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ラウル様と話し合った時より色々と状況が変わった。待っていればラウル様は婚約を打診してくれるのかしら。

そんな不安がよぎった時だった。

書斎の扉をノックし入ってきた執事。

「旦那様、こちらが先程届きました」

執事から受け取った紙を見たお父様は不愉快そうな顔をした。

「セレナ、今日の昼過ぎにダフリー侯爵と侯爵子息が我が家にくるそうだ。お前は準備を整えなさい」

「分かりました」

お父様に答える私の顔を覗き込むようにアニーは身を乗り出した。

「お姉様良かったわね。なら、今日その人に会えるのね。どんな人だろう」

にこにこと笑うアニー。それに比べ、お父様は不機嫌な顔をしている。

「アニーは部屋から出ないように」

お父様はにこにこと笑うアニーに釘を差すように言った。

「どうして?私だって会いたいわ」

「これ以上娘を誑かされては困る。アニーは侯爵達が帰るまで部屋から出ないように。分かったね」

ぷぅっと頬を膨らますアニー。

「アニー、返事は」

「分かりました」

納得できないのか、アニーはふてくされたように答えた。

「お姉様、今度会わせてよ。約束よ」

「ええ、約束ね」

私はアニーの頭を撫でる。

私は早めに昼食をとり、レイラに手伝ってもらいお迎えする準備をする。

レイラは「どんな髪型にしましょう。この髪留めはどうですか?」と、こっちにしようかあっちにしようかと楽しそうに選んでいる。ドレスだけでも着せ替え人形のように、やっぱりこっちの方が、いえいえやっぱりこっちの方が、と、その度に着替え直し少し疲れたのは内緒。

嬉しそうににこにこと笑うレイラの顔を見ていたら、満足するまで好きにさせようと思う。

数日間レイラには迷惑かけたもの。明るく振る舞ってはいたけど、やっぱりどこか暗かった。久しぶりにレイラの本当の笑顔を見れた気がする。

準備を整え私室で待っていると、窓の外から聞こえる馬車の音。

私を呼びにきた執事と共に書斎へ向かう。

コンコンコンコン

執事が書斎の扉を叩けば、中から「入りなさい」とお父様の声が聞こえた。

書斎の中に入ればソファーに座るダフリー侯爵とラウル様の姿。

ラウル様はソファーから立ち上がり、私はお父様の隣まで歩いた。

お父様の隣に立ち挨拶をする。

少し冷たそうに見えたダフリー侯爵は優しい笑顔で迎えてくれた。

「君がセレナ嬢か?」

「はい」

「子爵には既に打診をしたが、君の気持ちも教えてほしい。君も知っての通り息子には一度婚姻歴がある。未婚の君は後妻になるが、それでも我が家に嫁いでくる覚悟はあるか?」

私はダフリー侯爵を真っ直ぐ見つめた。

「はい、その覚悟はあります」

「口さがない者もいるだろう。それでも?」

「ラウル様と一緒なら耐えられます」

「そうか」

ラウル様と同じように優しく笑うダフリー侯爵。

「どうだろう子爵、セレナ嬢は我々が必ず守ると約束しよう」

「分かりました。では娘をお願いします」

お父様は観念したかのようにダフリー侯爵に頭を下げた。

「では私の息子と君の娘の婚約をここに結ぶ。異論はないね」

「はい、異論ありません」

ダフリー侯爵はお父様に尋ね、お父様は答えた。

それから婚約証明書にサインをし、私はラウル様の婚約者となった。

「ラウル様、父が色々と申し訳ありませんでした」

今はラウル様と庭を散歩中。

お父様とダフリー侯爵は親睦を深めようと書斎で話しをしている。

「お父上の気持ちは分かる。誰だって可愛い娘を後妻として嫁がせたくはない。まぁでもこれでセレナはゆっくり好きな人が探せる」

「ですが、少し申し訳ない気持ちになります」

優しく笑いかけてくれたダフリー侯爵。私達の婚約が決まり、本当に嬉しそうに笑った。

きっと息子のラウル様をずっと心配していたのだろう。

「とはいえ、婚約者になった以上、俺は婚約者として振る舞うつもりだからな」

「はい、よろしくお願いします」

今はラウル様の腕に手を添えて、ラウル様のエスコートで庭を歩いている。

「さっきから気になっていたんだが…」

ラウル様は遠くを見つめている。私もラウル様が見つめる視線の先を見つめる。

「アニー、あの子ったら」

「あれが妹か?」

「はい、お父様に部屋から出るなと言われていたんですが、すみません」

私達の後ろを隠れて付いてきているアニー。淑女の顔はどこへやら…。

「妹はどうなったんだ?」

「幼馴染と婚約することが決まりました」

「なら爵位は妹が継ぐのか?」

「詳しくは聞いていませんが、そうなると思います」

「お前はそれでいいのか?」

「はい」

もし今後好きな人が見つからなくても、私は誰かに嫁がないといけない。もし嫁ぐ先がなければ一人で生活する場所も必要。

きっとアニーもショーンも一緒に暮らそうと言ってくれると思う。それでも穀潰しになるのは嫌だし、二人の邪魔をするのも嫌。

「もしもの話だが、もしもの時は俺の家にくればいい。セレナ一人面倒見るくらい容易いからな」

ラウル様は優しい顔で笑った。

「ありがとうございます」

「いざという時は俺を頼れ」

私の頭を撫でるラウル様。

アニーの頭を撫でることはあっても、撫でられたのはいつぶりだろう。

誰かに頭を撫でられたのは久しぶり。恥ずかしくていたたまれないような、でも少し心が落ち着くような、一人じゃないと思えた。


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