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しおりを挟む「ねぇショーン、もう素直になって。貴方の心を偽る必要はもうないの。私は貴方の幸せを願っているわ。だって貴方は私の大切な幼馴染で、私の大切な家族だもの」
私はショーンを真っ直ぐ見つめる。
幼い頃は恋だったかもしれない。でも月日が流れ、その思いも家族愛のような感情になった。
ショーンのことは好きよ。それは今でも変わらない。
大切な幼馴染を、自分の半身の幸せを願うのは当たり前。
それに可愛いアニーの幸せを願うのも当たり前。
二人の幸せの形は、…同じ。
意識し見つめあい、意識し手を繋ぎ、意識し好意を抱く。
無意識の私ではショーンは幸せになれない。偽った心では幸せになれない。
そんな結婚、幸せじゃないわ。
「言いたくないけど、後妻なんだろ」
「ええ、でもそれが私が選んだ幸せよ」
「今度その人に会わせてほしい」
「どうしてショーンが会いたいの?」
「俺にとってもセレナは大切な幼馴染だ。俺だって幼馴染を心配するに決まってるだろ。セレナが好きになった人が変な人だとは思わない。それでも離縁するには何かしらあったから離縁したんだろ。俺だってセレナには幸せになってほしい。俺もセレナの幸せを願っているんだ」
「分かったわ」
部屋を出て行ったショーンの背中を私は見送った。
私は何度こうして貴方の背を見送っただろう。小さかった背中が、今は広くなった。小さかった手が、今はゴツゴツした手になった。小さかった背が、今は高くなった。顔つきだって、もう立派な青年。
一緒に泣いてくれた貴方はもういない。
貴方に慰めてくれなくても、私ももう一人で立ち上がれる。
ありがとうショーン。
私の隣にいてくれたのが貴方で良かった。
ずっと私の隣にいてくれてありがとう。
「……お嬢様」
心配そうに私を見つめるレイラ。
「ショーンの心配性にも困ったものね」
私はレイラに笑いかけた。
「そうですね」
レイラは泣きそうな顔で微笑んだ。
レイラは分かっているのだろう。私が何重にも蓋をしたこの心を。もう恋心か家族愛か分からないこの気持ちを。
レイラもここ数年見てきた。
アニーの気持ちも、ショーンの気持ちも。
「ありがとうレイラ」
レイラは何も言わず顔を横に振った。
一番近くで私を見てきたレイラ。いつも何も言わず私の思いを優先してくれる。
ありがとう……。
こうして私は周りに支えられてきた。
だから思うの。今まで散々支えられてきたから、今度は私が恩返しをしないといけない。
ショーンの幸せはアニーのもとにある。
レイラの幸せは私が幸せになること。
好きな人ができるのが一番だけど、でも私が一人でも楽しく生きていれば、それは幸せなこと。
レイラも部屋を出ていき、今は一人、部屋にいる。
一人、部屋にいるとこの先が不安になることがある。それでも、アニーとショーンをどうやって婚約させようか悩んでいた頃みたいな焦りはない。
これは自分で決めた道。今はラウル様の婚約者として振る舞うことに全力を出そう。
ラウル様は格好いい。それに優しい人。私なんかよりもっとお似合いの女性が現れる。
それに、もしかしたら、まだ元奥様を思っているのかもしれない。離縁して3年。まだ若いラウル様なら次の相手が早々に見つかったはず。次期侯爵という地位も、侯爵と縁を繋ぎたい人はいたはず。それでもラウル様は次の相手を探さず一人でいた。
人に優しくできる人。
人を一途に思える人。
そんな人がもてないわけがない。
ラウル様から「好きな人ができた」そういつ言われてもいいように、心は移さないようにしないと。
私はラウル様の仮初の婚約者、それを忘れてはいけない。
夕食の時、「婚約が受理されてしまった…」お父様は頭を抱えながらつぶやいた。
「なら今度ラウル君が我が家にきた時は私がお出迎えしようかしら」
お母様はにこにこと笑っている。
「私も私も」
はいはい、と、手を挙げたアニー。
きっとお母様もアニーもラウル様がどんな人なのか気になるのだろう。
「なにが子息に爵位を譲るだ。誰だそんな嘘の噂を流した奴は。侯爵はまだ譲る気はないとこの前言っていた。あの定例会もたまたま侯爵が体調を崩し、代わりに子息に行かせただけだと言っていた。俺だって酒が入れば「もうそろそろ爵位を譲って隠居するのもいいな」って、ついポロっと言うことくらいある。酒の席での話しを誰が本気にする。それは戯言であって本気じゃない。俺は噂に惑わされた……」
お父様はずっと頭を抱え一人ぶつぶつ言っている。
「それを知っていたらあの時の対応は変わった。騙された、俺は騙されたんだ……」
私とお母様とアニーは、お父様を憐れむように見つめた。
もう婚約が受理された後で、何と諦めが悪いのか。
お母様なんて呆れているわ。
頭を抱えているお父様を無視して美味しそうに夕食を食べているもの。それは私もアニーもだけど。
お父様はそうやって一人で頭を抱えていればいいんだわ。
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