7 / 20
7
しおりを挟む父上に呼ばれ書斎へ入った。
「明日、侯爵家のお茶会に呼ばれている。お前はイザベラをエスコートするんだ、良いな」
「夜会の時も言いましたが、エスコートするならエルザをエスコートします。それに兄上が亡くなって夜会ですか?お茶会ですか?」
「イザベラには気分転換が必要だ。ノアが死んだと思っていない以上、家に閉じ込めておく事もないだろう」
「ですが、俺がエスコートしなくても…」
「義理の姉をエスコートするのがそんなに嫌か?家族をエスコートするのが家族の役目だろ?違うか?
それにイザベラはお前をノアだと思っている。お前がエルザをエスコートしていたら浮気だと思うだろ。ノアは浮気をするような男だったか?どうだ?そんな軽薄な男だったか?」
「違いますが…」
「家族をエスコートしてお茶会へ行く、何の問題もない。そしてお前は夜会の時のようにノアとして振る舞え。ノアの真似をしろ。まるでノアのように見えるようにだ、分かったな!」
「ですが、」
「エリザと婚姻したいならやるんだ。口答えは許さない!」
追い出されるように書斎から出て、
「ノア~」
イザベラがこっちに向かって歩いて来た。
「お茶会のドレスどうしよう。お腹が出てきたから目立つわよね。でもノアとの子だもの、幸せの象徴だから見せびらかすのも良いかも。そう思うでしょ?」
「イザベラ、子にもよくないからお茶会は遠慮させてもらおう。夜会の時も調子を崩しただろ?」
「あの時は悪阻もまだ終わってなかったからよ?今は大丈夫よ?それにこれからどんどんお腹が大きくなるわ、そしたら行けなくなるし、この子を産んだらお茶会や夜会に暫く行けないでしょ?ね?お願い。これで最後になるかもしれないじゃない。
それに侯爵家には参加する返事を出したのよ?それにお茶会は明日なのよ?明日のお茶会を断るのはあちらに失礼だわ」
父上は本当に俺の事なんてどうでも良いんだな。俺が婚約を解消されようが、エリザにどう思われようが、俺の事なんてどうでも良いんだな…。
父上にとって大事なのは兄上とイザベラで、そしてイザベラの腹に宿った兄上の子……だけか…。
侯爵家のお茶会で、俺はイザベラをエスコートして兄上のように振る舞っている。兄上のように、にこやかにし色々な人と話す。イザベラに笑いかけ……、
イザベラが「旦那様」と言うたび俺の内で何かが壊れていく。
イザベラの声がまとわりつき俺を雁字搦めにする。
「旦那様?」
もう止めてくれ!
誰か、助けてくれ!
誰か、
誰か、
エリザ……、
俺を助けてくれ………
「旦那様、どうしたの?」
「少し席を外す」
「分かったわ、早く帰って来てね?」
「ああ」
俺はイザベラから離れ少し一人になりたかった。
力の入った体が、握り拳が、
兄上として振る舞うのに何の意味がある!皆、兄上が亡くなったと知っているのに。
今日イザベラがしゃべっていたのはイザベラの友達ばかり、その人達からは哀れみの目を向けられ、事情を知らない人達からは怪訝な目を向けられた。
旦那様と呼ばれそれに相槌を打つ
もう限界だ!
エリザごめん、婚約は解消する。結婚もできない。
エリザの幸せをいつまでも願っているよ……。
183
お気に入りに追加
1,698
あなたにおすすめの小説
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる