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しおりを挟む「ジュリアです」
「入って来なさい」
私は書斎にいるお兄様に呼ばれた。書斎に入ると、
「どうして…?」
「久しぶりだな」
「お久しぶりです、マティス様」
「ジュリア、マティス殿と婚約してくれるか?」
私はお兄様を見る。
「政略結婚の相手とは…」
「マティス殿だ」
「ですが他国のマティス様では…」
「ジュリアはマティス殿の国に行く事になる。もし嫌なら断ってもいい」
「はい…」
ソファーに座っていたマティス様が私の前まで来た。
「ジュリア嬢、初めて見た時、綺麗だと思った。それから貴女は諦めた顔をしながら、それでも前を向いた。その潔さに、自分の矜持の為にしっかり立つ貴女の姿に見た目だけでなく綺麗だと思った。
俺の本心は断ってほしくはないが、他国での生活は貴女にとっても簡単に決められる事ではないと思う。一度考えてほしい」
「分かりました。ですがマティス様は奥様を一途に思っていましたよね?どうして…」
「俺は亡くなった妻を愛している。俺は妻以外愛さないと思っていた。あの日貴女に会うまでは。俺が妻以外に好意を抱いたのは初めてだ。
この2年何度も貴女を忘れようとした。妻と暮らした家で妻以外を思う俺を妻は許さないだろう。
何度も葛藤した、俺の思いは憐れみか愛か。答えが出たのは最近だ。貴女が離縁したと聞いて俺は居ても立っても居られなくなった。俺以外の誰かと再婚するのかと思った時、俺は嫌だと思った。
俺が貴女を幸せにしたい、この思いは愛だと確信した」
私を真っ直ぐ見つめるマティス様の瞳を私も見つめる。
「亡くなった妻は今まで俺を支えてくれた愛する妻だ。そして貴女はこれから俺が支えたい愛しい人だ、それでは駄目か?」
「駄目では…ありま、せん、が…」
「気になる事があれば言ってほしい」
「私でいいんですか?」
「俺は貴女が、ジュリア嬢がいい」
マティス様の真っ直ぐ私を見る瞳を信じてみようと思う。
「これから私と関係を築いて頂けますか?」
「あ、ああ、勿論だ」
マティス様のはにかんだ笑顔。
それからマティス様は一週間この国に滞在した。一週間の間毎日会って話をする。
マティス様の国では恋愛結婚が多い事。それから亡くなった奥様との話。これは私が聞きたかった。3歳年上の奥様とは元々幼馴染みだった。幼い時から体の弱い奥様が懸命に生きようとしている姿に支えたいと思っていたのに結局支えられていたのは自分だったと。奥様は残り少ない時間をマティス様と過ごす事を選んだ。
『私は幸せだわ。だから貴方も幸せになる事を諦めないで』
最期に交わした言葉だと聞いた。
亡くなった奥様に勝とうとは思わない。奥様とは別の愛を私はマティス様と共に育んでいきたい。
『足掻け、諦めるな』
私を支えてくれたマティス様の言葉。私は足掻く、諦めない。
男性を信じられるのか、と聞かれたら本心は信じられない。言葉だけ、態度だけ、結婚したら変わる、それはアーロン様で経験した。
それでも信じなければ何も始まらない。人は強くて弱い。一人でも生きていける。それでも時には安らぎを求めたい。その安らぎを私はマティス様に、マティス様は私に、そんな関係になりたい。
国に帰ったマティス様とは手紙のやり取りだけ。荷と一緒に手紙はお互いに届く。短い手紙の時もあれば長い手紙の時もある。日常を伝えるだけの手紙。毎日一通お互い手紙を書く。それを2週間分まとめて読む。
私はマティス様の国の言葉を学園で習ったけどまたもう一度勉強している。他国に住むのに大事なのは言葉。言葉が話せないと誰とも会話は出来ない。マティス様の国へ嫁げば社交が待っている。侯爵家のマティス様を支えられるように私もなりたい。
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