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しおりを挟む次の日の朝食後、私はお父様に呼ばれ書斎へ向かった。
コンコンコン
「お父様、セレナです。入ります」
書斎に入れば、ソファーに座るお父様とアニー。私はアニーの隣に座った。私とアニーの向かい座るお父様は私達を見つめている。
「アニー、アニーはショーン君と婚約することが決まった」
「え?」
急な話で状況が分からないアニーは隣に座る私とお父様を交互に見ている。
「ショーンはお姉様と……。そうでしょう?どういうこと?お父様」
「セレナは別の男性と婚約する」
「お姉様どういうこと?」
アニーは私の腕を掴み私を見つめている。
私はアニーを真っ直ぐ見つめた。
「アニーには言ってなかったけど、私好きな人ができたの。だからショーンとは婚約しないわ」
私の腕を掴むアニーの手に私は自分の手を重ねた。
「でも、ショーンはお姉様と…」
「アニー、私もショーンを大切だと思ってるわ」
「なら」
「ショーンは私の大切な幼馴染だわ。でもね、それは家族に対する思いと同じなの」
「どうして?」
「私はショーンの幸せは願うけど、私が幸せにしたいわけじゃないの。私が幸せにしたいと思う人は別の人なの」
泣きそうな顔で私を見つめるアニー。
「……私の、…せい?」
「違うわ。アニーは何も悪くない。私もその人に出会わなければショーンと婚約していたと思う。ショーンを思う気持ちが家族愛のような感情だとしても、嫌いなわけじゃないもの。でもね、私も運命の人に出会ってしまったの」
「その人はお姉様を幸せにしてくれるの?」
「ええ」
私はアニーに幸せそうな顔で微笑んだ。
「ならお姉様はその人と婚約するの?」
「お父様次第だけど」
私はお父様を見つめた。
「許すしかないだろ…」
お父様は嫌々そうな顔をした。
「ねぇお姉様、その人はどんな人なの?」
アニーはキラキラとした純真無垢な顔で私を見つめている。
ラウル様と婚約すればいずれアニーの耳にも入る。他人から聞くよりは私が言った方がいい。
「その人はね、一度婚姻歴がある人なの」
「それって、後妻ってことでしょう?」
「そうね。でも、とても優しい人なの。そしてとても傷つきやすい人。だから私が幸せにしてあげたいの」
アニーはじっと私を見つめている。
「お姉様、誰が何を言おうと私はお姉様の味方よ」
アニーはにこっと微笑んだ。
これからお茶会とかで私の噂が流れる。あることないこと、噂話は人を平気で傷つける。
それはアニーの耳にも入り、きっとアニーも何か言われるかもしれない。心を痛める時もあるかもしれない。怒りたくなる時もあるかもしれない。
「ごめんねアニー」
「どうしてお姉様が謝るの?お姉様が懸念する気持ちは私も分かってるわ。でも私は大丈夫」
アニーは私を安心させるように笑った。
アニーにも分かってる。私が噂されるだけではないということを。自分も陰口を叩かれるかもしれないということを。
「だって私気にしないもの。だからお姉様は好きな人と結婚して。後妻でもいいじゃない。誰かを好きになるのは素敵なことなんでしょ?たまたまお姉様が好きになった人が婚姻歴があるってだけで、誰が誰を好きになっても、そんなの他人には関係ないわ。私はお姉様の家族よ?家族が応援しないで誰がお姉様の恋を応援するの?」
「アニー」
私はアニーを抱きしめた。
アニーはもう立派なレディー。喩え強がりだとしても、もう私が守らなくてもこの子は強い。
それに婚約者になるショーンがアニーを守ってくれる。
でも、ごめんねアニー。
そして、ありがとうアニー。
「今度その人に会わせてね?」
「ええ」
「約束よ?」
「必ず会わせるわ」
アニーは私の腕に自分の腕をからませ私の肩に頭を置いた。
嬉しそうに笑うアニー。
私達を見ていたお父様は「はあぁ」とため息をついた。お父様はきっと最後まで認めたくはない。それでも諦めに近いのだろう。
昨日の夜、ショーンのお父様がお父様の愚痴に付き合ってくれたおかげね。きっとそこでアニーとショーンの婚約の話になった。
お父様はアニーがショーンに好意を抱いているのは知っている。トントン拍子に話は進んだのだろう。
「セレナ、ダフリー侯爵家から婚約の打診がきたら、渋々だがこちらは受けるしかない」
お父様は「こないことを祈っているがな」と、ぼそっとつぶやいた。
「セレナ、今ならまだ…、誰か別の…」
「私はラウル様がいいんです。お父様、我が家から婚約の打診をしてはいただけませんか?」
「我が家からは絶対に打診はしない。そもそも打診は男性からするものだ。こないならこないでこちらには好都合だ」
お父様は「そもそもあちらは一度婚姻歴があるんだぞ。どうしてこちらからしないといけない」とぶつぶつ言っている。
私はお父様のつぶやきを聞こえないふりをした。
「でもダフリー家からすれば、」
「セレナ、こちらからは何も起こすつもりはない」
私の話しを遮るようにお父様は言った。
そこにお父様の強い意思を感じる。
お父様はまた「はあぁ」とまたため息をついた。
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