上 下
13 / 39

13

しおりを挟む

次の日の朝食後、私はお父様に呼ばれ書斎へ向かった。

コンコンコン

「お父様、セレナです。入ります」

書斎に入れば、ソファーに座るお父様とアニー。私はアニーの隣に座った。私とアニーの向かい座るお父様は私達を見つめている。

「アニー、アニーはショーン君と婚約することが決まった」

「え?」

急な話で状況が分からないアニーは隣に座る私とお父様を交互に見ている。

「ショーンはお姉様と……。そうでしょう?どういうこと?お父様」

「セレナは別の男性と婚約する」

「お姉様どういうこと?」

アニーは私の腕を掴み私を見つめている。

私はアニーを真っ直ぐ見つめた。

「アニーには言ってなかったけど、私好きな人ができたの。だからショーンとは婚約しないわ」

私の腕を掴むアニーの手に私は自分の手を重ねた。

「でも、ショーンはお姉様と…」

「アニー、私もショーンを大切だと思ってるわ」

「なら」

「ショーンは私の大切な幼馴染だわ。でもね、それは家族に対する思いと同じなの」

「どうして?」

「私はショーンの幸せは願うけど、私が幸せにしたいわけじゃないの。私が幸せにしたいと思う人は別の人なの」

泣きそうな顔で私を見つめるアニー。

「……私の、…せい?」

「違うわ。アニーは何も悪くない。私もその人に出会わなければショーンと婚約していたと思う。ショーンを思う気持ちが家族愛のような感情だとしても、嫌いなわけじゃないもの。でもね、私も運命の人に出会ってしまったの」

「その人はお姉様を幸せにしてくれるの?」

「ええ」

私はアニーに幸せそうな顔で微笑んだ。

「ならお姉様はその人と婚約するの?」

「お父様次第だけど」

私はお父様を見つめた。

「許すしかないだろ…」

お父様は嫌々そうな顔をした。

「ねぇお姉様、その人はどんな人なの?」

アニーはキラキラとした純真無垢な顔で私を見つめている。

ラウル様と婚約すればいずれアニーの耳にも入る。他人から聞くよりは私が言った方がいい。

「その人はね、一度婚姻歴がある人なの」

「それって、後妻ってことでしょう?」

「そうね。でも、とても優しい人なの。そしてとても傷つきやすい人。だから私が幸せにしてあげたいの」

アニーはじっと私を見つめている。

「お姉様、誰が何を言おうと私はお姉様の味方よ」

アニーはにこっと微笑んだ。

これからお茶会とかで私の噂が流れる。あることないこと、噂話は人を平気で傷つける。

それはアニーの耳にも入り、きっとアニーも何か言われるかもしれない。心を痛める時もあるかもしれない。怒りたくなる時もあるかもしれない。

「ごめんねアニー」

「どうしてお姉様が謝るの?お姉様が懸念する気持ちは私も分かってるわ。でも私は大丈夫」

アニーは私を安心させるように笑った。

アニーにも分かってる。私が噂されるだけではないということを。自分も陰口を叩かれるかもしれないということを。

「だって私気にしないもの。だからお姉様は好きな人と結婚して。後妻でもいいじゃない。誰かを好きになるのは素敵なことなんでしょ?たまたまお姉様が好きになった人が婚姻歴があるってだけで、誰が誰を好きになっても、そんなの他人には関係ないわ。私はお姉様の家族よ?家族が応援しないで誰がお姉様の恋を応援するの?」

「アニー」

私はアニーを抱きしめた。

アニーはもう立派なレディー。喩え強がりだとしても、もう私が守らなくてもこの子は強い。

それに婚約者になるショーンがアニーを守ってくれる。

でも、ごめんねアニー。

そして、ありがとうアニー。

「今度その人に会わせてね?」

「ええ」

「約束よ?」

「必ず会わせるわ」

アニーは私の腕に自分の腕をからませ私の肩に頭を置いた。

嬉しそうに笑うアニー。

私達を見ていたお父様は「はあぁ」とため息をついた。お父様はきっと最後まで認めたくはない。それでも諦めに近いのだろう。

昨日の夜、ショーンのお父様がお父様の愚痴に付き合ってくれたおかげね。きっとそこでアニーとショーンの婚約の話になった。

お父様はアニーがショーンに好意を抱いているのは知っている。トントン拍子に話は進んだのだろう。

「セレナ、ダフリー侯爵家から婚約の打診がきたら、渋々だがこちらは受けるしかない」

お父様は「こないことを祈っているがな」と、ぼそっとつぶやいた。

「セレナ、今ならまだ…、誰か別の…」

「私はラウル様がいいんです。お父様、我が家から婚約の打診をしてはいただけませんか?」

「我が家からは絶対に打診はしない。そもそも打診は男性からするものだ。こないならこないでこちらには好都合だ」

お父様は「そもそもあちらは一度婚姻歴があるんだぞ。どうしてこちらからしないといけない」とぶつぶつ言っている。

私はお父様のつぶやきを聞こえないふりをした。

「でもダフリー家からすれば、」

「セレナ、こちらからは何も起こすつもりはない」

私の話しを遮るようにお父様は言った。

そこにお父様の強い意思を感じる。

お父様はまた「はあぁ」とまたため息をついた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その日がくるまでは

キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。 私は彼の事が好き。 今だけでいい。 彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。 この想いを余す事なく伝えたい。 いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。 わたしは、彼に想いを伝え続ける。 故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。 ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。 確実に訪れる、別れのその日がくるまで。 完全ご都合、ノーリアリティです。 誤字脱字、お許しくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

旦那様は甘かった

松石 愛弓
恋愛
伯爵夫妻のフィリオとマリアは仲の良い夫婦。溺愛してくれていたはずの夫は、なぜかピンクブロンド美女と浮気?どうすればいいの?と悩むマリアに救世主が現れ?

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

(完結)姉と浮気する王太子様ー1回、私が死んでみせましょう

青空一夏
恋愛
姉と浮気する旦那様、私、ちょっと死んでみます。 これブラックコメディです。 ゆるふわ設定。 最初だけ悲しい→結末はほんわか 画像はPixabayからの フリー画像を使用させていただいています。

私を裏切っていた夫から逃げた、ただそれだけ

キムラましゅろう
恋愛
住み慣れた街とも、夫とも遠く離れた土地でクララは時折思い出す。 知らず裏切られていた夫ウォレスと過ごした日々の事を。 愛しあっていたと思っていたのは自分だけだったのか。 彼はどうして妻である自分を裏切り、他の女性と暮らしていたのか。 「……考えても仕方ないわね」 だって、自分は逃げてきたのだから。 自分を裏切った夫の言葉を聞きたくなくて、どうしようも無い現実から逃げたのだから。 医療魔術師として各地を点々とするクララはとある噂を耳にする。 夫ウォレスが血眼になって自分を探しているという事を。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 ●ご注意 作者はモトサヤハピエン作家です。どんなヒーローが相手でもいつも無理やりモトサヤに持っていきます。 アンチモトサヤの方はそっ閉じをおすすめ致します。 所々に誤字脱字がトラップのように点在すると思われます。 そこのところをご了承のうえ、お読みくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿いたします。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

処理中です...