから。

ルイの解説を聞いていると視線を感じた。

睨んでいるフランキーの目。まるで怒っているような妬むような、射るような視線。

前の時に散々向けられたその視線…

あのフランキーの目を見ると私は前の時の最期を思い出した。今も鮮明に残る最期の時、あの光景が頭をよぎり震えていた。


「グレース、おいグレース」


ルイの私の肩に置いた手に体がビクっとした。


「どうしたんだ」

「フ、フランキー…が……」

「こっちを見ているだけだぞ。まぁ少し殺気だってはいるけど決勝戦前だからな、あんなもんだ。大方お前に格好良い所を見せたくて集中しているんじゃないのか?」


決勝戦前だから殺気だってる?本当にそれだけ?

派閥が出来てフランキーとすれ違っても目を合わせないようにした。もし目が合っても直ぐに反らした。それに挨拶は勿論、話しかける事も話す事も一切しなかった。

その時私はフレディの妻だから殺気だつ目は分かる。でもそれ以前から向けられていた視線だった。

一緒に話している時は基本無愛想だけどそれでもたまに笑って…、あんな目で私を見ていなかった。

私は前の時を知っているから余計に敏感になっているのかもしれない。


「ルイ、ありがとう」


肩に置かれたルイの手に手を重ねた。

ルイの手は温かい。ちゃんと生きてる。元凶だったフレディとの婚約も無くなった。今の所派閥が出来るような兆しもない。

大丈夫、大丈夫…、未来は変えられている。大丈夫、大丈夫…

私は何度も『大丈夫』と自分に言い聞かせた。


「もう大丈夫よ。あんなフランキーを見た事が無かったから驚いただけよ」

「騎士にとって殺気は闘志の表れだからな。それだけ優勝戦にかけているんだろうな」

「そうね」


ルイは私の肩から手を離した。


「また気負いすぎないといいけど…」

「大丈夫だろ」


フランキーを見ているとレーナが柵越しに話しかけている。

騎士による助言は禁止されている。どう相手と戦うか、一人で考え一人で策を練る。だから経験の浅い若い騎士しかこの模擬戦には出られない。実力の差が目に見えて分かるから。負けて悔しいと思えばより一層稽古に励む。騎士にとって向上心を持つ事は必要だから。でもそれは日々の稽古では得られない。模擬戦は自分の実力をぶつける戦いだから自分の実力を知る良い機会でもあるの。

でもレーナは騎士じゃないからルール違反ではないわね。きっとさっきの試合を見てレーナなりにフランキーに発破をかけに行ったのね。だって背中を叩かれているもの。しっかりしなさいよって。

レーナと笑い合ってる。緊張は解れたみたいね。これならフランキーの実力が出せるわ。

なんて私は二人の姿をほのぼのと見ていたの。

そしたら後ろから圧?みたいなものを感じる。怖くて後ろを振り向けないわ。

ルイの視線の先にはフランキーとレーナ。さっきのフランキーと同じ目を向けている。どうしてルイは殺気だってるの?試合でもないのに。


「ねぇルイ、その目はなに?」


ルイは私の声に視線を戻した。


「目?何か付いてるか?」


ルイは目を擦っている。


「そうじゃなくて、さっきの視線よ。フランキーとレーナを見てた視線」

「俺は普通に見てただけだぞ」

「明らかに普通じゃなかったでしょ?」

「そうか?フランキーとレーナが話してるなって見てただけなんだけどな」


ルイは本当に私の言ってる意味が分からないって顔をしている。


「グレース様、それは、」

「アルロ」

「奥様すみません、出過ぎた真似をしました」

「お母様は分かるの?なら教えてよ。お母様はいつも何も教えてくれないんだから」

「あら、普通は自分で気付くものよ?でもグレースはお婆ちゃんになっても気付かなさそうね」

「お母様は意地悪ね」

「仕方がないわね。そうね、その時のルイの気持ち、かしら。それを考えたら自ずと答えは出せるわ」


ルイの気持ち?

ルイの視線の先にはフランキーとレーナが仲良さそうに笑い合ってた。でもそれはレーナもたまに騎士団にルイと一緒に顔を出すから。レーナは騎士じゃないけど稽古はしてるもの。ルイと仲が良いフランキーとは知り合いだから声をかけるくらいするわ。それにさっきの試合でレーナなりに思う事もあっただろうし。

私には発破をかけられてるって見えたわ。

でもルイには違って見えたって事?

確かにフランキーがレーナの話をするとルイは険しい顔になるわ。

でもレーナが好きなのはルイなのよ?ルイもそれは知ってるわ。それにフランキーに対する態度は友達に近いような気さくな感じよ?レーナからフランキーが好きって態度は見えないもの。

それでも嫌だった…?

好きな人が自分以外の男性と仲良く話す姿を許せなかった?

例えレーナが友達だと思っていても、

例え自分の知ってる人でも、

例え自分の友達でも、

好きな人が自分以外の男性と仲良くする姿は見たくないって事?


ルイの気持ち、それは嫉妬?

嫉妬ならあんな目をしても分かるわ。

でもそれはルイがレーナを好きだからだわ。

でもフランキーは?

フランキーはどうしてあんな目を私に向けるの?

それが分からないの。

フランキーは何に嫉妬したの?



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