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「これを登るのか?」


 大きな木を見上げ、


「ほら、そこに枝分かれしてるでしょ?」

「ああ」

「あそこに座るの」

「兄上も座ってた?」

「そうよ?」

「なら俺も一緒に座れるか」

「大丈夫だと思う」

「アイリスはどうやって登るんだ?」

「木箱を…」


 私は玄関から持って来た木箱を置いた。


「ここに足をかけて…」


 木箱に登り、木に元々付けてある窪みに足をかけた。


「これは兄上が?」

「そうなの。私が登れないから窪みを作ってくれたの」

「だから登れるのか」

「そうよ」

「俺は先に登るぞ?」

「え?ガイ、ズルイ!」


 ガイは身軽にトントンと登って座っている。


「アイリス、早く来いよ」

「ガイ、ズルイ!」


 私は窪みに足をかけ、上にある窪みに手をかけ登って行った。もう少しの所で、


「アイリス」


 ガイが手を差し伸べる。


「絶対に落とさないし離さないから」


 私はガイの手を取り、引っ張られた。


「キャー」


 ガイの胸の中に抱きしめられ、隣に座らされた。


「アイリスはいつもここで何を思ってるんだ?」

「何も」

「何も?」

「そうよ。ただボーッとするだけ」

「そうなのか?」

「お兄様が亡くなって登れなくなったの。ここでいつもお兄様と話したりしてたから」

「いつ登れるようになったんだ?」

「2年前くらいかな?」

「それはどうして?」

「ソニック、甥っ子が木登りしたいって言ったから」

「それから?」

「そう。1度登るとここ程一人になれる場所はないでしょ?隠れるのには最高な所よ?」

「なら周りからは見えない?」

「ほら、この葉が隠してくれるの。暑い日は日陰になるし」

「確かに」


 葉が生い茂る大きな木。


「ならこんな事も出来るな」

「何?」

「アイリスこっち向いて」


 私はガイの方を見た。ガイの唇が重なった。


「ガイ!」

「嫌だったか?」

「嫌じゃないけど…」

「もう一度良いか?」


 ガイが私の頬を支え、ガイの唇が重なった。何度も重なる口付け。

 口付けが終わり抱きしめられた。


「アイリス、愛してる」

「私もガイを愛してるわ」

「必ず護る」

「うん」

「幸せにする」

「私もガイを幸せにするわ」

「俺と結婚してくれるか?」

「はい」

「アイリス、手貸して」

「何?」

「良いから」


 私は両手を出し、ガイはポケットに手を入れた。

 ガイは私の左手を取り、


「受け取ってほしい」


 指輪をはめた。


「ありがとう」


 私は嬉しくて涙が頬を伝った。

 ガイは私の涙をペロペロと舐め、


「一緒に幸せになろう」

「うん、うん…」


 ガイは私を優しく包み込むように抱きしめ、口付けをした。


 遠くから「姉様」と呼ぶ声が聞こえ、

 木の下に、私達を見上げるソニックがいた。


「姉様、木登りするなら言って下さい。僕もしたかったのに」

「ごめんねソニック」

「僕も登って行って良いですか?」

「ちょっと待って、下りるから」

「大丈夫ですよ」

「駄目よ」

「アイリス?」

「まだ危ないもの。下から持ち上げてあげないと。それに足を滑らした時に助けてあげないと!」

「なら俺が下りるよ」


 ガイがヒョイと飛んで降りた。

 ガイを見たソニックは、


「姉様、この人誰ですか?」

「ガイよ、姉様の旦那様になる人」

「では兄様ですね」

「そうね」

「兄様、僕は一人で登れます」

「駄目だ。俺が下から支えてやるから、ほら足かけて」

「あ、はい」

「ソニック、そこじゃない」

「え?」

「足はここ、手はここ。さあやって」

「はい」


 ソニックはガイに言われるままに足をかけた。


「ソニック次は手をその斜め上の窪みに入れて」

「はい」

「足は今の所の上にある窪みにかけて」

「はい」

「ゆっくりでいいからな」

「はい」

「もし足を滑らせても俺が受け止めるからな」

「はい兄様」

「いいぞ、その調子だ」

「はい」

「あと少しだ、頑張れ」

「はい」


 ソニックが私の座る木の枝に跨った。まだ危ないから跨ったまま、


「姉様登れました」

「凄いじゃない」

「はい。でも兄様のお陰です」

「そんな事ないわ。頑張って登ったのはソニックでしょ?」

「はい」


 ガイはまたトントンと身軽に登ってきて、


「ソニック凄いな、一人で登れたじゃないか」

「はい。兄様のお陰です」

「俺は何もしてないだろ?」

「兄様が指示をしてくれたから」

「コツは掴めたか?」

「はい」

「なら今度から登れるな」

「はい」

「ソニック、一人で登っちゃ駄目よ?誰かが側にいる時だけね?姉様との約束よ?」

「分かりました。 姉様…」

「何?」

「兄様は獣人ですよね?」

「そうね…」

「とても格好いい獣人ですね」

「格好いい?」

「はい。身軽に木に登って格好いいです。それにさっき飛び降りた時もかっこよかったです」

「そう」

「兄様は何の獣人ですか?」

「狼だ」

「狼?あの格好いい狼?」

「格好いいかは分からないけど、まあその狼だ」

「凄いです」

「凄いのか?」

「はい!」


 ソニックは目をキラキラさせてガイを見ている。


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