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7 始まりの一歩
しおりを挟むフランキーが8歳になり社交始めのお茶会が王宮で開催される。
フレディも8歳の時にお茶会を開いた。遊び相手ではなく社交、歳が近い伯爵以上の令息と令嬢が呼ばれる。お兄様も勿論出席した。
私もフランキーのお茶会に招待を受けていて出席する。
コンコン
「グレースです」
「入りなさい」
私は扉を開けて中に一歩入った。
「どうしたグレース」
「お父様に用事がありまして」
「今は席を外している。私で聞ける話か?」
「それは…」
「グレースおいで。伯父の私に話してごらん」
国王の伯父様が手を広げて待っている。それに今『伯父』と言った。今この空間は伯父と姪。
「伯父様」
私は伯父様の元まで早歩きで歩き近寄った。
「どうしたグレース、目が真っ赤じゃないか。何があった、私に聞かせてくれるかい?」
「伯父様、ただちょっとお父様にギュッとしてほしかっただけなの」
お父様が席を外しているのは確認済み。だから私は会いに来た。
「それなら私でも構わないかい?」
「いいの?」
「ああ、可愛い姪を抱きしめさせてくれないか」
伯父様は私を膝の上に座らせ私を抱きしめた。それから私の頭を撫でた。
「どうしたんだい?」
「フランキーのお茶会が今度あるでしょ?でね、先生に出席する令息と令嬢の顔と名前を一致させなさいってこんな分厚い本を貰ったの」
私は親指と人差し指を広げた。
「そこには名前と一緒に姿絵もついていてものすごく分かりやすいけど、フランキーのお茶会までに覚えられないって…」
「涙が出ちゃったのかな?」
「……うん」
ここに来るまで瞬きしないで限界まで耐えて目を真っ赤にさせた。で勢いよく目を閉じたらもう痛くて…自然と涙が流れたの。
だって涙って流したい時に勝手に流れないのよ?何も悲しい事がないのに涙なんて出ないもの。
「そうか」
伯父様は私に優しい目を向けて頭を撫でてくれた。
「でもね、私もお父様の娘だから覚えるのは必要だと思ってるし、いずれ覚えないといけない事なら幼い頃から覚えるのはとても良い事だと思うの。幼い頃からなら少しずつ無理なく覚えられるでしょ?
勉強だって大きくなってから『覚えなさい』って言われるより幼い頃からコツコツと覚える方がいいもの。
そうよね?伯父様」
「そうだね」
私は幼い頃から王子妃教育をさせられてきた。でもロザンヌ様はフランキーと婚約してから。公爵令嬢として教養やマナー、嗜みは完璧でも王子妃は他国の教養やマナーも必要。その為にロザンヌ様はいつも苦労していた。私と比べられる事もあったかもしれない。フランキーは見て見ぬふり、だから余計にフレディはロザンヌ様を気にかけていた。
私は隣国の王女を母に持ちお父様は伯父様の代わりに他国へ出向く事が多い。だから我が家では幼い頃から他国の言語で話す日がありその国のマナーで食事をする。
お父様もお母様も王族、周辺諸国の言語やマナーは身についている。お兄様も私も覚えさせられたというよりは自然と身についていったって感じなの。
だからお兄様も私も周辺諸国の言語は話せるし会話もできる。マナーだって完璧よ。
フレディがロザンヌ様を選んだ時、ロザンヌ様には今からコツコツと王子妃教育を学んでほしい、そう思ったの。
助け合い支え合い、そしてお互いが唯一無二の存在に、それが望ましいし一緒に苦しい時を乗り越え頑張ってきたからこそ心が通い合い、国王王妃、国の象徴としてあり続ける。
それに例え子供でも好きな人の為ならどんな努力も頑張れる、そう思うから。
「だからね、私先生にお願いしたの。きちんと覚えてお茶会も失敗しなかったらご褒美を下さいって」
「ご褒美か、それで?」
「先生がきちんとできたらって約束してくれたの。だから頑張ろうって思えたの。
だって誰だってご褒美が貰えるなら頑張ろうと思うでしょ?
伯父様が王として毎日頑張ってるのも伯母様のよしよしってご褒美があるからよね?」
「そっ、そんな、事は、ないぞ」
伯父様は王として国を守り民を導いている。伯父様は立派な王よ。その為の努力も惜しまない。
でも王にも心の休息は必要でしょ?
それが伯母様の膝に寝転がり頭を撫でられる事。それを前の時に一度見た事があった。見つめ合い幸せに微笑む二人の姿。私はそっと扉を閉めて部屋を後にした。
夫婦の時間を邪魔するなんてそんな無粋な真似はしないわ。
でもその時に思ったの。私とフレディには無い時間だなって…。二人の世界が羨ましいとも思った。
「フレディ兄様だってフランキーだってご褒美があればどんな辛い事だって頑張ろうって思うだろうし、好きな人の為ならどんな努力も惜しまないと思うの。
伯父様、愛って大事よね。愛は時に人を強くするわ。だって伯父様もお父様も強いもの。それは伯母様やお母様を愛してるからでしょ?それにこの国を民を愛してるからでしょ?
だからフレディ兄様もフランキーも王子だけど愛する事を諦めてほしくないの。だって二人は私の家族だもの。家族には幸せになってほしいと願うものよ。
そうよね?伯父様。私間違ってないわよね?」
「そうだね…。グレースはフレディとフランキーは嫌いかい?」
「フレディ兄様もフランキーも好きよ。ロニーお兄様も好き。お父様もお母様も、勿論伯父様も伯母様も好きよ。だって皆私の家族だもの。
家族だから恋人にはなれないけど私は皆が好きよ」
私は満面の笑みで伯父様に微笑んだ。
伯父様は少し残念そうな顔をしていた。けどこれで私の気持ちは伝わったと思う。
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