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しおりを挟む「話が逸れてしまいましたわ。
アラン例の物を」
アランが私に紙を差し出した。私はそれを受け取った。
「ローレンス殿下、こちらは婚約破棄の証明書ですの」
婚約破棄の証明書を殿下に見せた。
「殿下のサインをお願いいたしますわ」
「ま、待てエリーナ」
「このような状況でサインが出来ないとおっしゃるの?」
「そうじゃない。婚約破棄ではなく白紙や解消にするべきだ」
「いいえ、わたくしは婚約破棄を望みましてよ」
「別にいいじゃない。エリーナ様が望むなら婚約破棄してあげれば?」
またまた口を挟んできたミリア様。
「ミリアは口を挟むな」
驚いたわ、殿下もミリア様に強い口調で言えるのね。
ミリア様はぷくっと不貞腐れているけど可愛らしい顔の方が不貞腐れている姿も、あら、可愛らしく見えるわね。
「エリーナ、婚約を白紙に戻そう」
「いいえ」
「せめて解消にしよう」
「いいえ、わたくしは婚約破棄以外望みませんわ」
「エリーナ」
「殿下、わたくしが殿下の婚約者になり10年ですわ、10年ですのよ。わたくしは殿下の隣に立っても恥ずかしくないように、殿下を支える為に、そう思ったからこそ今まで頑張ってこれましたの。
確かに殿下とミリア様のような愛は無いのかもしれませんわ。それでもわたくしは殿下の婚約者になってから殿下をお慕いしておりましたの。例え殿下のお心がわたくしから離れようとわたくしがお慕いしていればいつかまたわたくしを見てくださる、そう思っておりましたわ。わたくしさえ目を瞑れば、わたくしさえ我慢すれば、わたくしさえ耐えれば、そう自分に言い聞かせておりましたわ。
始まりは政略ですもの。そこに心は関係ありませんわ。ですがわたくしは心を持ってしまいましたの。殿下をお慕いしている心を持ってしまいましたの。そして夢を持ってしまいましたの。例え始まりは政略でも殿下もわたくしを慕ってくださると、殿下とわたくしで愛を育てれると夢を持ってしまいましたの。
殿下、わたくしにも心がありますのよ。どれだけ妃教育で培ってきたとしても、心を隠し笑顔を貼り付けていようと、わたくしにも心がありますの。殿下の心変わりにわたくしが傷つかないとお思いですの」
「すまなかった」
「わたくしにすまないと思うのなら、どうかサインをお願いいたしますわ」
私の頬を伝う雫が次から次へと流れている。
「何を騒いでおる」
声の主に会場にいる者達が一斉に振り返り礼をとる。声の主の登場にざわざわしていた会場が静まりかえる。
ツカツカと歩いてくる声の主。私の手にある紙を取り見ている。
「婚約破棄とな、ローレンス答えよ」
「それは…」
「お主の学園での様子は報告を受けている。我は何度もお主に忠告をした。学園の中では身分は平等とはいえ婚約者を蔑ろにしていい訳ではないと。お主の婚約者はエリーナだけだと。
お主も学園の入学の時に言われたはずだ。
『身分は平等とはいえ、紳士は紳士らしくあるべし、淑女は淑女らしくあるべし、己の行動に責を負うべし、その事を忘れべからず』
ローレンス、婚約者以外に現を抜かす者は紳士か、答えよ」
「すみません父上…」
「我は紳士かと聞いたのだ」
「……紳士、ではありません」
「ならばお主は紳士ではなく愚者だ。お主のような者を紳士とは言えぬ」
「父上それは余りにも言い過ぎです」
「学生の内なら羽目を外しても許されるとでも思ったのか」
陛下の低い声が静まりかえった会場に響き渡った。
「学園は遊ぶ場ではない。身分は平等とはいえお主は王子だ。皆の手本になるように務め臣下と対等に声を交わせる唯一の場だったのだ。人脈を作る事も己の味方を作る事も出来た最後の機会だったのだぞ。お主はこの3年何をしていたのだ」
殿下は握り拳に力が入り唇を噛みしめ顔を下げている。
「エリーナ・ハウバウル」
「はい陛下」
「お主からの婚約破棄の申し出受理する」
「ありがとうございます陛下」
「だが婚約破棄は双方に傷がつく」
「はい、心得ております。わたくしはローレンス第一王子殿下の婚約者でありながら殿下を咎める事を怠りました。そして殿下にわたくしの意思を伝えずわたくしの身勝手で婚約破棄を致しました。わたくしは責を負う覚悟でございます」
本来ならこの場にお父様とお母様が卒業生の来賓として来るべきなのに今日は来ていない。隣国の王配になったお兄様の所に弟を連れて会いに行っている。
陛下は私を真っ直ぐ見つめる。
「エリーナ、本日の事ハウバウル公爵は知っておるのか」
「いいえ、両親は隣国へ行っております。わたくしは両親に反対されると思い両親が留守の間にわたくし個人の気持ちを優先しわたくしが身勝手に婚約破棄を致しました」
「公爵も知らぬとな」
「はい陛下、両親は知りません」
「公爵がいない今我がお主に処罰を下す。良いな」
「はい、処罰を受け入れる所存でおります」
「ハーベルト国におけるお主の身分を剥奪する。今この時をもってお主をハウバウル公爵家から籍を抜く、良いな」
「はい陛下、わたくしは自分の罪を認め罰を受け入れます」
「今後このような理不尽な行いは重い罰を下す、皆も忘れるな」
「陛下、身分を剥奪されたわたくしに慈悲を承りたく存じます。最後にこの国の民の一人として陛下にお伝えしたい事があります」
「最後だ、申してみよ」
「陛下の広いお心でお慈悲をお与えくださり誠にありがとうございます。
陛下、この国の民の一人としてこの国の発展を心から祈っております。そして、陛下のご活躍をそして健やかにお過ごしになさることを遠い国から祈っております」
陛下と王妃様の悲しげな顔が私の胸を締め付けた。10年、本当によくしてもらった。本当の娘のように接してくれていた。私も二人の義理の娘になりたかった…。こんな形でお別れしたくなかった…。
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