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しおりを挟む「彼女が18歳になり俺達は結婚した。初夜の晩だけが唯一一緒のベッドで寝た晩になった」
私は驚いた顔でラウル様を見つめた。
「俺達は別々の部屋で寝ていたんだ」
「え?」
「初めは隣に俺がいると怖いと言われた。あの痛みや恐怖を思い出すと。だから俺は彼女の気持ちの整理がつくまで待った。1年後、嫌がることはしない、だから一緒のベッドで寝ていいかと尋ねた。そしたら誰かが隣に居ると眠れないから嫌だと言われた」
ラウル様は嘲笑した。
その顔を見たら私は思わずラウル様を抱きしめていた。
「今思えば、俺は彼女から毛嫌いされていたんだと分かる。だがその時は彼女の心を優先するべきだと思っていた。父親を嫌悪していた彼女にとって男性は皆同じだと。だから俺は彼女に優しく接した。俺は違うと、父親のように差別はしないし、押さえつけるような真似はしないと、少しづつ分かってもらえたらいいと…」
「もういいです。ラウル様やめましょう。これ以上ラウル様が傷つく必要はありません」
私が聞きたいと言わなければラウル様は当時を思い出すことはなかった。当時も傷ついたのに、今こうしてまた私が傷つけている。ようやく傷が治ってきたのに、傷をほじくり返し、また傷口に塩を塗った。
「ごめんなさい」
私はラウル様をぎゅっと抱きしめた。
「いや、聞いてほしい」
ラウル様が聞いてほしいと言うのならきちんと最後まで聞こうと、ラウル様の言葉に私は頷いた。
「彼女を尊重するのも愛だと思っていた。体の繋がりだけではないと」
「はい、体の繋がりで確認できる愛もあるとは思いますが、やっぱり心の繋がりだと思ってしまいます」
「幼馴染を応援する彼女は度々幼馴染に会いに行っていた。夜遅くなることも泊まってくることもあった。でも俺は幼馴染の家なら安心だと思っていた」
幼馴染を女性だと思っていたのなら尚更安心だと思ってしまう。不倫を疑うこともなく、行き先は幼馴染の家。どこに居るのか分かっているから。
生活を支援し、芸に打ち込ませる。未来ある演者を育てるのにはお金がかかる。贔屓する演者の芽が出ようが出まいが、援助することに意義があり、富の象徴でもある。
一握りしかなれない劇団の一流役者、その幼馴染は一流役者になれたのだろうか。
「ある日彼女から言われた。「これからは幼馴染と生きていきたい。彼を愛しているの。ずっと子供の頃から彼を愛しているの」その時初めて幼馴染が男だと知った。「貴方は優しいだけで面白味もない人。私はもっと刺激がほしかった。恋い焦がれるような嫉妬するような、そんな愛を求めていたの。でも貴方はただ優しいだけ。つまらない男だったわ」そう言われ離縁を承諾した」
「なんて酷いことを……」
私の方が顔を歪ませた。
「「嫌がる私を無理矢理組み敷けば良かったのよ。それなのに貴方は私のご機嫌取りばかり。貴方の優しさは偽善よ」そう言われたが、嫌がる女性に無理矢理覆いかぶされるか?俺には無理だ」
「それでいいんです。ラウル様は悪くありません」
でも尚更元奥様が戻ってきた理由が分からないわ。幼馴染の男性に付いていったのは気の迷いで、本当はラウル様を愛していたのならまだ分かる。
一時の情熱に燃え上り我を忘れる人がいるかもしれないし、禁じられた関係に酔いしれる人もいるかもしれない。
でもラウル様の話を聞く限り、元奥様はラウル様を愛してはいないように思える。
そう、都合のいい男。
「では、元奥様が連れていた子供は」
「多分、幼馴染との子供だと思う。誓って俺の子供じゃない。だが母上は信じ切っている。今さら母上に初夜の一回しかそういう行為をしていないと言えるか?言えるわけがない」
親にそれも母親に夫婦の性事情を言うのは誰でも恥ずかしい。女の私がお父様に言うようなものだもの。私だってお父様には言いたくないわ。同性のお母様にだって言えない。親に隠したい気持ちは分かる。
「ですがこのままだとラウル様の子供になってしまいます。それに元奥様がしていることは乗っ取りだと疑われても仕方ありません」
ラウル様の子供ではない子をラウル様の子供だと嘘をつき、その子供を侯爵家の跡取りにしようとしているのなら、それは疑われても仕方がない。
そしてあわよくばまた妻の座に座ろうと考えているのなら厄介だわ。お義母様はラウル様の子供だと信じていた。元奥様はお義母様を味方につけたんだもの。
元奥様は幼馴染の男性の子供が宿り、ラウル様と離縁した。でも何らかの理由で戻ってきた。
でも、どれだけ優しいラウル様でも自分の子供ではない子を迎え入れることはしない。それでも、結婚していた頃だったのなら、ラウル様は受け入れたかもしれない。誰の子であろうと元奥様が産んだ子なら自分の子供だと。
でも今は違う。
真相を知るラウル様を頼った所で助けてはくれない。
なら。
お義母様を騙す方が簡単。離縁してから子供が宿っていることに気づいた、そう言えばいい。幸い?息子さんの年齢的に真実味がある。
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