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しおりを挟む額を上げたラウル様。
「陰口を叩かれるだろう。しなくていい苦労もするだろう」
それは貴方を好きになった時点で覚悟している。子爵令嬢の私が侯爵夫人になるにはそれ相応の苦労をしなければならないのも覚悟の上。
「母上は厳しい人だ」
厳しいくらいがちょうどいい。
ラウル様は胸元から小さい箱を取り出した。
私を見つめるラウル様。
「俺の妻になってほしい」
小さい箱の中には指輪が入っていた。
「私もラウル様の妻になりたいです」
ラウル様は箱の中から指輪を取り出し私の指にはめた。
「好きだ、セレナ」
「私もラウル様が好きです」
ラウル様は私の手の甲に口づけした。
見つめ合う私達。お互い自然と微笑む。
ラウル様は立ち上がりまた隣に座った。繋がれた手をお互いぎゅっと握る。そしてまたお互い顔を見つめ微笑んだ。
「どうしてラウル様が卑怯者なんですか?」
「うん……」
言いづらそうにしているラウル様。
「別に無理には聞きませんが」
「いやな、俺はエマに協力を頼んだんだ。セレナの好きなもの、好みとか、まぁ色々情報をな」
「だから…」
私はボソッとつぶやいた。
「ん?なんだ?」
「いいえ」
私は顔を横に振った。
「なら私の気持ちも知っていたんですか?」
「エマもそこだけは教えてくれなかった。ただ、「いい返事かもしれないでしょ、ラウル様が頑張らないといけないことは気持ちを伝えることよ」とは言われたが、いまいち自信がもてなくてな。そしたら「お前は男だろ、しっかりしろ」とジョーイに怒られた。それから「お前が意気地なしのままならセレナには別の男を紹介するからな」そう発破をかけられた」
ラウル様は真っ直ぐ神の像を見つめる。
「だから今日ここで気持ちを伝えようと思った。ここでなら意気地なしの俺の背を押してくれるんじゃないかと思ってな。こんな俺に慈悲を与えてくれるんじゃないか、奇跡を起こしてくれるんじゃないか、そう思った」
「ですがそれはラウル様の勇気です。意気地なしは私です。私は気持ちを伝える勇気がありませんでした」
ラウル様は私の肩を抱き寄せた。
「ジョーイとエマに感謝しないとな。俺に勇気を出せと背中を押してくれた。俺のせいで兄妹喧嘩までさせたのにな」
「では二人に何か好きなものを贈りましょう」
「ああ、そうだな」
きっとエマがラウル様に協力していると知ったジョーイお兄様はエマに注意をした。仮初の婚約者になる前にどうして友人として私を止めなかったと。
ジョーイお兄様もラウル様の友人としてラウル様には幸せになってほしいと望んでいる。それでもこれは違うと。
だからあの集まりの時に私に声をかけた。どうしてそんな馬鹿なことをしたんだと。でも私の気持ちを知り、ラウル様の背中を押した。
きっとエマに協力を頼んだ時、ラウル様は自分の気持ちをエマに伝えたのだろう。でも気持ちを伝えるつもりはないと言った。あくまで私が好きな人を見つけるまでの仮初の婚約者でいいと。私に好きな人が現れたら身を引くつもりだと。
幼い頃から私をよく知るエマには、私がラウル様に好意を抱いていると分かった。私の言葉や態度や表情から。
両思いなのにお互い消極的。
それに私はエマ曰く自分への好意には鈍感らしい。始まりは仮初の婚約者でも婚約者になればいずれ本当の婚約者になれる。そう思ったエマはラウル様に協力した。
「俺の妻になれば苦労をさせると思う」
「それは私がしなくてはいけない苦労です」
「誰かに何か言われたら教えてくれ」
「誰に何を言われても気にしません」
「俺と一緒にいれば白い目で見られ、後ろ指を指されるだろう」
「なら堂々としましょう。私達が仲良くしていればそのうち誰も私達のことなんか気にしません。お互い大好きだと皆さんに伝わります」
私はラウル様を見つめる。
申し訳なさそうな顔をするラウル様。
「私はラウル様が好きで貴方の妻になりたいんです。苦労も貴方の妻になるには必要なことです。後妻は薄外聞が悪いのは確かです。それでも私がラウル様を好きなんです」
「俺もセレナが好きだ。愛しい。離したくないしもう離せない」
「私も離れません」
「一緒に耐えてくれるか?」
「耐える必要はありません。私達はお互い好きで婚約し婚約者になりました。初婚じゃないとか後妻だとか、そんなことは瑣末なこと。それに私が後妻になり誰かに迷惑をかけますか?それでも人は陰口を叩くでしょう。ですがそれに惑わされる必要はありません。私達の気持ちさえ、お互いを思いやる気持ちがあれば、それだけで心強くなります」
「セレナ」
ラウル様は私を抱きしめた。
「あの晩の俺の行動を今の俺が褒めてやりたい。よくぞ後を追ってくれたと。あのまま終わりにしなくて良かった」
「それは私も同じ思いです。あのバルコニーで会ったのが貴方で良かった」
「セレナ」
私を真っ直ぐ見つめるラウル様。私もラウル様を真っ直ぐ見つめる。自然と近づくラウル様の顔。私は目を閉じた。ぎこちなく触れるラウル様の唇。
重なる唇が離れ、ラウル様は私を抱きしめた。
「好きだ、お前が愛おしい……」
「私も貴方が愛おしい……」
私はラウル様の背に手を回した。
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