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25 久しぶりのお茶の時間
しおりを挟む「グレース」
突然手首を掴まれた。
全速力で走ってきたのかフランキーは汗をかいていた。
「フランキーどうしたの?」
「もう帰るのか?」
「ええ、挨拶も済んだもの」
「俺が帰るな、って言ったら残ってくれるか?」
「フランキー?どうしたの?」
「なあ、グレース、答えてくれ…」
「フランキー、もう私の助けがなくても立派に挨拶もできてたわ。それにもう成人したのよ?
フランキーなら大丈夫」
「そうじゃなくて!」
フランキーの大きな声に私は周りを確認した。
馬車は家の馬車だけ、それが幸いだわ。
「フランシスいい加減になさい」
お母様は馬車から降りてきていた。
「今日は貴方の誕生会なのよ?それにこのような場所で貴方は何をしているの。手を離しなさい。紳士の取る行動ではないわ」
「すみません叔母上」
フランキーは私の手を離し俯いている。
自分の為のお茶会や夜会、自分を祝う為に来てくれた貴族や他国の招待客、初めて夜会に出席するフランキーの心の不安はよく分かる。
フランキー…
フランキーは真っ直ぐお母様を見た。
「叔母上、今日は俺の誕生日です。誕生日の我儘を聞いて下さい。お願いします」
フランキーはお母様に頭を下げている。
そもそもフランキーは私には言ってもお父様やお母様、お兄様には我儘は言わない。
伯父様にも伯母様にもあまり言わない。フレディは兄弟だから我儘というよりも甘えの方。
だから前にフランキーとフレディの言い争う場面には驚いたの。あんなに感情を露わにしたフランキーの言葉を聞いた事がなかったから。
前の時を知っているとはいえ、あれは大人になってからで子供の頃ではなかったから。
「聞くだけ聞くわ。返答はその後よ」
「はい、ありがとうございます叔母上。
グレースと少しだけ二人の時間を下さい。二人だけで話す時間を下さい、お願いします」
フランキーはまた頭を下げた。
王子たるものこんなに頭を下げていいの?とは思ったけど、お願いする時に頭を下げれるのはフランキーの良いところよね。
子供の頃から騎士達に交ざって練習してた時も頭を下げていた。『教えて下さい、お願いします』って。
最近は騎士達とも和気あいあいと過ごしているもの。第二王子ではなくてフランシスとして。
お母様はずっとフランキーを見ている。
お母様の考えも分かる。フランキーが我儘を言わない事も、そのフランキーが我儘を言った事も。でもその我儘を聞き入れられない事も。
「分かったわフランキー。でも二人は駄目よ。ルイ、貴方も一緒に同席しなさい」
「叔母上、」
「フランキー、これは貴方の為でもあるしグレースの為でもあるの。こんな方法が貴方の望む事なの?違うでしょう。それをもう一度考えなさい。
30分よ。30分だけ。今日招待された他国の言語とマナーの復習をしたい、そうよね?」
「はい、そうです」
「グレース、復習を手伝ってあげなさい。フランキーの粗相は国の粗相。心してね」
「分かりましたお母様」
「後でロイスを寄越すわ」
「はい分かりました」
ロイスを寄越す、それはお兄様を寄越すという事。
フランキーは前を歩き私はその後ろを歩く。そしてすぐ後ろにルイが付いて来る。
いつもの庭園、準備されたお茶とお菓子。机の真ん中には薔薇の花。
フランキーと私、ルイも座った。
「どうしたの?フランキー。不安なの?」
「……誕生日くらい、好きな(子と)……、過ごしたいだろ」
「そうね、息抜きは必要よね」
「息抜きは必要だろ。グレースだけなんだ。グレースの前でだけ俺は一息つけるんだ」
「少し力を抜いたら?今からそうだと夜会までもたないわよ?」
ルイからの視線を感じルイを見る。
ルイ、そんな残念そうな顔を私に向けないで。
「ルイ、また騎士団に来いよ。また一緒に稽古しないか?」
「ああ、そうだな」
フランキーとルイは仲良く話をしている。
前の時もそうだったけど、フランキーとルイは仲がいいの。ルイも時々騎士団の騎士達に交ざり稽古をしている。ロイスがそうだったように。
歳が近い二人は直ぐに仲良くなった。
それに私の乳兄妹だと知っているしルイの話はしてたの。『ルイはわたしのきしになるのよ』って。
ルイは将来私の護衛騎士になる為に幼い頃からマークスの剣の指導を受けているの。
前の時、仲が良かった二人が仲違いしたのは派閥が出来てから。
私は王太子の妃、第一王子派ね。ルイは私の護衛騎士だったから第一王子派。
私は中立です。そう思っていてもそれが良しとはならなかった。
「レーナも今度連れて来たらどうだ?」
フランキーが余計な事を言うから、ほら、ルイが険しい顔になったじゃない。
レーナ、前にフランキーのお茶会始めで仲良くなった伯爵令嬢よ。
フランキーと同じ年だから私とルイより1歳年上ね。
レーナの家は騎士家系なの。レーナは騎士にはならないけど剣の稽古はしているの。物心つく頃から剣を見て育ってきたから自然と剣を振っていたらしいわ。
前に一度剣の稽古をしようとレーナに頼んで教えてもらったんだけど、ダンスといい剣といい、私は体を使う事は苦手みたい。『グレースはルイに護ってもらうのがいいわ』って言われたわ。
ルイとレーナは婚約こそまだしていないけど両思いなのよ?あと一歩ルイが踏み出せばいいんだけど…。
ルイはルイで騎士見習いの間は言えないって、騎士ってどこか見栄を張るのよね。
見習いでもなんでも婚約は別だと思うんだけど。後は『婚約しよう』って言うだけなのに。
レーナもそう言われるのを待ってるのよ?
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