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しおりを挟む私はネグリジェを脱ぎ下着を脱いだ。全裸になった姿でマティス様を見る。
「どうぞ、こんな体ですがお好きに」
マティス様が扉の所から私が居るソファーまで近付いて来た。
床に落ちたネグリジェを私に羽織らせた。
「貴女は貴族夫人としての矜持も無いのか!」
「貴族夫人としての矜持?そんなもの等に捨てました。そんなものを持っていて何になります?
今の私の矜持はアーロン様のようにならない事だけです。愛人を作るアーロン様のようにならない為に私は愛人を作らない。あの人のように落ちぶれないようにするのが今の私の矜持です」
「ならこれは」
「この行為に愛はありますか?ただの行為でしょ?それに貴方は私の愛人でもない」
「同じ事だろ」
「同じ?侯爵家を守る為です。侯爵家のメイド達の生活を守る為です。その為ならこんな体差し出します」
「どうしてだ。どうしてメイドの為にそこまで出来る」
「メイド達だけです。私を奥様と敬い味方になってくれるのは」
「そんな事当たり前だろ」
「ええ、当たり前の事です。私はアーロン様の妻ですから。ですがアーロン様から邪険な扱いをされてもそれでも私の味方でいてくれる。その優しさがどれ程私を救ってくれたと思います?その優しさが今の私を支えてくれているんです。だから私は落ちぶれない。愛人を作ってアーロン様と同じ土俵には立たない。それが今の私の矜持です」
「貴女は綺麗だ。見た目だけじゃなくな」
「ありがとうございます」
「俺は他国の人間だ。この国の事は分からないがそんなにこの結婚が大事か?」
「政略結婚なんてこんなものですよ。家と家の繋がり、ただそれだけです。お互い利があるから結婚したに過ぎません」
「利か、例えば?」
「私の実家は領地でワインを作っています。他国に手を広げたいお父様と他国に経路を持ち船を持つ侯爵家からすればワインは確実な収入を見込めます。お互いに利があります」
「他国に経路と船か…、それなら俺もある」
「マティス様は他国の人ですから勿論他国の経路はあります。ですがこの国では侯爵家以外との取り引きはありますか?」
「無いが作ればいいだけだ」
「商会を持っている家なら可能ですが知り合いに商会を持っている人はいません」
「商会を作ればいいだろ」
「そんな簡単に言わないで下さい。商会を作って上手くいく保証はないんです」
「貴女の実家にはワインがある。独自に経路を見つけれれば侯爵家を通さなくても済むだろ?」
「そうですが」
「他国の経路は俺に任せてくれ。船も俺の船に荷を積めばいい」
「お父様は頭の古い人なんです。繋がりこそが大事なんです。実家は伯爵家です。侯爵家に目を付けられたら貴族として暮らしていけません」
「俺も他国の貴族だ。繋がりを大事にするのは分かる。貴族には貴族の秩序がある、それも分かる。だけどな、時代は変わる」
「時代が変わるまで待てと?」
「当主が代われば考え方も変わる」
「アーロン様は変わりませんよ?」
「アーロン殿は前当主より悪くなった方だ。アーロン殿のやり方を良く思わない人もいるだろう。より強固にする事は反対に選択を奪う事だ。今の当主達はそれで良いかもしれないが次期当主になる者達にアーロン殿のやり方が受け入れられるかな?俺も受け入れられない方だ」
「ですがこの部屋に案内されて来ましたよね?」
「本当か確かめたかった。話は聞いていたが噂話なのか本当の話なのか」
マティス様は胸元から手帳を取り出し何かを書いて破った。
渡された紙切れ。
「俺の邸の住所だ。何か協力する事があれば連絡してくれ」
「ありがとうございます」
「当主が代われば時代は変わる。貴女は足掻け、諦めるな」
マティス様が部屋から出て行き、私は渡された紙切れを見つめた。
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