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 私は今、騎士団の食堂でガイを待っている。レオンお兄様とお茶をしながらケーキを食べている。


「騎士団の食堂にケーキがあるなんて思わなかった」

「騎士だって甘い物は好きだぞ」

「そうなの? それに凄く美味しい」

「なら良かった」


バタバタバタ


「アイリス」

「ガイ」

「待たせたな」

「大丈夫。レオンお兄様にケーキをご馳走になってた所なの」

「上手いだろ」

「うん、凄く美味しい」

「俺にも」


 ガイが口を開けて待ってるから、残りを口の中にいれた。


「うん、上手い」


 でも、ここ騎士団の食堂…。周りの視線が生暖かい目で居た堪れなくなるのだけど…。


「食べたし行こうか」

「うん」


 今日は私達が住む家が完成し家具も入った為、家を見に行く約束をしていた。

 ガイは私の手を取って立たせ、そのまま手を繋いで食堂を出ようとしていると、


バタバタバタ


「レオン!あのバカの妹が来てるって本当か?」

「ディガ」

「なあ本当か?」

「ディガ止めろ」


 私は咄嗟にガイの後ろに隠され、ガイの前にはレオンお兄様が立っている。


「あのバカの妹なら俺にも会わせてくれ」

「ディガ」

「なあ頼むよ、俺にも会わせてくれ!」

「ディガ」

「俺は謝らないといけない、なあ頼むよ、俺にも会わせてくれ」

「少し待て」


 ガイの後ろにいる私の横にレオンお兄様が来て、


「どうする?」

「あの…」

「危害は加えない、それは断言できる。だけどアイリスが会いたくないと言えば会わなくていい」

「その…」

「止めとくか?」

「……会う、だけなら……」

「分かった」


 レオンお兄様は私をギュッと抱きしめ、耳元で、


「心配するな、俺が隣にいる」


 私は頷いた。

 レオンお兄様に手を引かれ、ガイの後ろから出て、


「お前があのバカの妹か?」

「え?」

「クロードの妹かって聞いてる」

「…はい」


 ディガと呼ばれた虎獣人の方が私の前まで来て、急に床に座り頭を床に付け、


「謝って許せる事じゃないのは重々承知だ。だが、謝らせてくれ。

すまない、俺の種族がお前の兄を、クロードを殺した。本当にすまない。俺を殴っても蹴っても罵倒しても構わない。お前の気が済むまでやって貰って構わない。剣で俺を斬りたいと言うならそうしてくれ」


 と、一度頭を体を起き上がらせ剣を自分の前に置いた。それからまた床に頭を付けて、


「さあやってくれ。これで許されるなんて思ってない。こんな事をしてクロードが返せる訳でもない。それでも大事な友を俺の種族が殺した事には変わらない。代わりに俺が敵になる」


 私は繋いでるレオンお兄様の手をギュッと握った。目の前にいるのはお兄様を死に追いやった獣人ではない。それでも同じ種族の仲間がお兄様を死に追いやった。私の大事なお兄様を死に追いやった、ずっと憎んで憎んで憎んできた。

 私は自然と涙が溢れた。


「お兄様を返して。私の大事なお兄様を返して」

「すまない」

「お兄様が何をしたの?お兄様は殺される事をしたの?」

「すまない」

「お兄様を返してよぉーーー」


 私はレオンお兄様に抱きついた。レオンお兄様も私を抱きしめた。私は声を出して泣いた。

 数十分経ち、涙が止まった私は、レオンお兄様を下から覗く。レオンお兄様も辛いのだ。きっとこの人はレオンお兄様と同じ騎士で仲間。それでもお兄様を思うと許せない気持ちもあると思う。ただ同じ種族と言うだけ、本人じゃない。本人じゃないのにこの人は同じ種族と言うだけで殺しても良いと言う。それに大事な友とも言った…。

 まだ床に頭を付け続けてるこの人に私は問いたい。

 レオンお兄様から離れこの人と向き合った。


「貴方は同じ種族と言うだけで本人じゃない」

「俺は本人じゃない。本人は死んだ。あいつは死んで当然だ」


 私はパッとレオンお兄様を見た。レオンお兄様が頷いてる。

 なら本人が死んだのは間違いないのだろう。

 そう、お兄様を死に追いやった人はもう死んだのね。何処かで生きてると思ってたけど、そう、もう死んでるのね。


「なら余計に貴方が代わりに敵にならなくても」

「嫌、種族の過ちは同じ種族の俺が償わないといけない。そうしないとクロードに会わせる顔がない」

「お兄様と知り合いなんですか?」

「クロードとは同じ釜の飯を食った同士で仲間だ。友と言える立場ではないが、許されるなら友でありたい」

「友だったのですか?」

「友と名乗る資格はもうないが」

「貴方と同じ種族がお兄様を殺したからですか?」

「ああ。あのバカ、とっとと剣を抜けば良かったんだ。あんな獣になった奴に情けなんて必要無かった。なのにあのバカは………ううっ、ううっ」


 目の前の人の体が震えている。床に頭を付けたまま泣いている。この人もお兄様の死を悲しみ嘆き、苦しみ続けた人…。お兄様をあのバカと言う言葉には馴れ親しんだお兄様との関係性が見えた…。

 きっとお兄様も「お前はまだそんな事言ってんのか、お前こそバカだな…」と言いそうだと思った。


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