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29 言い争いを止めたのは
しおりを挟む言い争いをしているお兄様とフランキー。
段々幼い頃の話の言い合いになってきたじゃないの。あの時はどうだったこの時はどうだったって。
私は途中から馬鹿らしくて聞いてないわ。昔から聞いてるふりは得意だもの。一人でお茶とお菓子を楽しんでるわ。
でもこれは流石に止めないとね。もうお互い終わらせ方が分からないというか、もう引くに引けない、それよ。
「ルイ付いてきて。お父様を探すわ」
ルイは頷いて私はロイスを見た。ロイスも頷いている。
お父様を連れて来ようと私とルイは立ち上がった。私が立ち上がった事も気付かない二人。
急いでお父様を探す。
教育を学ぶ建物、王子教育や王子妃教育、ダンス室や図書室、教育に必要なものが全て揃っているわ。
その建物から控室へ向かう廊下を歩いている二人を見つけた。
「兄様」
私はフレディの背中を掴んだ。
私も焦っていたの。いつもの私なら声をかけるわ。『アルフレッド殿下』って。でもどんどん激しく言い争いをする二人を早く止めないと、その気持ちの方が強かった。
「兄様早く来て」
私はフレディの手を握り早歩きで元の場所に戻った。
まるで愛の逃避行をする二人みたいに。
逃避行?
今から行く場所は修羅場よ。
「お、おいグレース、どうしたんだ」
「いいから早く。兄様も早く歩いて」
大丈夫よ?逃避行には見えないから。ルイは私とフレディの直ぐ後にいるし、少し後ろにはフレディの騎士とロザンヌ様も付いてきてる。
それにあの廊下は王族関係者しか通れないの。
庭園が見えて来て
「はあぁ、またあの二人か…」
フレディの呆れた声。
フレディが立ち止まり手を繋いでいた私も立ち止まった。振り返る私の頭を撫でるフレディ。
「グレースよく知らせてくれた。もう心配するな、俺が二人を止めるから」
「お願いね兄様…」
「だからもう泣くな」
フレディは私を抱き寄せ背中をトントンと子供をあやすみたいに優しく叩いた。
「怖かっただろ?でももう大丈夫だ。グレースはここで待っていろ、いいな?」
私は頷いた。
フレディは二人の元へ歩いていき、私を抱きしめたロザンヌ様。
「お姉様…ごめんなさい…」
「いいのよグレース、ほら泣き止んで。二人の事は聞いていたけど…、ロナルド様が声を荒げる姿を初めて見たけど、少し迫力があって近寄りがたいわね…」
「お姉様、はっきり怖いって言ってもいいのよ?」
「ふふっ、そう?なら、怖いわね。普段の姿からは想像できないもの。威圧的で鬼気迫るロナルド様の表情や声、それに放つこの場の空気は私でも涙が出るわ。フランシス殿下はよく言い争いができるわよね?殿下も負けてないもの」
私はもう慣れたわ。でも初めて言い争いをした時はガタガタと震えたもの。声を荒げる二人が別の人になったみたいで。あの時はお父様が二人以上の威圧を放って、伯父様は私を抱きしめたわ。
それから二人はお父様に別室で叱られたの。
だから二人が熱くなる前に伯父様かお父様が止めるのよ。二人共伯父様とお父様の声は届くみたいだから。
ロザンヌ様は平気な顔をしているけど手は震えている。
「フランシス、ロナルド、これはどういう事だ説明しろ」
フレディの声に二人は言い争いを止めた。
「フランシス、お前は今日の主役なんだぞ。こんな所で油を売っていてどうする」
「すみません兄上」
「ロナルドお前もだ」
「すみませんアルフレッド殿下」
「今は他国から客人が大勢来ている。そんな時に第二王子と大公子の揉め事が何を指すと思う。二人共今一度己の立場をよく考えるんだ。
ロイス、ロナルドを連れて行け」
「はいアルフレッド殿下」
ロイスはお兄様に近寄った。
お兄様がフレディの横を通り過ぎる。
「ロニー少し頭を冷やして冷静になれ」
「すまないフレディ」
フレディはお兄様の肩を叩いた。
お兄様は私の前に立ち止まり
「怖い思いをさせたなグレース」
私は顔を横に振り、お兄様は私の頭を撫でた。
「フランキーお前もだ、いつもロニーに食ってかかって、冷静になるんだ」
「すみません兄上」
フランキーも私の前に立ち止まり
「ごめんなグレース」
「私は大丈夫よ」
フランキーは私の目に残る涙を拭い歩いていった。
「本当にあの二人は…」
疲れきったフレディの顔。
「兄様、どうしてお兄様とフランキーはいつも言い争いをするの?」
「それには理由がある」
「理由?」
「いつか分かるさ」
そういって呆れた顔で笑い私の頭を撫でるフレディ。
私だってまだこうやって兄様に甘えて頼るのよ?兄様にとって私は妹だもの。それは私が何歳になっても変わらないわ。
私が何歳になっても兄様は私の頭を撫でるのよ。でもそれは子供扱いじゃないわ。兄妹として家族として愛する気持ちは変わらないからよ?
でもフランキーは男性だからやっぱり対等になりたいのかしら。
「俺達はもう行くけどグレースは少し休憩していくか?その顔では帰れないだろ」
「もう大丈夫。どうせお兄様が馬車で待ってるわ」
「それもそうだな。ロニーがお前を置いて先に帰る訳がないか。
いいかグレース。ロニーに文句の一つでも言ってやれ。ロニーにとってグレースの文句が一番効くからな。
ルイ、グレースを頼むぞ」
「兄様もお姉様もごめんなさい」
「気にするな」
フレディは優しい笑顔で笑ってロザンヌ様と戻っていった。
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