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しおりを挟む夜、私はラウル様に手紙を書く。
可愛い便箋、可愛い封筒を選び、ラウル様を思い出し手紙を書いていく。
一目惚れした、会いたい、まだその言葉は使わない。それでもそう思えるような文章を考える。
まず、楽しい時間をありがとうございますとお礼から。
私は丁寧に書いた。何度も筆が止まり、そしてまた書き始める。
書いた手紙を机に置き、少し疲れた私はぐっすりと眠った。
「レイラ、これをお父様には内緒で届けてほしいの」
私のお世話をしてくれるメイドのレイラに手紙を預けた。
「これは…。……分かりました」
明らかに恋文のような封筒。レイラは何も言わず胸元にしまった。
私は毎日毎日ラウル様に手紙を書き、それをレイラに届けてもらった。
お礼から始まった手紙が、日に日にもう一度お会いしたいと、貴方と過ごした時間が忘れられないと、手紙に書き綴った。
手紙を書き始めて2週間が過ぎようとした頃。
「セレナ、少し二人だけで話をしよう」
険しい顔をしているお父様。
お父様の後に続いて書斎に入った。
お互いソファーに座れば、お父様は真っ直ぐ私を見つめている。その顔は少し怒っているようにも思える。
「最近レイラがこそこそと邸を抜け出しているが、何か心当たりはあるか?」
書斎の隅で肩をすぼめ下を向いているレイラ。
「私がレイラに頼みました。レイラは何も悪くありません。私が無理矢理頼んだんです」
「これか」
お父様は机の上に今日届ける予定だった手紙を置いた。私は机に置いてある手紙を手に取り、大事そうに手紙を見つめた。
「セレナ説明しなさい」
私はお父様を真っ直ぐ見つめた。
「お父様、以前好きな人ができたら教えてくれと言ったことを覚えていますか?」
「ああ、確かにそう言った」
「私、好きな人ができました。彼でなければ嫌です。結婚するなら彼がいい。彼と結婚できないのなら、私は誰とも結婚するつもりはありません」
私はお父様から目を逸らさず言った。
「駄目だ」
「どうしてです」
「彼は初婚ではない」
「ですが、今は独身です」
「今は独身だ。だが一度婚姻した経験がある」
「一度婚姻したのは事実です。ですが離縁しているので不倫ではありません」
「でも後妻だぞ」
「なら後妻に嫁ぐということは何かの罰でしかないのですか?」
「違う、違うが、自分の娘はまた別の話だ」
後妻に嫁ぐ人には何かしら理由がある。家の都合、素行の悪さ、様々な理由から後妻として嫁ぐ。だから皆陰口を叩く。
一度離縁した経験がある者同士ならまた違うのかもしれないけど。
「そもそもどこで知り合ったんだ」
「エマの家に泊まりに行った時です。彼はエマのお兄様のご友人です」
「そもそも年頃のお前が泊まりにきているのに、友人を邸に招くなんて少し非常識だ」
「エマのお兄様の交友関係に口を挟む権利はお父様にはありません。それに、いつ自分の邸にご友人を招いたとしても、それこそお父様が口出す権利はありません」
「それでも、こうしてお前は彼に好意を抱いた。出会う場がなければ知り合う機会もなかった。お前は年頃の女性なんだぞ。こうならない為にも少し考慮してくれても良かったはずだ」
「お父様だってショーンのお父様をよく家に招きます。私と同じ年のショーンがいるのにもかかわらず、幼い頃からずっと何度も家に招いています。もう子供ではないショーンが今でも我が家に遊びにきますが、それだって年頃の娘が二人もいるのに、お父様は何も言いません。エマのお兄様を責めるのは違います」
お父様と私はお互い目を逸らさず見つめ合う。
「セレナ、正直に答えなさい。ショーン君と婚約したくないからそんな嘘を言っているのか?」
「違います。私がラウル様に一目惚れしたんです」
「一目惚れしたということは見た目を気に入ったということだ。中身ではない」
「確かに見た目が好みなのは事実です。それでも、優しい一面も、愛情深い一面も、少し繊細な一面も、お人好しな一面も、私はラウル様の中身にも惚れました」
私は別に嘘は言っていない。
あの交友会での夜に話をして、見た目の好みだけではなく、彼の中身にも好感が持てた。
元奥様を一途に愛し、そして女性不信になるまで傷ついた。自分の愛はなんだったと自分を責め、共犯という形で私に自由に選択する時間をくれようとしている。
お父様は私から目を離さずじっと見つめる。
「それでも駄目だ」
「どうしてです」
私は大きな声をあげた。
「お前が好きになった人を応援してやりたい。その気持ちは嘘ではない。それでもやはり認めることはできない」
「お父様がもし彼以外と無理矢理婚約させるなら、私はお父様を一生恨みます」
「恨まれても仕方ない。それでも娘が不幸になるのが分かっていて許すことはできない。だが、セレナの意思を無視して誰か別の者と婚約を進めたりはしない」
「どうして不幸になるんです。後妻だから?初婚ではないから?そんなの瑣末な事です。好きな人と結婚するということは、それは幸せなことではないんですか?私はラウル様と結婚できたら幸せになれるんです」
私は詰め寄るようにお父様に訴えた。
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