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 私達は部屋に案内された。今はガイと二人きり。

 ガイは私をギュッと抱きしめ離さない。スリスリとかクンクンとかしずに、ただ抱きしめる。

 暫くしてガイが口を開いた。


「すまない」

「ん?」

「我等獣人が兄上を………すまない。謝って許せるものではないと分かってる」

「………うん」

「すまないとしか言えないが」

「………うん」

「すまない」

「………うん」


 私を抱きしめるガイの腕に力が入った。ガイが悪い訳でも隊長さんが悪い訳でもない。ラシュ様もお兄様に敬意を払ってくれた。そして隊長さんは私達家族と同じ思いでお兄様の死に深い悲しみを今でも持ってる。


(なあアイリス、獣人にも俺と同じ志を持ってる奴もいるんだ。強く逞しく格好良いぞ?俺はあいつならアイリスを任せても良いと思える。 嫌、やっぱり駄目だ。俺より強くて俺よりアイリスを愛してる奴じゃないと駄目だ。 俺より強い奴も俺よりアイリスを愛してる奴は居ないがな。 アイリスは俺が一生面倒を見る。 もしアイリスに好きな男が出来たら俺が認めない男とは会わせないからな、良いな)



「ふふっ」

「アイリス?」

「お兄様の事を思い出してたの」

「そうか」

「お兄様が言ってた人はきっと隊長さんね」

「ん?」

「お兄様が隊長さんになら私を任せても良いって昔言ってたの」

「は?」

「それでもやっぱりお兄様ね。隊長さんでも駄目だって。私をお嫁に行かせたくなかったみたい。 お兄様は自分より強くて自分より私を愛してる人じゃないと駄目だって。そしてお兄様が認めた人」

「俺は兄上に認めて貰えたかな?」

「どうだろう。私もお兄様が強いって知ってたけどどこまで強いか分からないもの」

「そうか」

「それより匂い覚えましょ?」

「ああそうだな」


 私は一袋づつ説明しながらガイに渡した。どうやって匂いを覚えるのかと聞いたら、汗のかきやすい所、首周りや脇の匂いを嗅いで覚えるらしい。

 親子、兄妹、近い匂いはするけど一人づつ違うんだって。同じ匂いの人は居ないみたい。だからいつも首筋をクンクンするのかな?


「ねぇガイ、いつもクンクンと首筋の匂い嗅ぐのはどうして?」

「ん?アイリスはどこの匂いを嗅いでも甘い匂いだよ?首筋は抱きしめ顔を埋めるとそこにあるから」

「それだけ?」

「なら違う所の匂いを嗅いでも良いのか?」

「それもそうね」

「俺だって本人目の前にして首筋の匂いを嗅いだりしない」

「確かにリーナやミミやレイの時やってない」

「本人目の前にすれぱ本人の匂いが分かるから離れていても分かる。けど今回はご両親に会う時に威嚇しない為、と、言うか、嫌われない為、と、言うか…」

「親でも兄妹でも雄だからって事?」

「俺は特に雄に威嚇が出やすい」

「それは番だから?」

「それもあると思うけど、俺の持つ狼の本能だと思う」

「狼の本能?」

「狼の本能はつがいに深い愛情を持つ。愛するつがいは己にとって一人のみ。もしつがいが先に死んだら直ぐに後を追う。愛する者がいない世界に未練もない。俺達種族は愛が重いって言われてる」

「聞いてるととても素敵だけど、きっと大変なのよね」

「ああ。アイリスはラシュ殿の奥さんを家族と同じと言ったけど、血は繋がってないよな?」

「そうね。それでも家族と同じくらい大事よ?」

「俺にとって家族は家族だけだ。アイリスを愛していてもアイリスの家族を家族として見れない。威嚇する対象なんだ。すまない」

「それは狼の本能?」

「ああ。だから匂いを覚えて威嚇しない様にするしかないんだ」

「匂いを覚えたら大丈夫なの?」

「ああ。俺や姉さんは狼の本能と魂の番の本能でより狂いやすい」

「そう。お姉様も大変だったのね」

「そうだな。今なら分かる。人族は血ではなく心で懐に入れる人を決める。あの男は他の雌も愛してると言っていた。俺達狼は愛する者は生涯で一人だけだからな。それでも姉さんは男を許そうと我慢していた。俺達狼と人族は違うからと。他の雌と浮気しようが他の雌を愛そうが、それでも失うよりはまだましだと。俺もアイリスを失うくらいなら他の雄の匂いも我慢できる。アイリスを失うより怖いものはない。アイリスを失うくらいなら我慢も努力も苦じゃない」

「もしかして我慢してるの?」

「アイリスが側に居てくれればそれだけで良い」

「………そう」

「魂の番の本能だけでなく狼のつがいの本能もある俺が怖いか?」

「制限されるのは困るけど、それでも私嬉しいって思ったの。私が何をしても愛してくれるって事でしょ?」

「何をしても?」

「浮気とかじゃないわよ?私も浮気する人は大嫌い。お姉様の番の人とか一番嫌いよ?他の人に目を移す人なんて信用出来ないわ」

「なら」

「走り回ったりとか木を登ったりとか?」

「木、登るのか?」

「家の木だけよ?木の上でボーっとしたり、考えたりするのがやめられないの。お兄様の影響ね」

「さっき隊長が言ってた、兄上がお転婆って言ってたのはこの事か」

「初めはお兄様に無理矢理登らされたのよ?自分で登れる様になったら木の上って隠れるのにちょうどいいの。それにお兄様と木の上で話すのが大好きだったの。獣人の事をよく木の上で言っていたわ」

「兄上の夢物語か?」

「そう」



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