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しおりを挟む「ショーン、大きな声を出さないで」
私は真顔でショーンを見つめる。
レイラを呼べば部屋の外で待機していたのだろう。すぐに部屋に入ってきた。
私はダニエル君を抱きかかえる。そしてぎゅっと抱きしめた。
「少しだけレイラと外で待っててくれる?すぐに終わるわ」
ダニエル君の顔を見つめて優しく語りかける。
私をじっと見つめるダニエル君はコクンと頷いた。
「いい子ね」
そしてもう一度ぎゅっと抱きしめ、レイラにダニエル君を託した。
レイラには少し部屋から離れてと視線を動かし、レイラはダニエル君を抱っこしたまま部屋を出ていった。
「ショーン、大きな声を上げないで。冷静に話せないのなら何も話すことはないわ」
私が真剣な顔を向ければショーンは「分かった」と頷いた。
「あの子をどうするつもりだ。お前の婚約者の子供なんだろ?」
「違うわ」
「それをどう証明する」
「それはラウル様がいずれ証明すると思うわ。それに、私は真相をラウル様本人から聞いているの」
「何とでも言える。嘘をついているかもしれないだろ」
「私はラウル様を信じているの。ラウル様の言葉を信じているの」
「セレナ、俺だって信じたい。セレナが信じると言うのなら、その言葉を信じたい。でも、子供ではないのなら、なぜあの子はダフリー侯爵子息の子供だと言われているんだ」
「え?」
「夜会ではその話題で持ちきりだった」
先日ショーンは初めて夜会に参加した。
「復縁するんじゃないかって。今も元奥さんは侯爵家で暮らしているんだろ」
違うとは言えない。元奥様は侯爵家で暮らしている。でもそれは意味が違う。でもそれをどうやって説明すればいいの?
「俺はセレナが不幸になるのを見たくない。なぁセレナ、悪いことは言わない、婚約を白紙に戻したらどうだ」
「ねぇショーン、貴方には私が不幸に見えるの?」
「今だってあの子の面倒を見ているだろ」
「それは事情があるからよ。私は不幸なんかじゃないわ。泣いてもいない」
私はショーンを見つめる。
「ねぇショーン、あの子は幼い頃の私なの。アニーが産まれ、私はお父様やお母様からいらない子、そう思っていた。赤ん坊のアニーに手がかかった、今はそう分かるわ。でも当時の私はまだ幼かった。突然お父様とお母様の愛情をアニーに奪われたの。昨日までは自分が一心に受け取っていたんだもの。当時の私はもう愛してもらえない子、可愛いのはアニーだけで私のことは可愛くない、そう受け取った。
でも私には貴方が側にいてくれた。貴方がいたから泣くこともできたし、貴方がいたから笑うことができた。でもあの子には貴方のような存在はいないの。今もあの子は一人で耐えているわ。それに母親が迎えにこないって、それはあの子にとってとても残酷なことよ」
残酷、絶望、まだ幼いあの子には難しい感情はない。
自分が悪い子だから、だからお母様は僕を迎えにこない。自分が良い子になれば迎えにきてくれる。もっと良い子にならなくちゃ。もっともっと、もっともっと良い子にならなくちゃ。そうしたらお母様は迎えにきてくれる。
我儘も言わない。泣いたりしない。自分のことは自分でやらなくちゃ。だから僕はもっともっと良い子にならなくちゃいけないの。
だって僕は悪い子だもん。
お母様が少し静かにしてって言っても静かにしなかった。お母様が疲れていてもお母様を困らせた。あれがしたい、これがいい、食べさせて、一人でできない、お母様がやって、これが読みたいの、そう我儘を言った。
幼い頃の私とダニエル君は違う。私が感じた思いとは違うかもしれない。
でも私には寂しさを埋めてくれたショーンがいた。それにお父様もお母様も私を捨てたわけではなかった。ショーンの家に預けられても必ずその日のうちに迎えに来てくれた。
「ごめんね」そう言って抱きしめてくれた。馬車の中ではずっとお母様のお膝の上に座って、何をしてショーンと遊んだのか、何を食べたのか、私の話をきちんと聞いてくれた。
お父様もお母様もアニーが産まれ、まだ赤ん坊のアニーの世話を優先しただけ。赤ん坊は一人では何もできないから。
だから私とダニエル君は違う。
それでもショーンなら、幼い頃の私を知っているショーンなら分かってくれる。私が何を伝えたいのか、あの頃を見ていたショーンなら。
ショーンは何か考えているのか黙っている。
「セレナの言いたいことは分かる。今は黙って見守っていてほしいってことだろ」
「ええ、あの子には今心の支えになる人が必要なの。今にも切れてしまいそうな糸を繋ぎとめる人が必要なの」
「セレナが心の支えになりたいと思うのはいい。でもな、お前は責任が取れるのか?あの子の人生を全てひっくるめて責任が取れるのか?その覚悟があるのか。優しくして可愛がるのはいい。でもお前はいずれあの子の手を放す」
そうね、母親が迎えにきたら、私はあの子を母親に渡す。
それがあの子の幸せなら。
でもきっとあの母親は同じことを繰り返す。
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ショーンの言う通り。
責任をとるのは難しい。
ラウル関係だから保護しているが、
同じ境遇の子供は知らん顔なのでしょう。
誰も彼も救えやしないのに。
自分本位、自己満足。
そして社交界ではあらぬ噂。
自分達がわかっていれば?!
なんて、、
お話どうなりますやら。
タグの『自由奔放な元嫁』ですが、
自由奔放ではなく、『我が儘自分本意』ではないでしょうか?
先を見ないとまだわかりませんが…
ちょっと気になりましたm(_ _)m
もしかしたらエマとアニーが言った様にショーンはセレナを愛していたのでは⁉️
ラウルに大切にしてきちんと守る事をお願いしたのに元妻やダニエルが出てきてしまい、黙っていられなくなってしまったのでしょう😔
ラウル様しっかりして下さいよ‼️
誰にでも優しいだけの男はヘタレ男ですよ😠
ガツンと言ってセレナを安心させてあげないと逃げられてしまいますよ😒