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後編
しおりを挟むそれから俺は色々な国を周り旅をした。色々な人達と出会い、ようやく落ち着ける国を見つけ暮らし始めた。
「ではその幼馴染みの女の子がフレドリック先生の初恋ですか?」
「初恋か…、そうかもしれないね。
ただ、私は彼女の望む者になりたかっただけなんだ」
そう私は彼女の望む者に、時には父になり時には兄になり時には友になった。
これだけは言える。
キャロルを思う気持ちは愛だ。
キャロルを守り慈しみ愛す
でもその愛は親のような兄のような友のような思いだったのかもしれない。
好きな人、そんな簡単な言葉で片づけられる思いではなかった。
俺が守る
その思いを貫き通した。
おじさんと何度言い合いしたか分からない。キャロルが結婚した夫、あの彼との婚約が決まった時はおじさんを殴りそうになった。『なんでキャロルが後妻なんだ』と。
でも大人の包容力でキャロルを愛した彼はキャロルの笑顔を取り戻した。そして私に言った。
『前妻とは上手くいかなかった私では君の信頼は得られないだろう。君がずっと守ってきた宝物を私は傷つける事なく守りきる。だから見ていてほしい。そして君が私を信頼できた時、私に受け継がせてはくれないだろうか。必ずキャロラインを幸せにする。キャロラインを愛する資格を私に与えてほしい』
そして1年後、彼はキャロルとの結婚を許してほしいと私に頭を下げた。
おじさんは不器用だ。娘の接し方が愛し方が分からない人だった。
だからと言って自分の娘に言っていい言葉ではないししていい行動ではない。
それは許されない事だ。
おじさんが怒鳴り散らす日は毎月決まってキャシーおばさんの命日の日だった。
『未だに自分を責めているの。自分が子を望んだからだって。あの時早く顔が見たいなんて言わなければ良かった。産まれてくるのを望まなければ良かった。そしたらキャシーは自分の身を取ったって。
でも母親はお腹に宿った子を生かす選択を誰もがするわ。それはキャシーだけじゃなく私もね』
子を産む、命を産むんだから命懸けだ。
元気な人が子を産み亡くなる事もある。体が弱くても子を産み育てる人もいる。
それでも命の選択を迫られた母親が選ぶのは自分よりも愛しい人との愛の結晶。
そしておばさんは子を選択した。
例え一瞬しか子の手を握れなくても、子の成長を見届けられなくても、命懸けで我が子を産んだ。そして力尽きた…。
きっと誰にも止められない。母親の強い意思の前では誰もが無力。
おじさんはどうにもならない憤りを、愛しい人の命を奪った娘を、命日だけは視界に入れたくなかった。
『ジムは愛し方が下手なの』
でもそんなの詭弁だ。
母上が言ったように確かにおじさんの愛し方は伝わらない。おじさんの机の鍵のかかった引き出し。キャロルの姿絵が何十枚と入っている。産まれたばかりの頃からずっと。それは今後も増え続ける。
娘を愛していない訳じゃない。愛しい人が残した一粒種。そこに愛はあった。
それでも日々成長する我が子とどう向き合っていいのか、どう向き合えばいいのか分からなかった。
母上が言った言葉『私がジムから取り上げた』産まれたばかりの子を生かす為に母上が行った行為。愛しい人を亡くし悲しみにくれるおじさんにキャロルの存在は頭になかった。それでもキャロルの存在がおじさんを生かし続けたのも事実だ。
あの時、産まれたばかりのキャロルの泣き声を聞いたら、愛しい人がおじさんに託したキャロルを抱いていたら、今は違った親子関係になっていたのかもしれない。
母上が取った行動を責める事はできない。赤子は一人では生きられない。おばさんが急に亡くなり慌ただしかった子爵家でおじさんの代わりに執事が動いていた。乳母がいない状態で母上が乳をあげ育てなかったらキャロルは生きられたのか。
『亡くなった人の悲しみを乗り越えるのは同じ痛みを背負い共に手を取り合い支えながら乗り越えるしかない』旅の途中、子を亡くした夫婦が言っていた。
でもおじさんは妻をキャロルは母を、その二人がどう支え合い乗り越えるのか。
産まれたばかりのキャロルがおじさんの支えになりおじさんは赤子のキャロルをおばさんの分まで育てたら…
でもそれは理想論だ。
この世で一番愛しい人が亡くなる、その悲しみはその人にしか分からない。絶望、その前で一粒種を見せた所で目に入るのか。
愛しい人の死を受け入れられない人に『おめでとうございます、娘さんですよ』そんな言葉が届くのか。
『よく頑張ったな』その場にいた人達は泣きながらおばさんを労った。『産まれた子を恨むのは違う。キャシーは命懸けで託したんだ、この子の命を守ってくれと』おばさんの両親はおばさんから離れなかった。おじさんの両親は私を産んで数ヶ月の母上に産まれたばかりの子を託した。『この命を守ってくれ』と。
おじさんが悲しみにくれるのはいい。でもおじさんの駄目な所はその後、キャロルと向き合わなかった事だ。
おじさんにとって産まれたばかりの赤子だった我が子が突然幼児になって現れた。1年、成長が止まった大人には変化はない。でも赤子は日々成長を続ける。
戸惑い目を反らした。どう触れていいのか、1年育てる事を放棄した自分が触れていいのか、初めての子でおじさんも親になれていなかった。
『子が親にしてくれるんだ』そう言った人がいた。
おじさんは親として半人前。姿絵を撫でるなら直接撫でれば良かったんだ。姿絵を抱きしめるなら直接抱きしめてやれば良かったんだ。
目の前で父上が私達を抱き上げたように、いや、だから出来なかったのかもな。自分には親の資格がないと思っていたから。
そしておじさんは私ではキャロルを幸せに出来ないと言った。私の愛は違うと、一人の女性を愛おしく思う気持ちではないと。
実際キャロルは後妻でも幸せになれた。彼の家では彼の両親からも使用人達からも歓迎された。
今でも思う。
この思いはどんな感情だろうと…。
あれから50年、旅した国や出会った人達の経験をいかし、この国で私は物書きとして生きている。
一人になった私は部屋の窓から外を眺める。
何年経っても、何十年経っても、毎日私は願うよ。
「君は今日も幸せかい?」
完結
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ちゃっぴ〜様
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