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「ねぇアニー、アニーはショーンが好きなのよね?」

私は意を決したようにアニーに初めて聞いた。

私が二人は相思相愛だと思っているだけで、直接聞いたことはない。今までなんとなく聞いてはいけないことだと思っていた。

だから私は二人を見守っていた。

二人が互いを思い合う気持ちを大事にしたかったから。

アニーは驚いたように目を大きく開き、それから伏し目がちに目線を下げた。

「好きじゃないわ。だってショーンはお姉様の婚約者になるんだもの」

泣きそうな顔で笑ったアニー。

「アニー、誰を好きに思おうと、それが誰であろうと、アニー自身がアニーの心を否定しないでほしいの」

私はアニーに優しく笑いかけた。

「アニー、アニーはショーンが好きなのよね?」

アニーはじっと私を見つめ、コクンと頷いた。

「でも、でもねお姉様、それはお兄様のような感覚だと思うの。これは恋じゃないわ」

焦ったように言うアニーに私は聞いた。

「ショーンは優しい?」

「うん」

「ショーンと会えると嬉しい?」

「うん」

「ショーンのことを考えて夜眠れない?」

「……うん」

私はショーンにこんな思いは抱いていない。

ショーンに会えなくても、ショーンに優しくされなくても、ショーンを思って夜眠れなくなることはない。

はっきり言って、ショーンのことを考えたことがない。

遊びに来ていても来てたの?くらいだし、少しの間顔を見なくても気にしたことはない。

アニーが「最近ショーンは忙しいのかな?ずっと顔を見てないわ」そう言うまで私は気づかない。

「久しぶり」とショーンに言われて、久しぶりだっけ?この前会ったじゃないっていつも思っていた。

「アニー、アニーのその思いはとても素敵なものよ?人を好きなるってとても素敵なことなの。だから私はアニーのその心を大事にしてほしいと思ってるの。アニーは私の大切な可愛い妹なんだから」

私はアニーに優しく笑いかけた。

「お姉様……」

「ほら笑って?私の可愛い妹にそんな悲しげな顔は似合わないわ。ほら、ほら」

私はアニーの頬を突いた。

「お姉様はショーン以外に好きな人ができたの?」

私の顔をじっと見つめていたアニーに言われ、私はドキリとした。

「お姉様、私もお姉様の味方よ?誰を好きになろうと、どんな人であろうと、お姉様が好きになった人が悪い人なわけがないもの」

私は何も言わず微笑んだ。

「アニー、セレナ」

「ショーン」

遠くから私達の名を呼ぶショーン。

ショーンに手を振るアニーは花が咲いたような笑顔を向けている。

いつもショーンを見つけるとアニーは花が咲いたような笑顔をショーンに向ける。それは幼い頃から変わらない。

私は「ふふっ」と笑った。

こんな可愛らしい笑顔を向けていて、兄のように思ってるなんて、誰がそう思うのかしら。

遠くから手を振るショーンも嬉しそうにアニーに手を振り返している。

「アニー、セレナ、ここに居たんだね」

優しくアニーに笑いかけるショーン。

ショーンは昔からアニーを先に呼ぶ。きっと無意識に呼んでいる。名前の呼び順なんて些細なことだけど、でもその些細なことでも無意識に心が現れていると思ってる。

アニーの頭を優しく撫でるショーン。愛おしそうに見つめる視線はいつも目尻が下がっている。

私は幼い頃からずっとこの光景を見続けてきた。

「もうやめてよ、髪が崩れちゃう」そうアニーは言う。それでもまんざらでもないというかのように嬉しそうに笑っている。

それでもやめないショーン。アニーが可愛くて仕方ないみたい。

今の私は空気のように景色に溶け込む。

「セレナ元気だった?」

アニーを可愛がり、思い出したかのように私に気づく。

「ええ、ショーンも元気だった?」

「ああ」

一応私にもショーンは優しく笑いかける。

ショーンにとって、私は幼馴染としての感情しかない。それは私も同じ。目の前の二人のやり取りを見ていても微笑ましく思っている。

うんうん、今日も安定の仲良し。

「セレナ、ちょっといい?」

「ええ」

ショーンはアニーに「少し待ってて」と言い、アニーから少し離れた場所に歩き出した。私もショーンの後を追った。

「急にどうしたの?」

「うん……」

今まで見たことがないような真剣な顔をしているショーン。

「父上が…、そろそろ正式に婚約をしないかって」

「そう…」

ついにこの時がきてしまった。

「でもまだ私の誕生日まで半年あるわ」

「意思だけ確認してこいって」

「ショーンあと半年待って。初めからその約束よ」

「分かった。父上にははぐらかしておくよ」

「ありがとう」

私達は幼馴染。その思いがお互いに強い。強いからこそ、婚約への決心がつかないことをショーンは理解してくれている。

「さあ、可愛いお姫様が待ちくたびれて拗ねてるわ」

私達の様子を見つめているアニー。

「ああ、可愛いお姫様がふてくされる前に戻ろう」

アニーは可愛いお姫様、それは私達の共通認識。

私はもちろんのこと、兄しかいないショーンにとって、初めてできた可愛い妹の存在のアニー。

幼い頃のショーンは本当に可愛い妹ととして思っていたと思う。それが月日が流れ、妹から一人の女の子として映るようになった。可愛いから愛しいに…。

アニーを見つめる視線から愛しさが溢れ出ている。


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