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17 子供らしく

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私はお父様の言い付けを破り自分の感情のままダンス室を出た。

そして向かった先、


「やっぱりここに居た」


一心不乱に剣を振るフランキーの姿。

私は柵の外からフランキーを見つめる。

怖い顔をして一点を見つめるフランキーの顔。その顔を何度も見た。

懐かしさと同時に怖さもある。剣の腕を磨く、それは国を守る為に使うものなら良い。でも実際は兄であるフレディに向けるものに使われた。


今のフランキーは何を思っているの?

ねぇフランキー、貴方は今、何を見つめているの?

貴方の目線の先には何が見えているの?

ずっと一緒にいたのにフランキーの心の中が何も分からないわ…。


フランキーを見つめる私の肩を叩かれた。


「ロイス」


お兄様と同じ歳のロイスはいずれお兄様の護衛騎士になる。私の護衛騎士だったルイのお兄様。今は王宮の騎士達に交ざり剣の腕を磨いている。


「グレース様お戻りを」

「嫌よ」

「ロナルド様がお探しです」

「それでも嫌よ。今のフランキーを置いていけないわ」

「それでもお父上とのお約束です」

「それは知ってる、知ってるけど、私が嫌なの。私がフランキーの側にいたいの。後でお父様にもお兄様にも怒られてもいいわ。だからロイスは下がって」

「下がる事はできません」

「なら離れて隠れていて。それならできるでしょ?

お願い、ロイス、お願い…、少しだけフランキーと二人になりたいの…」

「分かりました。ではすぐ近くに待機してます。ですが何かあった時は力尽くでも連れて戻ります」

「分かったわ」


ロイスが離れた所に行き、私はフランキーが終わるのを待っている。

ただ見つめ、自分の心の声に耳を傾ける。

兄弟とは違う、友とも違う、何か別の…何か。その何かをどう呼ぶのか、呼び方も分からない。

その何かを考える…

心配、不安、傷付いてほしくない、笑っていてほしい、幸せになってほしい、

私の一部のような、片割れのような、そんな存在。

でも前の時は私にも余裕が無かった。だからフランキーの心を救う事は出来なかった。

隠してしまったフランキーの心の声。

それは今も隠されたまま…

隠れた心に何があるの?

教えてよフランキー…


私はフランキーを見つめる。


フランキーが剣を下ろした。


「フランキー、もう終わった?私も終わったの。

ねぇ、散歩しない?今日先生に怒られて少し落ち込んでるの。ちょっと付き合ってよ。ね?」

「まあ、いいけど…」

「早く早く」


私はフランキーに笑いかける。

フランキーは柵を乗り越え私の隣に立った。

私達は歩きだし、前を歩くフランキーの背中を見つめる。

手を伸ばせば届くその背中。でも見つめるだけだったその後ろ姿。

掴む事も声を掛ける事もしなかった前の私。


泣いて怒って甘えて笑って、子供らしく…

先生、私はまだ子供でいていいの?子供のように我儘を言ってもいいの?


「ちょっとフランキー!どうして一人で前を歩くの?」


立ち止まり振り返るフランキーは驚いた顔をした。


「手、手繋いでよ」


フランキーから離れた所に立ち止まってる私は右手を出した。

私の所まで歩いてきたフランキーは私の右手と自分の左手を繋いだ。


「行くぞ」


私の手をギュッと握るフランキーの手。

私はいつの間にか微笑んでいた。


「何を怒られたんだ?」

「私ダンス苦手じゃない?今日も沢山叱られたわ。なのに練習してきなさいって。苦手だからしたくないのに」

「苦手だからするんだろ?」

「苦手だから極力避けたいんでしょ」

「そんな事言ってたら一生上手くならないだろ」

「上手くならないなら踊らなきゃいいじゃない」

「それはお前無理だろ」


呆れた顔をして笑ったフランキー。


「笑ったわねフランキー」

「笑ったんじゃない、呆れたんだ」

「失礼ね。ならいいわ、私はフランキーと踊るから」

「俺と?なんで」

「フランキーの足を踏むためよ」

「どうして足を踏む前提なんだよ」

「どうして?当たり前じゃない。フランキーは素の私を知ってるからよ。

怒って泣いて、笑って喜んで、こうして甘えて、言いたい事言い合って、それが私。その素の部分をフランキーに見せれるから、だからよ。

だからもし足を踏んでも『やっちゃった』『やったな』それでお互い何もないわよって顔をして笑い合うの。私達ならそれができる、そう思わない?」


繋ぐ手に力が入ったのが分かった。


「フランキーは違うの?フランキーは私に素の部分を見せてないの?」

「見せてる部分と見せてない部分がある」

「どうして?」

「…嫌われるから」

「私が?私がフランキーを嫌うと思うの?」

「分からないだろ」

「嫌わないわよ。どんなフランキーでもフランキーはフランキーだもの」

「そうか」


微笑んだフランキーの顔。


「ああー、謝らないとな…」

「何が?」

「兄上に謝らないといけない」

「兄弟喧嘩したの?」

「まぁ、そんなとこかな…」

「そっか」


私はあえて知らないふりをした。フランキーの婚約も、フランキーとフレディの会話も。

私はフランキーの前に立ち


「私も一緒に謝ってあげようか?」

「いいよ格好悪い」

「えー、フランキーに格好良い所なんてあった?」


そっぽを向いたフランキー


「怒ったの?ねぇ、フランキー、怒ったの?」


私は繋いだ手を離しフランキーの両頬に手を添えて目を合わせる。


「グレース?」


私は笑った。


「フランキー、格好悪い所もお兄様や兄様にまだ敵わない所も、それでも頑張る所も、私はいつも側で見てる。

フランキーは優しくて格好良い男の子だわ。でもまだ私達は子供なのよ?全てを完璧に出来なくてもいいじゃない。

喧嘩して相手に当たっても、自分の感情のままに動いても、それも貴方の一部なんだから。

ねぇフランキー、いつかは大人にならないといけない。私も貴方も。でも少しずつ成長して一緒に大人にならない?」


私達は見つめ合った。



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