15 / 43
15
しおりを挟む
私達は部屋に案内された。今はガイと二人きり。
ガイは私をギュッと抱きしめ離さない。スリスリとかクンクンとかしずに、ただ抱きしめる。
暫くしてガイが口を開いた。
「すまない」
「ん?」
「我等獣人が兄上を………すまない。謝って許せるものではないと分かってる」
「………うん」
「すまないとしか言えないが」
「………うん」
「すまない」
「………うん」
私を抱きしめるガイの腕に力が入った。ガイが悪い訳でも隊長さんが悪い訳でもない。ラシュ様もお兄様に敬意を払ってくれた。そして隊長さんは私達家族と同じ思いでお兄様の死に深い悲しみを今でも持ってる。
(なあアイリス、獣人にも俺と同じ志を持ってる奴もいるんだ。強く逞しく格好良いぞ?俺はあいつならアイリスを任せても良いと思える。 嫌、やっぱり駄目だ。俺より強くて俺よりアイリスを愛してる奴じゃないと駄目だ。 俺より強い奴も俺よりアイリスを愛してる奴は居ないがな。 アイリスは俺が一生面倒を見る。 もしアイリスに好きな男が出来たら俺が認めない男とは会わせないからな、良いな)
「ふふっ」
「アイリス?」
「お兄様の事を思い出してたの」
「そうか」
「お兄様が言ってた人はきっと隊長さんね」
「ん?」
「お兄様が隊長さんになら私を任せても良いって昔言ってたの」
「は?」
「それでもやっぱりお兄様ね。隊長さんでも駄目だって。私をお嫁に行かせたくなかったみたい。 お兄様は自分より強くて自分より私を愛してる人じゃないと駄目だって。そしてお兄様が認めた人」
「俺は兄上に認めて貰えたかな?」
「どうだろう。私もお兄様が強いって知ってたけどどこまで強いか分からないもの」
「そうか」
「それより匂い覚えましょ?」
「ああそうだな」
私は一袋づつ説明しながらガイに渡した。どうやって匂いを覚えるのかと聞いたら、汗のかきやすい所、首周りや脇の匂いを嗅いで覚えるらしい。
親子、兄妹、近い匂いはするけど一人づつ違うんだって。同じ匂いの人は居ないみたい。だからいつも首筋をクンクンするのかな?
「ねぇガイ、いつもクンクンと首筋の匂い嗅ぐのはどうして?」
「ん?アイリスはどこの匂いを嗅いでも甘い匂いだよ?首筋は抱きしめ顔を埋めるとそこにあるから」
「それだけ?」
「なら違う所の匂いを嗅いでも良いのか?」
「それもそうね」
「俺だって本人目の前にして首筋の匂いを嗅いだりしない」
「確かにリーナやミミやレイの時やってない」
「本人目の前にすれぱ本人の匂いが分かるから離れていても分かる。けど今回はご両親に会う時に威嚇しない為、と、言うか、嫌われない為、と、言うか…」
「親でも兄妹でも雄だからって事?」
「俺は特に雄に威嚇が出やすい」
「それは番だから?」
「それもあると思うけど、俺の持つ狼の本能だと思う」
「狼の本能?」
「狼の本能はつがいに深い愛情を持つ。愛するつがいは己にとって一人のみ。もしつがいが先に死んだら直ぐに後を追う。愛する者がいない世界に未練もない。俺達種族は愛が重いって言われてる」
「聞いてるととても素敵だけど、きっと大変なのよね」
「ああ。アイリスはラシュ殿の奥さんを家族と同じと言ったけど、血は繋がってないよな?」
「そうね。それでも家族と同じくらい大事よ?」
「俺にとって家族は家族だけだ。アイリスを愛していてもアイリスの家族を家族として見れない。威嚇する対象なんだ。すまない」
「それは狼の本能?」
「ああ。だから匂いを覚えて威嚇しない様にするしかないんだ」
「匂いを覚えたら大丈夫なの?」
「ああ。俺や姉さんは狼の本能と魂の番の本能でより狂いやすい」
「そう。お姉様も大変だったのね」
「そうだな。今なら分かる。人族は血ではなく心で懐に入れる人を決める。あの男は他の雌も愛してると言っていた。俺達狼は愛する者は生涯で一人だけだからな。それでも姉さんは男を許そうと我慢していた。俺達狼と人族は違うからと。他の雌と浮気しようが他の雌を愛そうが、それでも失うよりはまだましだと。俺もアイリスを失うくらいなら他の雄の匂いも我慢できる。アイリスを失うより怖いものはない。アイリスを失うくらいなら我慢も努力も苦じゃない」
「もしかして我慢してるの?」
「アイリスが側に居てくれればそれだけで良い」
「………そう」
「魂の番の本能だけでなく狼のつがいの本能もある俺が怖いか?」
「制限されるのは困るけど、それでも私嬉しいって思ったの。私が何をしても愛してくれるって事でしょ?」
「何をしても?」
「浮気とかじゃないわよ?私も浮気する人は大嫌い。お姉様の番の人とか一番嫌いよ?他の人に目を移す人なんて信用出来ないわ」
「なら」
「走り回ったりとか木を登ったりとか?」
「木、登るのか?」
「家の木だけよ?木の上でボーっとしたり、考えたりするのがやめられないの。お兄様の影響ね」
「さっき隊長が言ってた、兄上がお転婆って言ってたのはこの事か」
「初めはお兄様に無理矢理登らされたのよ?自分で登れる様になったら木の上って隠れるのにちょうどいいの。それにお兄様と木の上で話すのが大好きだったの。獣人の事をよく木の上で言っていたわ」
「兄上の夢物語か?」
「そう」
ガイは私をギュッと抱きしめ離さない。スリスリとかクンクンとかしずに、ただ抱きしめる。
暫くしてガイが口を開いた。
「すまない」
「ん?」
「我等獣人が兄上を………すまない。謝って許せるものではないと分かってる」
「………うん」
「すまないとしか言えないが」
「………うん」
「すまない」
「………うん」
私を抱きしめるガイの腕に力が入った。ガイが悪い訳でも隊長さんが悪い訳でもない。ラシュ様もお兄様に敬意を払ってくれた。そして隊長さんは私達家族と同じ思いでお兄様の死に深い悲しみを今でも持ってる。
(なあアイリス、獣人にも俺と同じ志を持ってる奴もいるんだ。強く逞しく格好良いぞ?俺はあいつならアイリスを任せても良いと思える。 嫌、やっぱり駄目だ。俺より強くて俺よりアイリスを愛してる奴じゃないと駄目だ。 俺より強い奴も俺よりアイリスを愛してる奴は居ないがな。 アイリスは俺が一生面倒を見る。 もしアイリスに好きな男が出来たら俺が認めない男とは会わせないからな、良いな)
「ふふっ」
「アイリス?」
「お兄様の事を思い出してたの」
「そうか」
「お兄様が言ってた人はきっと隊長さんね」
「ん?」
「お兄様が隊長さんになら私を任せても良いって昔言ってたの」
「は?」
「それでもやっぱりお兄様ね。隊長さんでも駄目だって。私をお嫁に行かせたくなかったみたい。 お兄様は自分より強くて自分より私を愛してる人じゃないと駄目だって。そしてお兄様が認めた人」
「俺は兄上に認めて貰えたかな?」
「どうだろう。私もお兄様が強いって知ってたけどどこまで強いか分からないもの」
「そうか」
「それより匂い覚えましょ?」
「ああそうだな」
私は一袋づつ説明しながらガイに渡した。どうやって匂いを覚えるのかと聞いたら、汗のかきやすい所、首周りや脇の匂いを嗅いで覚えるらしい。
親子、兄妹、近い匂いはするけど一人づつ違うんだって。同じ匂いの人は居ないみたい。だからいつも首筋をクンクンするのかな?
「ねぇガイ、いつもクンクンと首筋の匂い嗅ぐのはどうして?」
「ん?アイリスはどこの匂いを嗅いでも甘い匂いだよ?首筋は抱きしめ顔を埋めるとそこにあるから」
「それだけ?」
「なら違う所の匂いを嗅いでも良いのか?」
「それもそうね」
「俺だって本人目の前にして首筋の匂いを嗅いだりしない」
「確かにリーナやミミやレイの時やってない」
「本人目の前にすれぱ本人の匂いが分かるから離れていても分かる。けど今回はご両親に会う時に威嚇しない為、と、言うか、嫌われない為、と、言うか…」
「親でも兄妹でも雄だからって事?」
「俺は特に雄に威嚇が出やすい」
「それは番だから?」
「それもあると思うけど、俺の持つ狼の本能だと思う」
「狼の本能?」
「狼の本能はつがいに深い愛情を持つ。愛するつがいは己にとって一人のみ。もしつがいが先に死んだら直ぐに後を追う。愛する者がいない世界に未練もない。俺達種族は愛が重いって言われてる」
「聞いてるととても素敵だけど、きっと大変なのよね」
「ああ。アイリスはラシュ殿の奥さんを家族と同じと言ったけど、血は繋がってないよな?」
「そうね。それでも家族と同じくらい大事よ?」
「俺にとって家族は家族だけだ。アイリスを愛していてもアイリスの家族を家族として見れない。威嚇する対象なんだ。すまない」
「それは狼の本能?」
「ああ。だから匂いを覚えて威嚇しない様にするしかないんだ」
「匂いを覚えたら大丈夫なの?」
「ああ。俺や姉さんは狼の本能と魂の番の本能でより狂いやすい」
「そう。お姉様も大変だったのね」
「そうだな。今なら分かる。人族は血ではなく心で懐に入れる人を決める。あの男は他の雌も愛してると言っていた。俺達狼は愛する者は生涯で一人だけだからな。それでも姉さんは男を許そうと我慢していた。俺達狼と人族は違うからと。他の雌と浮気しようが他の雌を愛そうが、それでも失うよりはまだましだと。俺もアイリスを失うくらいなら他の雄の匂いも我慢できる。アイリスを失うより怖いものはない。アイリスを失うくらいなら我慢も努力も苦じゃない」
「もしかして我慢してるの?」
「アイリスが側に居てくれればそれだけで良い」
「………そう」
「魂の番の本能だけでなく狼のつがいの本能もある俺が怖いか?」
「制限されるのは困るけど、それでも私嬉しいって思ったの。私が何をしても愛してくれるって事でしょ?」
「何をしても?」
「浮気とかじゃないわよ?私も浮気する人は大嫌い。お姉様の番の人とか一番嫌いよ?他の人に目を移す人なんて信用出来ないわ」
「なら」
「走り回ったりとか木を登ったりとか?」
「木、登るのか?」
「家の木だけよ?木の上でボーっとしたり、考えたりするのがやめられないの。お兄様の影響ね」
「さっき隊長が言ってた、兄上がお転婆って言ってたのはこの事か」
「初めはお兄様に無理矢理登らされたのよ?自分で登れる様になったら木の上って隠れるのにちょうどいいの。それにお兄様と木の上で話すのが大好きだったの。獣人の事をよく木の上で言っていたわ」
「兄上の夢物語か?」
「そう」
22
お気に入りに追加
472
あなたにおすすめの小説
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
獣人国王の婚約者様
棚から現ナマ
恋愛
伯爵令嬢のアイラは国主催のレセプションパーティーに強制的に参加させられる。そこで主賓である獣人の国王ウエンツと目が合った瞬間に拉致されてしまう。それからは国王の婚約者として扱われるのだが、アイラは自分の立場は国王がこの国に滞在している間だけの接待係(夜伽を含む)なのだということを知っている。この国から国王が出て行く時に捨てられるのだと……。一方国王は、番(つがい)が見つかり浮かれていた。ちゃんと周りの者達にはアイラのことを婚約者だと公言している。それなのに誰も信じてはいなかった。アイラ本人ですら自分は捨てられるのだと思い込んでいた。なぜだ!? すれ違ってしまった二人が両想いになるまでのパッビーエンドなお話。
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる