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少し夜更かしをした私達は遅めの朝食をとる。

「来るかしら」

お友達は楽しそうに笑っている。

「来ないわよ」

私は内心ドキドキしている。

来てもらっても困るような、でも来ないなら残念なような。

「でも後妻よ?」

「ただお礼をするだけよ」

「でも考え方によってはいい人じゃない?好きな人を見つけるまでの時間稼ぎをしてくれるのよ?それに揉めごともなく白紙に戻してくれるのよ?」

「彼にはなんの利点もないわ」

「いやだ、彼だって」

「もうからかわないで、名前も知らないのよ?」

「ねぇねぇ、その人、格好よかった?」

「まぁ、……好みの男性だとは、思ったわよ?でも、それはショーンよりってだけで…」

「でも好みだったんでしょ?」

「まぁ、…………うん…」

「キャーー」

私は熱くなった顔をパタパタと手で仰いだ。

好みか好みじゃないかと聞かれれば好み。

でも、恋愛対象かと言えば、それは微妙。

年の差?初婚じゃないから?

そもそも見た目が好みだけであって、好きになるとは限らないし、それだけで好きになるわけではない。

「エマの楽しそうな声が外まで聞こえていたぞ」

「お兄様」

お友達のエマのお兄様が入ってきた。

この離れには元々エマのお兄様夫婦が暮らしていた。お兄様の奥様が出産をし、それから本宅で暮らすようになった。

本宅にあるエマの私室を子供部屋にしてほしいと、エマはこの離れで暮らすようになった。

「どうしたの?」

「今日この離れを貸してくれないか?」

「別にいいけど、どうして?」

「友人達が遊びにくることになったんだ。うるさくするとジョシュが起きちゃうからな」

ジョシュ君はお兄様の次男で、まだ産まれたばかり。

「分かったわ」

お兄様は部屋を出て行った。

「なら私は帰るわ」

「いいのいいの、まだ話足りないわ。それに昼までにまだ時間はあるわ。私達は庭に移動しましょう」

私達が庭に移動すると、入れ替わりにお兄様のご友人達が到着した。

エマと庭で話をしていると、突然肩を叩かれた。

「え?なんで?なんでここにいるの?」

肩を叩かれ振り返れば、昨日会った男性の姿。

「ラウルここに居たのか、探したぞ」

エマのお兄様は焦った顔をしていた。

「お前の妹とご友人だろ?」

「ああ、妹のエマだ。それとエマの友人の」

「いい、直接名前を聞きたい」

お兄様の言葉を遮り、男性は私を見つめている。

「俺はラウル、君は?」

「私は、セレナです」

私は驚いて椅子に座ったまま男性を見上げて答えた。

「セレナか…、セレナ、俺は君に一目惚れをしたようだ。こんな年上は嫌か?」

「おいラウル」

エマのお兄様はラウル様の肩を掴んでいる。エマは状況を把握したのだろう、にこにこと笑っている。

私は顔を横に振った。

「こんな年上でもいい?」

「はい」

私は頷いた。

「良かった」

そう言ってラウル様は優しい顔で笑った。

「あっ、そうだわ。二人で散歩でもしてきたら?」

エマは思いついたかのように言った。

「そうだな、どうだろうか、俺と散歩してくれないか?」

エマを見れば「うんうん」と頷いている。

「では、はい」

ラウル様は私に手を差し出し、私は立ち上がるためにラウル様の手に手を重ねた。

「おい」

エマは「大丈夫よ、お兄様」とお兄様を止めた。

「俺の大事な妹の友人だ、変なことはするなよ」

お兄様はラウル様に釘を差し、ラウル様はお兄様の肩を叩いた。

立ち上がった私はラウル様と歩き出した。

「驚きました」

「出会いは必要だろ?」

「そうですが…」

「一晩寝てどうだ?俺と仮の婚約をする気になったか?」

「もし仮の婚約をしたとして、ラウル様にとってみれば何も利点はありませんよね?」

「利点ならある。俺もうるさく言われなくなる。離縁して3年、早く相手を見つけろって周りがうるさくてな、困っていたんだ」

「だとしても」

隣を歩くラウル様は立ち止まり、自然と私も立ち止まった。

「結婚しようと言うつもりはない。セレナには好きな人をゆっくり見つけてほしいだけだ」

「でも婚約したら他に好きな人を見つけるのは難しいと思います」

「なら婚約はせず、ひとまず好きな人を見つけたとご両親に言えるだろ?そしたら幼馴染と婚約することはない。それに俺は跡継ぎだ、そしたら妹に権利が移る」

「それはそうですが。そもそもお互い何も知りません」

「名前は知ってる。あとは年か?俺は25歳だ」

エマのお兄様のご友人なら10歳年上なのは分かった。

「セレナは子爵だったな」

「はい」

「俺は侯爵だ」

侯爵なの?子爵の私とは身分が違いすぎる。

「もし仮に婚約するにも身分が違います」

「今の俺に身分なんてものは関係ない。両親も身分なんて気にしていない。ただ相手が見つかればそれで満足するような親だ」

「でも…」

喩えラウル様のご両親が身分を気にしなくても、周りは違う。仮に婚約するだけだと言っても、影で噂される。

「軽い気持ちでいい。もしセレナに好きな人ができそうになったら言ってくれ。その時は遊び人を装うことは簡単だ。俺がセレナに一目惚れして、なかなかなびかないセレナに嫌気が差して夜な夜な女と遊びだした、筋書きは何とでもなる。俺を悪者にしてくれて構わない」

「どうしてそこまでしてくれるんです」

昨日初めて会った、それもほんの少し話しただけの関係なのに、どうしてそこまでしてくれるのか分からない。

この人は善人なのか、お人好しなのか。


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