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しおりを挟む「父上、お話があります」
「どうしたノア」
「俺は兄上ではありません。レオです!」
「お前にはノアとして生きろと言ったはずだ!」
「せめてエリザにだけは本当の事を言っていいですか」
「駄目だ!お前はこの家の恥を晒す気か!イザベラが記憶喪失だと、お前をノアだと思っているとイザベラを好奇の目に晒させたいのか!お前はイザベラが可哀想だとは思わないのか!そんな薄情な息子に育てたつもりはない!」
「イザベラの記憶が混濁しているのが恥ですか?それにエリザは人に言いふらしたりしません!」
「お前がエリザに言いたいなら言えばいい。だがな、その時は婚約を解消するようにあちらに伝える。それでも良いのだな」
「そんな!」
「子が産まれるまでくらい辛抱できんのか!ノアの子だぞ!この家の跡取りだぞ!」
「俺が兄上の代わりに死ねば良かったですね」
「全くだ!お前が代わりに死んでくれたら良かったんだ」
「そうですか……」
「私はノアとイザベラにこの家の跡を継いでほしかった。何度も言うが、勘当されたくないのならノアとして生きろ、分かったな!
お前とて勘当されたら婚約が無くなるくらい分かっているだろ?平民になったお前にあちらが婿養子になれと言うと思うか?
よく考えるんだ。レオとして生きるか、ノアとして生きるか、どちらが良いかな」
父上の書斎から出れば、
「ノア様、イザベラ様がお呼びです」
メイドに声をかけられる。
「ノア?どうしたの?お義父様の怒鳴り声が聞こえたけど、喧嘩でもしたの?ノアにしては珍しいわね」
ノア、ノア、ノア、
そんなに皆兄上が良かったんだな…。
やっぱり俺が死ねば良かった…。
「ノア、お医者様がね、少し散歩をした方が良いって。明日お医者様の所まで一緒に付いてきてくれない?」
「明日?明日は無理だ」
「でもお医者様が旦那様と一緒にって言っていたの。何か大事な話があるからって、駄目?」
「……分かった」
明日はエリザと会える唯一の日だ。エリザと会いたい。だが、エリザを優先すれば父上が婚約を解消するだろう。それだけは嫌だ!
今の俺の唯一の支えなんだ…
それだけは、
それだけは俺から取り上げないでくれ…
俺という存在も、レオという名も、
兄上になるのも、ノアと呼ばれるのも、
我慢する。
だからエリザだけは俺から取り上げないでくれ…
エリザに明日は行けないと手紙を書いて執事に届けるように頼んだ。
イザベラと医者の所へ行くと、大事な話とは記憶の事だった。混濁なら直ぐに戻るだろうと思っていたが、なかなか戻らない。何かきっかけがあれば、些細なきっかけで記憶を戻すだろうと言われた。
医者の所からの帰り、
「ノア、いつも行っていた喫茶店に久しぶりに行きましょ?よくデートしたわよね。久しぶりに行きたいわ。ね?良いでしょ?」
「ああ」
兄上とデートしていた場所ならもしかしたら、
「ここは…」
「どうしたの?」
「ここだけは駄目だ。違う喫茶店に行こう」
「でもここでよくデートしたじゃない」
「ここは、ここだけは、」
ここはエリザと待ち合わせをする場所だ。そんな所に違う女と一緒に入りたくない。
エリザを傷つける事はしたくない。
「違う所にしよう」
「もう!ここじゃないと意味がないでしょ?入るわよ」
イザベラは喫茶店の中に入ろうと、
「イザベラ頼む、ここだけは、」
「ノア、貴方少し変よ?」
イザベラは喫茶店の中に入って行った。
「早く!私も私達の赤ちゃんも疲れたって、ね?」
俺はしぶしぶ中に入った。
すまない、エリザ、
すまない…。
俺は婚約者失格だな…
エリザと過ごしたこの喫茶店は俺にとって幸せな場所の一つだった。
それを俺は自分で穢した…
エリザに嫌われ、婚約を解消されたら…
俺は、
俺は……
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