上 下
7 / 55

7 始まりの一歩

しおりを挟む

フランキーが8歳になり社交始めのお茶会が王宮で開催される。

フレディも8歳の時にお茶会を開いた。遊び相手ではなく社交、歳が近い伯爵以上の令息と令嬢が呼ばれる。お兄様も勿論出席した。

私もフランキーのお茶会に招待を受けていて出席する。


コンコン

「グレースです」

「入りなさい」


私は扉を開けて中に一歩入った。


「どうしたグレース」

「お父様に用事がありまして」

「今は席を外している。私で聞ける話か?」

「それは…」

「グレースおいで。伯父の私に話してごらん」


国王の伯父様が手を広げて待っている。それに今『伯父』と言った。今この空間は伯父と姪。


「伯父様」


私は伯父様の元まで早歩きで歩き近寄った。


「どうしたグレース、目が真っ赤じゃないか。何があった、私に聞かせてくれるかい?」

「伯父様、ただちょっとお父様にギュッとしてほしかっただけなの」


お父様が席を外しているのは確認済み。だから私は会いに来た。


「それなら私でも構わないかい?」

「いいの?」

「ああ、可愛い姪を抱きしめさせてくれないか」


伯父様は私を膝の上に座らせ私を抱きしめた。それから私の頭を撫でた。


「どうしたんだい?」

「フランキーのお茶会が今度あるでしょ?でね、先生に出席する令息と令嬢の顔と名前を一致させなさいってこんな分厚い本を貰ったの」


私は親指と人差し指を広げた。


「そこには名前と一緒に姿絵もついていてものすごく分かりやすいけど、フランキーのお茶会までに覚えられないって…」

「涙が出ちゃったのかな?」

「……うん」


ここに来るまで瞬きしないで限界まで耐えて目を真っ赤にさせた。で勢いよく目を閉じたらもう痛くて…自然と涙が流れたの。

だって涙って流したい時に勝手に流れないのよ?何も悲しい事がないのに涙なんて出ないもの。


「そうか」


伯父様は私に優しい目を向けて頭を撫でてくれた。


「でもね、私もお父様の娘だから覚えるのは必要だと思ってるし、いずれ覚えないといけない事なら幼い頃から覚えるのはとても良い事だと思うの。幼い頃からなら少しずつ無理なく覚えられるでしょ?

勉強だって大きくなってから『覚えなさい』って言われるより幼い頃からコツコツと覚える方がいいもの。

そうよね?伯父様」

「そうだね」


私は幼い頃から王子妃教育をさせられてきた。でもロザンヌ様はフランキーと婚約してから。公爵令嬢として教養やマナー、嗜みは完璧でも王子妃は他国の教養やマナーも必要。その為にロザンヌ様はいつも苦労していた。私と比べられる事もあったかもしれない。フランキーは見て見ぬふり、だから余計にフレディはロザンヌ様を気にかけていた。

私は隣国の王女を母に持ちお父様は伯父様の代わりに他国へ出向く事が多い。だから我が家では幼い頃から他国の言語で話す日がありその国のマナーで食事をする。

お父様もお母様も王族、周辺諸国の言語やマナーは身についている。お兄様も私も覚えさせられたというよりは自然と身についていったって感じなの。

だからお兄様も私も周辺諸国の言語は話せるし会話もできる。マナーだって完璧よ。


フレディがロザンヌ様を選んだ時、ロザンヌ様には今からコツコツと王子妃教育を学んでほしい、そう思ったの。

助け合い支え合い、そしてお互いが唯一無二の存在に、それが望ましいし一緒に苦しい時を乗り越え頑張ってきたからこそ心が通い合い、国王王妃、国の象徴としてあり続ける。

それに例え子供でも好きな人の為ならどんな努力も頑張れる、そう思うから。


「だからね、私先生にお願いしたの。きちんと覚えてお茶会も失敗しなかったらご褒美を下さいって」

「ご褒美か、それで?」

「先生がきちんとできたらって約束してくれたの。だから頑張ろうって思えたの。

だって誰だってご褒美が貰えるなら頑張ろうと思うでしょ?

伯父様が王として毎日頑張ってるのも伯母様のよしよしってご褒美があるからよね?」

「そっ、そんな、事は、ないぞ」


伯父様は王として国を守り民を導いている。伯父様は立派な王よ。その為の努力も惜しまない。

でも王にも心の休息は必要でしょ?

それが伯母様の膝に寝転がり頭を撫でられる事。それを前の時に一度見た事があった。見つめ合い幸せに微笑む二人の姿。私はそっと扉を閉めて部屋を後にした。

夫婦の時間を邪魔するなんてそんな無粋な真似はしないわ。

でもその時に思ったの。私とフレディには無い時間だなって…。二人の世界が羨ましいとも思った。


「フレディ兄様だってフランキーだってご褒美があればどんな辛い事だって頑張ろうって思うだろうし、好きな人の為ならどんな努力も惜しまないと思うの。

伯父様、愛って大事よね。愛は時に人を強くするわ。だって伯父様もお父様も強いもの。それは伯母様やお母様を愛してるからでしょ?それにこの国を民を愛してるからでしょ?

だからフレディ兄様もフランキーも王子だけど愛する事を諦めてほしくないの。だって二人は私の家族だもの。家族には幸せになってほしいと願うものよ。

そうよね?伯父様。私間違ってないわよね?」

「そうだね…。グレースはフレディとフランキーは嫌いかい?」

「フレディ兄様もフランキーも好きよ。ロニーお兄様も好き。お父様もお母様も、勿論伯父様も伯母様も好きよ。だって皆私の家族だもの。

家族だから恋人にはなれないけど私は皆が好きよ」


私は満面の笑みで伯父様に微笑んだ。

伯父様は少し残念そうな顔をしていた。けどこれで私の気持ちは伝わったと思う。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、 ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。 家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。 十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。 次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、 両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。 だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。 愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___ 『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。 与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。 遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…?? 異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

時を戻して、今度こそ好きな人と幸せになります

編端みどり
恋愛
王女カトリーヌは、婚約の王子から冤罪をかけられて婚約破棄をされた。やった! あちらからの破棄なら慰謝料も取れるし、ようやく国に帰れるわ! そう思っていたのに、婚約者はわたくしを地下牢に閉じ込めて一生仕事だけさせると言い出した。逃げようとするカトリーヌを守って騎士が死んだ時、王族の血族のみが使える魔法で過去に戻る。 過去に戻ったカトリーヌは、今度こそ幸せになれるのか?!

処理中です...